第4話 謎の施設とモンスターの正体
どうやら、僕が帰宅するまでにすっかり二人の間で話はついていたらしい。どう言うやり取りがあったのかは分からないけど、母親が頼りにならない事だけは確かなようだ。
こんな展開、物語の中だけであって欲しかったよ……。
結局、僕とパルはそのまま車に乗せられてしまう。僕が一緒だと、パルも全く抵抗する素振りを見せなかった。
移動中の車の中で、僕はパルの背中を優しくなでながら大人しく助手席に座っていた。黙って外の景色を眺めていると、運転しているスーツの人から質問攻めにあってしまう。
「A251とはどこで?」
「学校の帰り道で……」
「すぐにあなたに好意を持った?」
「えぇと、すり寄ってはきましたね」
パルがすぐに懐いたと言う事実にスーツの人は納得がいかなかったのか、ここからしばらく言葉は返ってこなかった。
そうして少し静かになった後、また質問は再開される。
「それで、他に生き物には遭遇しなかった? 大きなモンスターみたいな」
「あれもあなた達が作ったものなんですか?」
「やっぱり出会っていたのね。無事で良かった」
「話をそらさないでください!」
質問はそれからも続いたものの、肝心な事には全く答えてくれず、心の中のモヤモヤは濃くなるばかり。いい加減うんざりしていたところで、車は研究施設っぽい建物に入っていった。
施設の地下駐車場で車は停まり、僕らはそこからスーツの人に先導されて施設内に入る。
出来てまだ日の浅いっぽい真新しそうな施設の壁は漂白したての洗濯物のような白さで、まるでSF映画のセットのようにも見えた。そんな通路をずんずんと無言で歩いていった先の部屋に僕らは通される。
この道中、胸に抱いたパルは本当に大人しくしていた。その態度から考えると、この場所が嫌になって逃げ出したとかではないって事なのだろうか?
案内された部屋は学校の教室くらいの広さがあり、中では白衣の博士っぽい人がいて、ちょこんと座っている。きっとあの人が説明担当なのだろう。
ここまで案内していたスーツの人はここでお別れのようで、ドアから先には入らず博士にペコリと頭を下げると、ドアを閉めてどこかに行ってしまった。
えっと、知らない人と2人っきりって、ちょっと緊張しちゃうんですけど。
僕は博士と向かい合う形で用意されていた椅子に座る。博士はすっと立ち上がると、ニコニコと笑顔を向けながら僕の真正面まで歩いてきた。
「わざわざ来てもらって悪かったね。僕の名前は岸田繁。あ、別に覚えなくていいよ。ある研究でそのA251を作った男さ」
「ぼ、僕は水谷
「ああ、君にはその資格があるからね……」
岸田博士はそう言うと、僕に向かって優しい口調で語り始めた。
「数年前、ある科学者が画期的な発明をしたんだ。研究者の名前をとってそれは……」
「アズマシステムですか?」
「そう、アズマだ」
アズマシステム――数年前に東博士が提唱した新しいエネルギーシステム。それは完全無公害で完全リサイクルの画期的な発明だった。世界は一気にこのシステムに書き換えられて、古い仕組みは急速に廃れていったのも記憶に新しい。
たった数年で、世界はひとつの危機をクリアしたって先生もよく話していた。
「彼は僕の友人なのだけど、このシステムによって世界のエネルギー事情は一変したよね」
「その話がパルとどう言う関係があるんですか?」
岸田博士は軽く咳払いすると、手元のPCを操作して背後のスクリーンに映像を映し出す。
「実はこの技術には別の世界、そう、異世界との境界を曖昧にする副作用があったんだ。だから僕はすぐに使用を中止するように進言したよ。受け入れられはしなかったけどね」
「でもアズマは世界中に普及して、今まで何の問題も……」
「ああ、そうだね。表向きは何も起こってはいない」
「じゃあ何かあるんですか?」
僕の質問に博士はちょいちょいっと手元を操作して、別の画像を表示させる。
「これを見て欲しい。この世界と別次元の断層の図解だ。アズマによってここの境界が影響を受ける。すると位相が不安定になって穴が空いてしまうんだ」
「それってもしかして……」
「ああ、君が出会ったモンスターは異世界の野生動物なんだよ」
「アレがそうなんですか?」
話の規模が理解の範疇を超えてしまい、僕は博士の言葉を軽く疑ってしまう。実際にモンスターを見たって言うのに。
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