短小ダイナマイト~大きくなあれ萌え萌えキュン

 愛する人とのセックスは気持ちが良い。


 最初はそうだった。


 しかし快楽は慣れてしまうものだ。

 

 それを一度自覚してしまえば、セックスを重ねる度に、その人に対する不満点が気になってくる。


「え、今なんて」


 終業式の日。ホームルームが始まる前頃の理科室。妙ちくりんな液体が入った二本の試験管を両手に持ちながら、秋音が言った。一見、無表情に見えるその顔も、眉間に皺を寄せており不機嫌さを伺えた。


「いやさ、だからね」


 まあ聞き返してしまうのも無理ないだろうと、私は再度口にした。


「夏木のアソコがね、小さいのよ」


 その言葉を聞いた秋音は、はぁっと大きなため息をついた。


「あのさ春野。それを私に言ってどうしろっていうのよ」


 低刺激で低トーンな声に、僅かな怒りが含まれていた。


「春野は恋人だよね。なら夏木に直接言って、本人に頑張ってもらうしかないじゃない」


 秋音が正論を言う。普段はトンチンカンなことをしでかす奴に言われると、なかなかイラッとくるな。


 しかし怒ってはいけない。今日は秋音に、頼み事をしに来たのだから。


「そこでさ秋音。夏木のアソコ、大きくなるような装置を開発してよ」

「ええ……やだ……」


 本気で嫌そうな声を上げる秋音。まあ、想定通りである。


「よく考えてみてよ。秋音が私から夏木を奪ったとして。あなたも夏木のアソコに悩まされるのよ」

「うーむ。そうかも知れないけど。でも私処女だから、小さい方が良いかも」

「私だって処女だったわよ。あ、因みに夏木も童貞だったわ」


 そんなつもりはなかったのだが、日頃の鬱憤もあった所為でつい煽ってしまった。秋音を見たら、頰を赤らめて、顔は俯き、目は上向きに、眉は逆はの字になっていた。秋音の怒った顔である。


