夏木ノスタルジア~苦悩葛藤決意の夏

 この世の中には、苦しんでいる人、悲しんでいる人、困っている人などを見て見ぬフリをする人たちがいる。それどころか、自分の利益のために他人を犠牲にする、つまり悪人という人たちもいる。


 俺にはその人たちが理解出来ない。


「おばちゃん、持ちますよ」


 夏休み。連日続く猛暑日。近頃では熱中症でバッタバッタと倒れる人も続出し、ニュースやSNSでは対策を必死に呼びかけていた。そんな日。


 歩道橋の階段を、よいしょよいしょと苦しそうに歩くおばちゃんを見て、俺はいてもたってもいられずに声をかけた。


「ああ、ありがとうねえ」


 おばちゃんは俺に笑いかけた。しわくちゃの顔。顔は赤く、汗がダラダラと流れている。


「おばちゃん。大丈夫? これ飲んだ方が良いよ」


 俺は持参していたスポーツドリンクを差し出した。買ったばかりでまだ口をつけていない。丁度良かった。


「ええ。いいよいいよお。大丈夫だから」


 おばちゃんは遠慮する。しかし、はたから見てもそれどころではなさそうだ。


「大丈夫じゃないよ。熱中症で倒れている人、沢山いるんだから。水分補給は基本だよ。ほら」


 と俺は半ば強引に差し出すと、おばちゃんは渋々受け取って、それを口にした。そんな様子が物珍しいのか、横切って行ったおじさんがこちらを見てニコニコしていた。


「それ、あげるからさ。ほら、さっさと歩道橋渡って日影に入ろう」


 俺はおばちゃんの荷物を受け取って、おばちゃんを先導する。やがて歩道橋を渡りきって、建物の日影に移った。


「ありがとうねえ。お名前、なんて言ったかしら」

「夏木だよ。気にしなくて良いよ。はい、荷物」


 そして俺は、ふうっと一息ついた。たらりと汗が流れる。炎天下、年寄りのペースで長時間日光に当たっていれば、誰だってそうなるだろう。


 俺はもう一本持参していたスポーツドリンクを開け、ガブガブと飲んだ。


「夏木君は優しいねえ。モテるんじゃないのかい」


 おばちゃんの顔はニヤニヤ笑っていた。冗談を言えるくらいには、楽になったらしい。このまま放って行ってしまえば、またこのおばさんは無理をするかもしれない。せめてもうちょっとだけ傍にいた方が良いだろうと、俺は話に付き合うことにした。


「ええ。まあ、それなりにね」


 少し恥ずかしかった。でも事実だ。恋人に加え、俺に好意を抱いてくれている人がもう一人。モテていないなんて言ってしまったら、二人に失礼だ。


「良いねえ。恋人はいるのかい」

「はい。俺には勿体ない程良くできた奴なんです」

「へえ。自慢の彼女さんだ。どんな子なんだい」


 蝉が喧しく、日陰でもそれなりに蒸し暑い中、それでもおばちゃんとの会話は何だか心地が良かった。


「そうだ。これ、見てくださいよ」


 俺は何だか自慢してやりたくて、鞄から雑誌を取り出した。そしてペラペラとページをめくっていく。


「ほらここ。この子が俺の恋人なんです。凄いでしょう」


 俺が指差したページには、夏のコーデと称し小綺麗に着飾って、クールにポーズを決めている春野が載っていた。他のモデルと引けを取らないほどに美人だ。


「ええ、本当かい? 見栄を張っているんじゃないのかい?」

「いやいや、本当ですって。ほら」


 俺はスマホで撮った写真を見せた。その写真は俺と春野が、身を寄せ合ってカメラにキメ顔を向けている写真だった。


「おやおや本当だ。凄いねえあんた。こんな子と付き合えるなんて」

「ええ、本当に。さっきも言いましたけど、だから俺には勿体なくって」


 雑誌に写る春野を見つめる。本当に綺麗だ。完璧な容姿だ。それに加えて運動神経は抜群だし、勉強だってそうだ。成績は俺よりちょっと下くらいだけど、そもそも春野はあまり身を入れて勉強をしていない。俺が勉強を教えたりするけど、彼女の理解力にはたまに関心するときがある。春野が本気を出して勉強を始めたら、俺よりもずっと良い大学に合格できてしまうかも知れない。


