くなのしょうたい

 火蜜かみつは、その分量を量るのが難しい薬である。

 多少多く取り過ぎた分は具合が悪くなる程度では済まない。通常の薬のように、使用量を平均化し、一番効果が期待でき、かつ安全な量を割り出せないので、使用する際にはきっちりとその個人に合わせて綿密に量を計算する必要がある。

 この火蜜はどこから来たのか。

 魔物たちが次々に倒れていることにも、関係があるのか。

 しばらく前に見た濡れた剣の男も、火蜜を使っていたのだろう。火蜜は人にはぴりっとした刺激を与え、少し痺れる程度しか効かないから、まるで聖水のように扱われていたことにも納得できる。

 ――せめて、ローラムが命を落とさず、頭の中もリセットされないように。

 懇願、熱願、懇望、請願。

 ひたすらに願いながらローラムの名を強く呼ぶ。

 ローラムがむせ、口に含んだ水を吐き出した。ぜぇぜぇと荒い息を繰り返す様は苦しそうで見ていられない。

「ローラム! 良かった。わかりますかっ!」

 目顔し、ローラムが指先でちょいちょいとユハを呼んだ。

「はい」

 よかった、撃ち込まれた火蜜は、さほど濃いものではなかったらしい。

 ここにいる、安心しろと励ますためにユハはローラムの手を握った。

 すると、違う馬鹿、と言うように手を振り払われた。

「え。――え」

 ――違う? 違うの? 俺を呼んだんじゃないのか? 俺じゃなく? 俺は……必要ない?

 そりゃ医者ではないが、あんまりだ。

「じゃ、じゃあ俺かな。親分、玖那くな ですよー」

 ショックを受け一気に落ち込むユハの顔色を窺いながら、玖那がローラムに声をかける。違う違う、と手を振り、ローラムは二人の合間を縫い、指差した。

 そちらには、アララギがいる。

「行って……」

 苦し気な息をしているのは、アララギも同じだ。アララギの周囲は何体かの魔物が取り囲み、じっと様子を窺っている。安否を気遣っているようには見えない。

 アララギが死んだらその体を食うつもりなのだろう。

「平気だから……行ってこい」

 ユハは戸惑ったが、ローラムに促された手前もあり、ふらふらとアララギに近付いた。ユハが近寄るとアララギはツンと顔を背け、魔物たちは飢えた目でユハを見る。じろりと睨み付けてやると魔物たちは僅かに後退しユハから距離を取ったが、隙を見せればいつでも飛びかかれる距離だ。さすがに抜け目なく、いやらしい。

「……倒れたままそんなことしたって、強がりにしか見えないぞ」

「別に、お前なんかに……弱いとこ見せて、やらない……し」

 息も絶え絶えにアララギが言う。苦しそうだ。アララギが呼吸をするたびに弱るのを示唆するように、草の目が少しずつ枯れ、抜け落ちていく。

 ぎろりと獲物を狙う蛇のようだった草の目は、今やその全てが俯き、下向き、憔悴に瞼を下ろし始めている。

 もう怖くはない。

 ユハはアララギの顔周りの草の目をかき分け、左右に押さえつけた。ここ数時間で、陶器の人形のように美しかった以前とはまるで別人のように変わり果ててしまったアララギだったが、気味の悪い草の目の奥にあったのは、やはり美しい顔だった。

