第3話 子猫の正体と謎のスーツのおねーさん
少し嫌な予感は感じつつも、きっと母親の関係者だろうと思った僕はそのまま特に警戒心も抱かずに家に向かう。
スーツの人は近付く僕に気付き、いきなり声をかけてきた。
「A251を確認。ご協力感謝します」
「え?」
「早速ですが、その生き物を渡してください」
「は?」
スーツの人は女性で、全身黒でビシッと決めていて、おまけにサングラスと言う怪しさ100%の出で立ち。身長も165センチの僕より高くて、謎の威圧感を放っている。
その断定する言葉の圧に負けて言いなりになりそうになるのをぐっと耐えて、僕は精一杯の抵抗を試みた。
「こ、これは僕が拾ったただの子猫です。A何とかとは違います!」
「君にはただの子猫に見えているかも知れないが、それは違うんだ。今まで自然界に存在した生き物じゃない。我々にとって大事なものなんだ。分かって欲しい」
「見てくださいよ! どう見ても普通の子猫……」
僕はスーツの人に生き物違いだと証明するために抱いていたパルをばんにゃい状態にする。だらーんと伸び切った子猫は、しかし普通の猫にない特徴を示していた。
「あれ? 羽?」
「羽だけじゃありません、目もよく見てください」
言われるままに目をじいっと覗き込むと、青白い炎が燃えているみたいなビジュアルが瞳孔の中で展開されている。少なくともこれが猫の瞳の特徴ではない事だけは明らかだった。
僕は猫である事を証明しようとして、逆に猫でない事を明確にしてしまったらしい。じゃあ、パルは一体……。
「A251は現在世界でただ一体の成功種。唯一の希望と言っていい。しかしまだ調整が必要なのです」
「でもこいつ、すごく傷だらけだったんだけど……。そっちで何かやらかしたとかじゃないんですか?」
「ええ……それはこちらの落ち度です。しかし詳細は話せません」
「怪しい。そんな怪しい人にこいつは渡せません!」
猫っぽい謎の生き物は確かにこのスーツの人のものなのかも知れない。だからと言って、あんなに傷だらけにしたのもこの人のせいなのだとしたら、やっぱり渡す訳にはいかない。
僕はもう一度しっかりパルを抱きしめると、スーツの人の要求をきっぱりと拒否。そのまま強引に家の中に入ろうとした。
「待ちなさい!」
「キシャアアーッ!」
スーツの人の手が僕の肩にかかろうとした瞬間、それに反応してパルが威嚇する。そのまま抱いていた僕の腕から飛び退き着地すると、スーツの人に向かって腰をふりふりしながら戦闘態勢をとった。この突然の状況にスーツの人も動揺して動きが固まっている。
僕はさっきのモンスターの事を即座に思い出し、パルが人を襲わないようにとすぐに声を上げた。
「パル、やめろ!」
「ふにゃあ?」
言葉が通じたのか、パルは素直に戦闘態勢を解いて僕の顔を見上げる。大惨事が起きずに済んで、僕は胸をなでおろした。
パルが僕の命令を聞いた事実にはスーツの人も驚いたようで、しばらく無言になってしまう。
「これは……もう繋がってしまっていたのですね」
「えっと、それはどう言う……」
「それでは一緒に来てください。あなたにも協力してもらわねば……」
さっきのやりとりでスーツの人は態度を変え、僕までどこかに連れて行こうとし始めた。まださっぱり状況の把握出来ていなかった僕は、この話に乗るとどうなってしまうのかすごく怖くなる。
そこで、さっきからずうっとこの様子を傍観していた保護者に助けを求めた。
「母さん、ずっと見てないで何とか言ってよ!」
「だってこの人、政府のエラい人らしいのよ。だから協力してあげて」
「ちょ、そんな……」
「ご協力、感謝します」
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