「本当に、良い彼女なんです」


 そう言いながら、俺は少し心が痛かった。


 昨日、俺は秋音の発明の所為で女の身体になった。そんな俺を、春野は受け入れてくれなかった。その事実が、何だか悲しいのだ。


 それでも、最後には俺を思って春野も秋音が作ったものを飲んでくれた。それは嬉しかったから、笑って許した。でも、内心では納得出来ていないのだ。


『はあ。夏木ぃ。可愛い顔になりやがって』


 不意に男になった春野に押し倒されときの光景がフラッシュバックした。下品に破顔させた顔でこちらを見つめてくる春野は、少し怖かったのを覚えている。


 でも、あの時は媚薬でおかしくなっていた。男子の欲望が暴走していた。あれは春野の本性ではない。


「その子と、上手くいってないのかい?」

「いえ。そういう訳でもないんですが」


 あの帰り道。俺と春野は確かに笑い合っていた。この先もずっと恋人のままだし、俺の春野に対する気持ちだって変わらない。それは春野も同じはず。


 なのだろう、か。春野の気持ちって、もしかして俺が思っているよりも軽いんじゃないだろうか。


「ちょっと、恋人の気持ちがわからなくなっちゃったかな」

「ふふ。やだもう。青春じゃない」


 おばちゃんは大層楽しそうに笑う。


 でも俺にとっては笑い事じゃない。俺と春野は釣り合っていない。春野と違って、俺はイケメンじゃないし運動神経は並みだ。勉強は良い大学に入ろうと頑張ってはいるけれど、パッとしない。どうやらセックスにも不満があるらしい。


 だから俺は不安だ。いつか飽きられて、捨てられてしまうんじゃないか。


「男女が相手に不安になっちまうのはね。大抵、話し足りてないんだよ」

「そうですか? もう話のネタ探しに苦労するくらいには、話しまくってますけど」

「いやいやそうじゃないよ。心の底からの、嘘偽りのない会話だよ」


 心の底からの、嘘偽りのない会話。


「まあつまりは、お互い何を考えているのか、もっとよく話せってことだ」

「難しいですね」

「でも、いつかはしなくちゃならないよ。例えばお互いの関係の話。高校を卒業しても、関係はそのままなのか。お互い別々の大学に行っても、そのままなのか。就活が始まったら。仕事に就いたら。そして、結婚はどうするか。全部いつかしなきゃいけない話さ」