 白い肌に、ローラムとは真逆の長い髪。

 裂けたり汚れたりしてしまった上等の絹の着物。

 丁寧に手入れされたつるりとした爪は、草の汁や血がこびりついていてまるで獣のもののようだ。

 いつだって完璧な美しさを誇っていたアララギが、ユハの前で初めてくしゃりと顔を歪めた。

 不細工で、不格好で、可愛くなんてないのに、妙に胸の奥がぎゅっと詰まる。

「見ないでよ。……綺麗なぼくだけ、覚えていればいいんだ」

 いつも完璧に綺麗だった。それこそ陶器の人形のように、風さえもその髪の一本さえ乱せぬほどに。

 我がままに振る舞うことで周囲に生を感じさせていたが、それすら誤作動とすら思えてしまうほどに。

 本当の意味で、アララギの本心など、ユハは知らなかったし、見ていなかった。

 完璧に見える深王しんおうの仮面を脱ぎ捨て、アララギが言う。

「……勇隼いさはやは、いつも不機嫌だ。今だって……でも、最後くらい……あいつじゃなくてぼくのところに、……ここにいて」

 ――すぐには死んでやらないけど。

 そう、呟いたのだろう。

 草の目が枯れた箇所には汁の代わりに血が滲む。咳き込んだ際に血を吐き、アララギは真っ赤な口で勇隼を呼んだ。

「女の子になりたかったんだ……。ぼくが完全な女の子だったら、少しは振り向いてくれたのかな、勇隼。あんな男のためじゃなくて、きみのために女になろうと、これでも頑張ったんだ」

 髪を伸ばしたのも、毎日丁寧に時間をかけて爪の手入れをしたのも、人間の女がそうしているからと食事にも気を使って、女のような性格にだってなってみせた、とアララギは言う。

 全てまやかしで、紛い物で、混ざりもので、中途半端に終わってしまったが、それでも全てユハの、勇隼のためだったのだと。

「……朱璽鬼しゅじきを隣に置いておきたいだけなんだと、思ってた」

 個人的に好かれているとは思ってもみなかった。ユハの主はあくまでローラム一人きりで、アララギは代打だ。妙な具合にねじ曲がってしまった道を軌道修正するまでの繋ぎであり、ユハはそのための補強材だった。

 本命がいるのに、それ以外に熱烈な感情は、向けられない。

 そうなってしまった原因はアララギであり、アララギの近くをうろついていたガラにある。ローラムにいらぬ悲しみと空白をもたらした元凶でもあるアララギたちを、ユハは許すことはできない。

 けれど、アララギの自分への想いを完全に跳ね除けてしまうことも、できそうにない。

 黙ってしまったユハに、アララギが目顔で悲しがる。

「相変わらず、冷たい。酷いやつ。少しくらい褒めるところだろう」

 アララギが震える腕を上げた。指先がぐにゃりと曲がっているのは、力が入らないからだ。

 体中に、薬が回ってきている。

 アララギが腕を上げたことを合図に、二人の周囲で様子を窺っていた魔物たちが飛びかかってきた。

「アララギ……!」

 ユハは襲い来る魔物たちの間から背後を窺った。ローラムたちのほうにも魔物がいくつか飛んでいく。しかしそちらへ向かった魔物は、玖那によって弾かれた。

「うお!」

「あ! 先輩。ごめんなさい!」

 玖那に反射するように投げ飛ばされた魔物が真っ直ぐにユハに向かってくる。避けようにもほかの魔物たちに四方を囲まれていて、適わない。

 噛まれ、突かれ、締め上げられる。

「くそ!」

 ユハは息を止め、巨鳥へと変化した。まとわりついていた魔物も玖那に飛ばされてきた魔物もまとめて翼の力で弾き飛ばす。

「勇隼……! すごく綺麗だ」

 リリュシューが騒動に気配を紛れ込ませやってきていた。リリュシューに助け起こされ、支えられているアララギが巨鳥となったユハに震える手を伸ばす。

 赤く濡れた爪が、ユハに触れる。

 びくり、とユハは体を震わせた。

 嫌だと身を捻るも、再び取りついてきた魔物たちに動きを制される。アララギは構わずユハに触れ、撫で、その手をくちばしへと伸ばす。

 やめろ、と鳴こうとしたときだった。

 するりと、麻痺した体とは思えぬ敏捷さでアララギがユハの口に何かを滑り込ませた。リリュシューと魔物が無理やりくちばしを抱えるように抑え込み、ユハは苦しさのあまり、吐き出せもせず、その何かを飲み込んだ。

 目の前がチカチカする。

 暗闇から急に明るい場所に引きずり出されたように焦点が合わず、寝不足のときのように頭がふわふわする。まるで集中できず、何も考えられない。それなのに、喜びだけが胸の底から間欠泉のように起こる。