「ごめんなさい。言い過ぎたわ。でもね秋音。より一層あなた好みの夏木に変えられる発明の一環と考えたら良いじゃない?」

「ふむ。発明の一環ねえ……」


 秋音は顎に手を当てて思案する。すると見る見る表情が下品なニヤけ顔に変わっていく。


「私好みの夏木……ムフッ……ムヘヘ」


 相変わらず気持ち悪い笑い方をするなあ。


「良いよ。わかった。でも私の開発って特に必要な材料の入手が大変なの。だからそれを手伝ってほしい」


 と秋音は提案してきた。まあ頼んだのは私だから、断れないな。それに秋音の発明は凄いから、材料が入手し難いのも納得できる。


「具体的には、どうしたら良いの?」

「浅草に私がよく使う材料を扱っている知り合いがいてね。話は通しておくから、その人から材料を受け取ってきてほしいの」

「ええ。わかったわ。じゃあさっそく明日行ってくるから」


 話は通しておいてね。と言ったところでチャイムが鳴った。朝のホームルームが開始される。そしてその後、延期された就業式が始まるのだ。


 私たちは握手を交わし、教室へ向かった。





 そして夏休みに入った。夏木と行った海水浴の時に唱えた”アソコが大きくなる魔法”も効果は一向に表れることもなく、数日が経った頃。


 秋音からラインが届く。


「例のやつ。できたよ」


 ガタン、と私は勉強机から立ち上がった。私は秋音と綿密に計画を練り、夏木を理科室に呼んだ。そして私も制服に着替えて家を出る。


 本日も猛暑日だった。カンカンに照りつける日差し。その日差しを遮る雲が一切ない青空。そして喧しい蝉の声。


 しかし私はその暑さに怯むことはなかった。むしろ好都合だった。私は到底人に見せられないような、そう、秋音のような下卑た笑顔を浮かべて学校へ向かった。


 学校に着くと、運動部の掛け声が薄っすらと聞こえてきた。カキン、カキンと金属バットと硬いボールがぶつかったような音が何度も響いている。


「春野っ!」


 声を掛けてきたのは夏木だった。丁度一緒のタイミングだったらしい。ふふ、計画通りだ。


 私と夏木は並んで理科室へ向かった。ひっそりとした校内は、何だか新鮮だ。



 廊下を歩いていると、妙な声が聞こえてきた。


「ヒクヒク動く♪ お尻の穴よ♪」


 それは良く聴いてみると、きらきら星のリズムだった。


「瞬きしては♪ 夏木が見てる♪」


 鼻歌だった。しかも歌詞が変えられている。私は嫌な予感がして、早歩きで理科室のドアへ向かった。


「ビラビラ濡れた♪ おまん……」


 いけない。


「やあ秋音っ! 待たせたわねっ!!」


 理科室特有のだだっ広い教卓。その前に秋音はいた。私が大声で遮ったものだから、キョトンとした顔でこちらを見ている。


「秋音ぇ。実験ってなんだよ。ただでさえ暑いってのに」


 そんなことを言いながら、後から夏木がやってきた。すると秋音はキョトンとした顔を一変させ、あからさまに嬉しそうな表情を浮かべた。


「やあ夏木、春野。良く来てくれたね」


 そして秋音はいつもの調子で、そんなことを言った。相変わらずダサい眼鏡を掛けいる。髪の毛はボサボサだ。そして、こんな日でも白衣を着ていた。


「暑かったでしょう。ほら、ビーカーで申し訳ないけど」


 教卓の上には二つのビーカーが置かれていた。両方とも黄色い色をしている。片方はただのお茶だ。そしてもう片方は……。


「ほら、春野」


 秋音が私に片方を差し出す。予め示し合わせた通りなら、これがただのお茶のはずだ。


「はあ暑い暑い。汗沢山かいちゃったあ!」


 大袈裟に私は言って、見せびらかすように差し出されたお茶を飲んだ。グビグビと喉を鳴らし、やがてそのお茶を飲み干した。


「ふう。俺も飲もう」


 秋音からビーカーを受け取って、夏木はグビッとそれを飲んだ。


 ビーカーに入っている液体が半分くらいになったところで、夏木は飲むのをやめた。


 口角が緩むのを、私は必死で抑えた。


「さて今回の実験は、今飲んでもらったやつなんだ」

「はあっ!?」


 秋音がネタバラシすると、夏木が声を上げた。


「そろそろ効果が表れる頃だと思うけど」


 などと秋音が言っている間に、既に夏木に異常が起きていた。


「ぐっ……!」


 そんなうめき声を上げながら、夏木は胸を押さえて蹲った。


「ぐあぁあ!」


 天を仰いで叫ぶ夏木。夏木のアソコが徐々に大きくなっていく。


 はずだった。


 当初の予定と違い、変化は夏木の身体全体に現れた。顔の骨格が変形し、肩幅が狭くなっていく。鍛え上げられた筋肉が無くなっていき、腕や腹回りが細くなった。胸は徐々に膨らんでいき、やがて秋音並みに大きくなる。お尻も然り。


 出来上がった夏木を見て、私は絶句した。


「ムフッ! ムヘッ! ムハハハハハ!」


 高らかに笑う秋音。マッドサイエンティストに相応しい、有様だった。何せ、遂に人体の改造なんてことを成し遂げてしまったのだ。


 私はもう一度夏木を見る。ああやっぱり。


 夏木は女の子になっていた。


「春野ぉ! 夏木が女の子になっちゃったら、出来ないねえ! セックスぅ! ムハハハハハ!」


 こいつ……。


 秋音は私達がセックスしていることに嫉妬したのだ。おそらく、お互いに初めてを捧げたことに対しても。


 だから夏木を女にした。女同士であればセックスはできない。


「でもセックスできないのは秋音。あなただって同じよ」


 私が言うと秋音はふふんと、したり顔をした。そして未だに呆然と座り込んでいる夏木に近寄る。


「あ、秋音。俺、どうなっちゃったんだ」


 困った顔で言う夏木。なんと声まで女性そのものだった。


「夏木はね。女の子になったんだ」


 まるで子供をあやすかの様に秋音は言った。


「だからね。もう春野とはセックスできないんだ」

「ふぇ……そんなあ……」


 なんだそれは。夏木が幼女みたいな反応をしたぞ。身体はかなり大人びているのに。


「でも大丈夫。春野の分も私が愛してあげる。私ね……」


 夏木と向き合っている秋音の、その表情を見て息を飲んだ。


「女の子でも、イケる口なんだ」


 発情した雌豚のような表情で、秋音は言った。


「女の子、同士……?」


 夏木が言う。そもそも女の子になった夏木に、果たして男の性欲はあるのだろうか。もし性欲まで女性のものになっているとしたら、秋音とのエッチだって嫌かもしれない。


 そう私は期待したのだが、しかし夏木の様子はそれとは関係なくおかしかった。頰を赤らめて、額には汗が垂れている。


「おかしいな。身体が熱い」


 はあはあ、と夏木は息を荒げながら言った。


「ここが、じんじんするぅ」


 そう言いながら、夏木は内股気味になって、そしてその股間付近を両手で押さえた。


「秋音、まさか」

「へへ。実は媚薬も混ぜてあったんだあ……」


 なんてやつだ。しかし、つまり夏木は発情しているのだ。それなら、女性同士でもイケてしまうかもしれない。


「は、春野……助けて……」


 微かな声で、しかし湿った声で、私に手を伸ばす夏木。伸ばされたその手は、秋音が握った。


「ひゃあっ!」


 手を握られただけなのに、そんな艶かしい声を上げる夏木。もはや正常でないのは明らかだった。


「春野はね。女の子同士じゃ無理なんだって。酷いよねえ」


 ズキッと心が痛む。私は夏木が好きだったはず。それでも相手が女の子になっただけで、愛せなくなってしまうのだろうか。


「でも大丈夫だよ。私が気持ちよくしてあげるからね」


 秋音が夏木を押し倒した。私に構うことなく、ここでおっぱじめるつもりか。


 しかし私は、どうすれば良いか分からない。夏木は媚薬の所為で性欲に苦しんでいる。今の私にそれを治める手立てはない。ならばいっそのこと、秋音に楽にしてもらった方が、なんてことさえ考えてしまう。


 私は目を背けた。二人が愛し合うところなんて見たくない。目を背けた先には、教卓があった。その教卓の上には、夏木が飲んだビーカーが置いてある。その液体は、まだ半分残ったままだ。


 媚薬が混ぜてあるんだっけ。


 もしかしたら。私も無理やり発情してしまえば、男女の垣根を超えられるのではないか。いや、超えなければならないだろう。だって……。


 秋音に盗られるなんて、死んでも嫌だ!


