第21話 入院8日目(手術後5日目)

この日は7月3日水曜日、楽しみにしていた日だ。


午後に病院で七夕コンサートが行われる。手術前にポスターを見て、この時には手術は、とっくに終わって体も楽になっているはず。手術や辛い時期を乗り越えて演奏を聴くことを夢見ていたのだ。その日がやってきた!


朝、主治医の先生が来て、残っていた左のお腹から出ている管を抜くことになった。

お腹にあいている穴から出すわけなので痛い。数日前に右のを抜くとき、痛くて、ウーっと声を出したら、補助のベテラン看護師さんが、「ごめんね、ちょっと気持ち悪い感じするね」と言った。『痛いことをしているのではなくて、引っ張りだすから気持ち悪いんだ』と思うと何故か落ち着いた。

ズルズルと出されていく。結構深く入ってたんだ。後腹膜だもんね。


そして、手術の傷口に貼ってあったものも剥がされた。私の傷口は、お臍の下1cm位のところから恥骨まで縦に12cmほど。

それまで傷口には、リンゴが包んであるような編み編みの白いシートがあてられ、その上から透明の粘着シートがピターっと貼ってあった。

腹帯を巻いていたが、腹帯を替えるときに編み編みから傷がのぞき見えるようになっていた。


傷口は経過も順調で問題ないとのこと。そして、これからは何も貼らなくて良いらしい。

シャワーも今日からOKだという。


濡らしちゃって大丈夫なのか聞くと、内側から溶ける糸で縫ってあるから水が入ることもないし大丈夫という。タオルでゴシゴシはしないでね。って出来るわけないじゃん! 石鹸を泡立てて洗うと良いらしい。なんか、すごいな。


さっそくシャワーを浴びたかったが、管を抜いたばかりなので、夕方まで待つことにした。実は、懲りずに、この朝も自分でシャンプーしてしまったのだ。


そして昼食を終えて、いよいよコンサートへ。4階の講堂へ向かった。その階には屋上庭園があったので少し歩いてみた。診察で来たときにも一度来ていて、ラベンダーが植えてあるのを見て「入院する頃に咲いているかも」と思った通り、ちょうどキレイな青紫の花が並んで咲いていた。


コンサートが始まる。当然だが来ているのは患者やその家族。点滴しながら車椅子のかたや、気管切開してるのか、喉元にガーゼが貼ってあったり、その中に自分がいるのが不思議だった。

1曲目は、がん患者や家族で構成されたグループのコーラス。曲は『ビリーブ』という曲だった。その詩が…


「例えば君が傷ついて、挫けそうになった時は、必ず僕がそばにいて、支えてあげるよ、その肩を

…」


なんか、突然涙がワァっと出て来て、嗚咽ってほど泣いてしまった。ハンカチを口と鼻に当てヒクヒクを押し殺してた。たぶん誰も泣いてる人はいなかった。恥ずかしい。


そこまで心を動かされたはずなのに途中で、もういいかな、と出て来てしまった。直後、プチスイーツみたいなものをトレイにたくさん乗せた人とすれ違い、あーあんなサービスあったんだー、と目で追った。


そのまま1階のカフェに行って、手術後初のコーヒーを飲んだ。もう飲食の制限は無くなっていた。

やはり疲れやすく異次元にいる感覚はあったが、休暇を楽しんでいる気にもなった。


部屋に、戻るとバイタルチェックの時間。看護師さんに、さっき聴いたビリーブの歌の話をすると、「その歌知ってます!小学校の卒業式で歌いました」と。

「懐かしかったですか?」と聞かれ、いや、懐かしくはない。私の頃にはなかった曲だもの(笑)


そして、いざシャワーへ。

鏡で傷を見る。

想像より悪くも良くもなく、切って縫ってるんだから、こんな感じになるよね、といった感想。まだまだ、これから落ち着いてくるはず。

傷の部分は怖くて、お湯を間接的に流すことしか出来なかった。そおっと拭いて直接腹帯をした。


夕方、夫が来てくれて、飲食の制限がなくなったと話したもんだから、お菓子とかをいっぱい買ってきた。それもポテトチップスとか。私は、あまり食べる気にはなれず、結局夫が病室で食べていった。


体に付いてる管が全部なくなり寝るときも安心。

日中、看護師さんに夜何度か起きてしまうと話したら、睡眠剤を飲んででも夜しっかり眠ったほうが良いと言われ、この晩から睡眠剤を飲むことにした。


別に昼間寝ていてもいいのだから、と気にしていなかったが、回復のためにも成長ホルモンが大切。それには夜眠ることが大事なのかも。

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