 これは、――早夏だ。

 それも、赤く染められた早夏だ。どこにそんなものを隠し持っていたのか。ふらつき尻もちをつきながらも、ユハが確かに飲み込んだのを確認し、アララギが満足げに微笑む。

 そこに、先ほどまでの殊勝さは微塵もない。

「やった……! ぼくのものだ、勇隼。お前は赤い実を食べたんだ。ぼくの血が染み込んだぼくの実だ! ぼくのものだ!」

 頭を振り、ユハはリリュシューと魔物を振り落とした。空中で態勢を整え惨めに落下することを防いだリリュシューがアララギの隣に立つ。黒い皮手袋の手でアララギの腕を引き、立たせる。

深幽境しんゆうきょうなんてあいつにくれてやる。でもお前はぼくのものだよ、勇隼。お前がいたからぼくは今まで深幽境を守ってきたし、ガラみたいなクズな男にだって耐えてきたんだ」

 ユハの胸元に寄り、アララギは愛おしそうにそっとその羽毛を撫でた。ぶつっと音がして、羽を抜かれる。

「ぼくの勇隼。ぼくの朱璽鬼。ぼくの三彩羽さんさいば!」

 違う、とユハは首を振った。巨鳥から人へ変化しようと思うも、体がふわふわして思うようにいかない。

 アララギがくすくす笑い、くるくる回りながらユハの胸元から離れ、視界に入ってくる。

 とても、今にも死にそうだった者には、見えない。

「不思議だろう? ぼくも不思議だ。お前がこんなに浅はかだったなんて思わなかった。まさか騙されてくれるなんて。ぼくが撃たれたのはただの麻酔。それも手足の先が少し痺れるだけのもの。深王であることも深幽境もくれてやるんだから、濃厚な火蜜だってあいつに全部くれてやらなきゃねえ? ああ……、けれどそういうお馬鹿なところも可愛いよ、勇隼。幻滅なんてしないから安心しなよ」

 うっとりと、恍惚な表情で見上げてくるアララギに、背筋が凍る。

 どこからどこまでがアララギの計画だったのか。

 リリュシューが繋がっていたのはサヴィアンではなかったのか。けれど二人に同じ見た目の注射筒を撃ち込んだのはサヴィアンだ。ではサヴィアンもアララギの仲間で計画通りに動いていたのか。サヴィアンを追っていこうとしたユハを止めたシャノンは? 朱璽鬼にしか作れない火蜜をどこから手に入れた? 草の目が枯れた訳は。倒れたアララギのところへ行くようにローラムが言うだろうことも予測し、計画に組み込んでいたのか。

 考えれば考えるほど、思えば思うほど心が疑心暗鬼に満ちていく。赤い早夏を食べたときの喜びの間欠泉は枯渇し、寒々とした砂塵が吹き荒ぶ。

 ユハはアララギに炎を吐こうとして、自分の喉が焼け付くのを感じた。

 喉の内側が焼け爛れ、呼吸のたび空気が通るだけでひりひりと痛む。

「だから、もうぼくのものだと言っただろう。朱璽鬼は王に抗えない生き物なのだから、無駄に自分が傷つくようなことをしないことだ。あまりにも愚かで残念だよ、勇隼。けれど、そんなところもやっぱり愛らしいね」

 アララギがユハの首を外側からつつ、と撫でる。

 あまりの痛みにユハは悲鳴を上げた。

 喉の奥が焼ける。

 十もの魔物たちがユハに噛みついた。そのうちの一つは足で、一つはサヴィアンに撃たれた箇所だ。塞がりかけていた傷口が開き、血が滲む。

 ユハは痛みに悶絶し、立っていられずにその場に倒れた。魔物を押し潰すように下敷きにしてやろうと思ったが、肩の傷口に噛みついていた魔物は危険を察知し逃げてしまった。逃げた霞の魔物は牙だけをユハの血で赤く染め、ゆらゆらとアララギの背後で漂う。