「高校を卒業したって、別れる気はありませんよ」

「ほうそうかい。まあこれは例え話だよ。今まで、敢えて触れてこなかったこととか、ないのかい?」


 そして俺は黙った。今まで敢えて触れてこなかったこと。少なくとも一つある。


 秋音のことだ。


「あるんだね」


 俺の様子を見て、ばあちゃんが言った。


「じゃあまずは、その話をすると良い。本心で話し会うことに慣れることだよ。そうすれば自然と、あれも話さなきゃ、これも話さなきゃってなるからね」


 そしておばちゃんは、少し表情を曇らせる。


「それを怠ったら、すぐにマンネリ夫婦が出来上がっちまうよ」


 俺はようやく、実体験からの教訓だったことを悟る。





 太陽が雲に隠れて、街全体が薄暗くなった。俺とばあちゃんはこれを機に、お互いの目的地に向かうことにした。


 ばあちゃんと手を振って別れ、俺は目的地に向かう。と言っても、春野は読モのバイトだし、秋音は連絡がつかないから、暇つぶしに駅前の書店に向かうだけだ。


 その道中。喫茶店の前を通りがかる。その喫茶店内を不意に見たら、知らないおじさんと秋音が二人用の席で向かいあっていた。


 なんだなんだ。


 秋音は人見知りだ。秋音の兄であるタカにいに対してさえ未だに吃る程だ。そんな秋音が喫茶店でおじさんとお茶を飲んでいる。異常ではないか。


 俺は立ち止まってその様子を観察する。


 秋音の私服を久し振りに見た気がした。そうか。幼馴染だけど、いつからか休日に遊ぶことは無くなってしまったのか。


 休日は春野に会うことを優先してしまっていた。恋人だし、俺も春野に会いたいのだから仕方がない。でも恋人が出来たからと疎遠になってしまっていたのは、中々薄情だったのかもしれない。


 それでも秋音は俺のことが好きだと言う。鬱陶しい、迷惑だなんて、思える訳がなかった。


 さて、秋音に向かい合って座っているおじさんを見る。ワイシャツにズボン。そこそこ良さげな腕時計。ビジネスバッグ。良かった。イケナイ関係という訳でもないらしい。


 俺が見ていると、すぐに二人は立ち上がって店を出た。そしてお互いに別々の方向へ歩き始める。


 俺はおじさんの後を追った。秋音の姿が充分遠くなったところで、声をかける。


「うん? 君は?」

「秋音の幼馴染です。あの、俺も話があるんですが」


 もしかしたら仕事中だったのかもしれない。だとしたら断られるかも。


「ああ、いいよ。じゃあもう一回そこの喫茶店に入ろうか」


 意外と気さくな人だった。そのまま俺とおじさんは喫茶店に入って、先程秋音と座っていた二人用の席につく。店員に注文を済ませると、おじさんが口を開いた。


「そうか。君、彼女の幼馴染だったのか」


 ニコニコ笑っておじさんは言った。


「秋音と、何を話していたんです?」


 早速本題に入る。


「仕事の話だよ。詳しくは言えない。知ってる? 彼女、天才なんだよ」


 そして名刺を差し出してきたので、俺はそれを見た。最近、世界トップ10にのし上がってきた中国のユニコーンIT企業の社員だった。給料はかなり貰っているはずだけど、その割には普通の格好をしている。腕時計もそこそこ良さそうではあるが、その程度だ。


 詳しく話を聞けば、秋音によく仕事の依頼をしているらしい。女子高生に仕事の依頼なんて、と思うが秋音の開発力は普通ではない。それは大企業の目から見てもそうだったらしい。


「彼女は凄いよ。高校を卒業したらウチに来て欲しいって頼んでいるんだ」


 それは秋音にとってかなり良い話だと俺は思った。しかし、おじさんは苦笑していた。


「でもね。どうやらウチよりも大きな企業に声を掛けられているみたいなんだよねえ。君、何か聞いていない?」

「いえ。でも、そうか。高校を卒業したら、秋音は遠い人になっちゃうのかもなあ」


 幼馴染の将来は安定していた。勝ち組コース一直線だ。


「まだ君は高校生だろう。でもそうか。そろそろ進路を決めないといけない時期だね」

「はい。先生からも散々急かされていまして。実際、焦ってますよ」

「はは。まあ身近な人が凄いと、比べちゃって焦るよなあ。わかるわかる」


 朗らかに笑うおじさん。なんだろう、妙に話しやすい。これができる奴のコミュ力なのだろうか。


「彼女は天才だった。そんな彼女と張り合う必要はないんだよ。君は君なりに努力して、君らしい道を進めば良い」


 そんな笑顔で放たれる言葉は、何故か説得力があった。この人自身、勝ち組だからだろうか。よく考えてみれば、成功者が俺にアドバイスをしているのだ。本来ならば自己啓発本として金にできる程の内容なのかも知れない。