 私はそのビーカーを手にとって、一気に飲み干した。


 ドクン、と強く心臓が脈打つ。血液が摂取した液体を身体中に運んでいる。細胞がそれを吸収して、活性化する。


 これが媚薬、なのだろうか。何かがおかしい。ドクン、ドクンと心臓が脈打つ。急ピッチで何かを送っている。


「ぐあぁあ!」


 私は耐えきれず、声を上げた。


「春野? まさかっ!?」


 秋音が気がついて、事態を察した。


「がああああ!」


 苦痛が全身を駆け巡る。いよいよもって生命の危機を実感する。私、もしかして死んでしまうのではないか。


 ありえないことではない。だって身体を作り変える薬だ。劇薬だ。いくら秋音でも、私が飲んでしまうことを想定しているかどうか、あやしい。


「春野! 大丈夫!? 春野ぉ!」


 涙声の秋音の声が聞こえてきた。夏木とのセックスは延期らしい。はは。全く。根は優しいんだから。


 しばらくして、苦痛は治った。はあはあ、と呼吸を整える。


「は、春野……あなた……」


 秋音が私を見て、驚愕の表情をしている。


「どうしたの、秋音」


 と言った私自身の声によって、私が今どんな状態なのか悟った。


 スマホを取り出して、カメラ機能で私の姿を確認する。


 私は、男になっていた。


 股間に違和感を感じて、私はそこを触ってみる。


 ギンギンだった。


 反り立つそれはスカートの裾を持ち上げるほどに大きい。明らかに夏木のものよりビッグサイズである。


 次に私は、夏木を見た。


 ドクン、と心臓が脈打つ。


 秋音に押し倒されたからか、服がはだけていた。あられもない夏木の姿に、私はすっかり発情してしまう。


「夏木ぃいいいいい!」


 媚薬の効果も相まって、私は男子特有の激情のままに、夏木へ飛びかかった。


「きゃあっ!」


 夏木が可愛らしい悲鳴を上げる。なんて可愛らしいのだろう。もうすっかり身も心も女じゃねえか。


「へへ、夏木ぃ。可愛いよお。夏木ぃい」


 俺は夏木の両手を押さえつけて、まじまじと凝視してやる。するとこの雌豚は、糞ビッチさながらに頰をより一層赤らめやがるんだ。


 身長は少し縮んでいた。けれど胸とケツだけは一丁前にでかくなってやがる。そんな悩殺ボディをしているくせに、恥ずかしそうな顔を赤らめて、目を背けやがる。ああ、たまんねえ。


「はあ。夏木ぃ。可愛い顔になりやがって」


 ああ、糞が。もう、我慢出来ねえ。ああもう……。


 とりあえず、その顔で咥えてくれよ。なあ、夏木ぃ!


「はい、これ飲んで。ぐいっと」


 そんな声が聞こえたかと思えば、急に後ろから手が回ってきて、ビーカーに入った液体を無理やり飲まされた。


「ほら、夏木も」


 秋音は手際よく、夏木にもそれを飲ませる。


 すると先程と同様に私と夏木が苦しみ出して、やがて息だけ切らした通常の私達に戻ったのだった。





 帰り道。やはり太陽はカンカンと大地を照りつけているし、蝉は喧しい。しかし学校に向かう時とは違って、私の気分は最悪だった。


「本当にごめんなさい」


 私は何度目かの謝罪を口にした。そもそも、今回は私が秋音に夏木のアソコをでかくする発明を依頼したのが原因だ。その時点で、恋仲の関係であっても失礼なことだった。


 セックスが不満だから、身体を作り変えてしまえって考えは異常だ。その考えの先に、相手の気持ちは一切含まれていない。恋人として最低だったかもしれない。


「もう気にしてないから。あんまり病むなよ」


 そう言って夏木は微笑んで、項垂れた私の頭を撫でる。なんて優しいのだろう。その優しさに、私はどうやって応えれば良いのだろう。


「ねえ夏木」

「ん、どうした」

「お願いがね。あるんだ」


 愛する人とのセックスは気持ちが良い。


 しかし快楽はどうしても慣れてしまう。


 だから努力しよう。


 いつか女になったあなたでさえ愛せるように。


「次のエッチはさ。言葉責めしよっ!」

「ぶはっ……どうした、いきなり」


 私は私の身も心も、あなた色に染めたいのだ。

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