「でも俺、まだ将来何になりたいのか決まっていないんです」

「はは。だから君はまだ高校生じゃないか。確かに考えなくてはならないことだよ。でも思い詰めてしまう程焦らなくても良いんだ。出来るだけ良い大学に入学して、その大学に通っている間に考えたって良い」


 それは俺がとりあえず、しようとしていたことだった。


「私の知り合いには、大学を中退して専門学校に入学した奴だっていた。そいつはそれなりに努力を強いられていたけれど、無事に幸せを手に入れていたよ」

「そうなんですね」

「ああ、そうだ。警告をするとすれば」


 アドバイスではなく、警告なのか。


「どうすれば幸せになれるか、考えて努力することをやめちゃいけない。まあだから、今の君は正しいよ」


 ニッコリと笑うおじさん。俺はすっかりその笑顔を信用してしまった。知り合ったばかりだというのに、親身になってアドバイスまでしてくれるものだから、会話が物凄く心地良い。


 コーヒーを飲み終えて、話の区切りも付いた。そろそろ切り上げ時か。


「なあ。私が思うに、君には人助けになる仕事が合うと思うな」


 おじさんが伝票を見ながら、そんなこと言う。


「実はね。さっき君を見かけていたんだ。おばさんを助けていただろう」


 そして俺は思い出す。そういえばおじさんが一人横切っていた。その人が、この人だったのか。


「まあ、適当な発言だよ。あまり気にしなくて良い。でも、おばさんを助けていた君の表情は、とても良かったと思うよ」


 会計はおじさんが済ませてくれた。有無も言わさず奢られてしまったらしい。





 何だか、今日は良い出会いが多い。一期一会という感じだ。おかげさまで、いつの間にか気持ちの整理ができてしまった気がする。


 おじさんと別れた俺は、その後無事に書店に着いた。


 そして俺は本棚に並ぶ本を眺める。眺めながら、将来のことを考える。


「人助けになる仕事、か」


 困っている人を見て見ぬフリをする人が、俺には理解できない。でも、他人を助けるということは世間的に普通ではないらしい。だからおじさんも、俺に人助けになる仕事を進めたのだと思う。


「警察官、か……」


 真っ先に浮かんだ職業が、それだった。


 俺に正義感なんてものは無いはずだ。ただ、警察は人を助けるし、悪い人を懲らしめる職業だ。そう考えると、うってつけのような気がした。


「警察、良いかもしれない」


 カチリとピースが噛み合ったような感覚がした。俺は早速参考になる書籍が無いか本棚から見繕う。


「あ、そうだ」


 俺はスマホを取り出して、ラインを立ち上げた。そして春野にメッセージを残す。


「仕事終わるまで待ってる、っと」


 俺はスマホをしまって、書籍を見繕う作業に戻った。





 春野がやってきたのは、日が暮れた頃だった。


「ご、ごめん夏木。待った?」

「い、いや。そんなには……」


 そして、沈黙。昨日の今日だからか、何だか気まずい。


「ど、どうしたの? 急に会いたいって」

「ちょっとな。話があって」


 俺が答えると、途端に春野は深刻な表情をした。


「そう」


 そして、秋音並みに低いトーンで、そう短く言った。


「家まで送るからさ」


 すると春野は俺の隣に並ぶ。


 俺はちょっとだけ勇気を振り絞って、春野の手を握り、歩いた。


「夏木……」


 驚いたような、嬉しいような顔をして春野は呟く。不思議なことに、手を繋いで歩くのは久しぶりだっ

た。


「春野はさ。将来の夢ってあるか」


 そう口にした俺は、何だか今更な感じがした。俺は恋人じゃないか。どうしてそんなことも知らなかったのだろう。


「私の将来の夢はね。売れっ子のモデルになること。あの子の彼氏になった人は幸せだなあって、全ての男性に思われること」

「春野。それって」

「まあ、要するに。夏木のお嫁さんとして恥ずかしく無いような、女になるってことよ」


 中々嬉しいことを言ってくれたので、俺はちょっと恥ずかしかった。


「芸能事務所から声を掛けられているんだっけ? 売れっ子は確実だな」

「ふふん。この私よ? 当然よ」


 やはり春野は春野で、いつだって自信満々だ。


「夏木は? もしかして悩んでいるから聞いてきたの?」

「いや、さっき決めたんだ。俺は警察官になる」

「ええ! 夏木が警察官!? ああでも、お似合いかもね」


 そして俺たちは笑い合った。


「なあ。秋音は大企業に声を掛けられていたよ。すげえよな」

「まあ、あの子は天才だからね。凡人の私たちは、らしく生きましょう」

「お前は凡人じゃないだろう。読モって、お前」


 しかも優れているのは容姿だけじゃないから、タチが悪い。


「ふふん。この私よ? 当然よ」

「さっきも聞いたよ、それ」


 住宅地に入った。人通りは少なくなる。夕暮れ時だから、ランニングをしている人や、ペットの散歩をしている人たちが通り過ぎていく。蝉はまだ鳴いていた。しかし昼間よりも暑くはない。


「なあ、春野」


 心の底から。嘘偽りなしで。俺はそれを決意して、口を開く。


「俺は、秋音のことが好きだ」


 住宅地に、俺の言葉が静かに通り過ぎていく。そして春野は、その言葉によって立ち止まった。


 向かい合う俺と春野。春野はただ俺を見つめていた。無表情だ。


「うん。何となく、知ってた」


 ただ、そう言うのだ。


 そうだよ。春野は知っていたんだ。ずっと、ずっと。だから不安だっただろう。いつ俺が春野を捨てて、秋音と付き合ってしまうのか。気が気でなかっただろう。


「知ってたのに、俺と付き合ってくれていたのか」


 俺は言うと、春野はほろりと涙を流した。夕日によってキラキラと光っている。


「そうだよ。だって……」


 その瞬間、春野は破顔する。


「それでも、私は夏木が好きだから」


 その言葉は上ずっていて、涙以上に気持ちが溢れていた。


「好きな人と、一緒にいたいじゃんかあ!」


 春野はデタラメにそう叫んで、そしてその場に座り込んでしまう。


 分からなかった春野の気持ちが、よく分かった。そうだよ。春野はずっと俺の為に我慢してくれていたんじゃないか。そんな彼女の気持ちを疑うなんて、どうかしてる。


「春野。俺は秋音のことが好きだけど。でも、それ以上に春野が好きだ!」


 こんな都合の良いセリフを、言いたくなかった。でも言わなきゃいけない。そんな状態にしてしまう程に、俺は駄目男だったんだな。


「そんなセリフで足りるかぁ! バカぁああああ!」


 春野は物凄い形相で俺の胸ぐらを摑みかかる。


「どれだけ不安だったと思ってるんだよぉおお! どれだけ泣いたと思ってるんだよぉおお!」


 叫びながら俺の胸ぐらを感情のままに揺らす。あまりにも激しい訴えに、俺まで泣きそうになった。


「ごめんよ春野。ごめん……」


 そして俺はギュッと春野を抱きしめる。もうどうしようもなくて、そうするしかない。


「じゃあもっとキスしろよぉお! もっと手を繋げよぉお! いつまでセックスに気を使ってるんだよぉお! そんなんじゃ、全然感じないんだよぉお!」


 俺の胸に顔を埋めたまま、泣き喚く春野。


「ごめん。これからはもっとキスする。もっと手を繋ぐ。セックスは、とにかく頑張るから」


 春野の頭を撫でる。髪はすっかり乱れていた。


「これからも秋音から色々されると思う。でも、俺を信じてほしい。何が何でも、俺は春野と別れない。絶対に、絶対に」


 すると、春野は埋めた顔を上げて、上目遣いで見つめてきた。


「今日は、いつもより優しくしろ」


 いじけたように、口を尖らせ言う。


 妙に顔が紅いのは、夕日の所為ではないだろう。

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