 魔物たちが、ユハの体を好きなように噛み千切っていく。べちゃべちゃと汚らしい音は、考えたくもないが自分の肉を咀嚼する音だろうか。

 せめてもの抵抗で、ユハはアララギを睨み付けた。悲鳴を堪えるのは、これ以上アララギに見くびられないようにするための反抗だ。

 澄ました顔のアララギは手の中でくるくると三彩羽を回している。

 リリュシューが部下を呼び、部下は数人がかりで重そうな樽を三つほど運んできた。

「勇隼、幻想は終わりだ。魔物も、何もかも片付けて帰ろう」

 アララギが三彩羽を振ると、ふわりと風が巻き起こった。

 遠くでざわめきが起こる。何を言っているのかわからなかったが、数秒後、すぐにそれはローラムを気にするカシーや玖那の声なのだとわかった。

 ユハとアララギの間に、ローラムが宙を飛んでやってきた。アララギが振る三彩羽に合わせて地上数センチのところでぴたりと止まる。

「……鳥……?」

 意識が朦朧としているのか、虚ろな目でユハを見下ろし、ローラムが呟く。

 ローラム、とユハは一声鳴こうとして、出てきたのは掠れてさび付いたような耳障りな音だけだった。

 アララギがリリュシューからナイフを受け取る。足元に運ばれた樽は蓋を外され、中には溢れんばかりの白い早夏が詰まっている。

 その白い実は、光の届かない場所で栄養だけを与えられた早夏の木だけがつけるもの。エルトンの果樹園では決して手に入らないそれは、ただの不味いだけの実だ。何をしてもまずいので美味しく頂けることはない。そのままでは何の役にも立たない白い早夏の上にリリュシューがローラムの頭を押し出した。

 ぐいと晒されたローラムの首に、アララギがナイフを添わせる。

 ローラムの血で、赤い早夏を、毒を作るつもりだ。

 危ない、逃げろと叫びたかった。けれど焼け付いたユハの喉から出た耳障りな音は、ローラムの耳には届かない。

 ――人の姿に。

 人の声帯でなければ、人の声でなければ、届かない。

 ナイフを持つ手が引かれ、ローラムの首に傷ができる。一拍遅れて、傷口をなぞるように赤い小さな粒が浮き上がる。

 滲んだ血を指先で掬い、アララギが早夏の上で指先を返す。

 さらに首筋の傷を深め、ぼたぼたと垂らすことで、白かった早夏は真っ赤に熟れた。ユハが知るよりもずっと遅く、必要としている血の量も多い。撃ち込まれた火蜜が影響しているのだろう。

 だが、アララギは早夏が赤くなった事実だけを見て、ほくそ笑んだ。

「さすがに濃いな。これなら、全部使わずともグラス一杯分くらいで足りるだろう。残りは別に取っておこう。深幽境に戻ってからも使わなければならない用事は山ほどある」

 アララギの言葉に、先王の姿が蘇る。

 狭い部屋に拘束され、定期的に差し出される食料と抜き取られる血液。ろくに喋ることも許されない孤独な極小の自由。

 死後も解放はなく、肉も骨も細胞の欠片の一つも残さず、刻まれ、砕かれ、磨り潰され、利用された。

 ローラムも、父と同じ末路を辿るのか。

 ――ふざけるな。やっと顔を見て、近くで声を聞けて、名前を呼んでもらえるようになったのに。

 ユハの全身が熱くなる。喉の痛みさえ圧倒し、ユハは炎を吐いた。自分の体に取りつく魔物に、アララギに、リリュシューに。気がふれたように四方八方に手当たり次第炎を吐く。

 だが、炎ではアララギの手からナイフを奪えない。

 三彩羽を用いてアララギが起こした風に軌道を変えられたユハの炎が、逃げようとしていた魔物を焼く。断末魔を上げて消えた魔物はそれで早くも半数になるが、彼らも容赦なくユハに噛みつき、足に、背に、牙を突き立てる。

 己の体にも毒が流れていればいいのにと思いながら、ユハは首の後ろに噛みついた魔物を体を捩って振り落とした。無理やり引き剥がしたので、魔物が離れるのと同時に魔物が噛みついていた部分の肉も千切られる。

 肉片と血しぶきを撒き散らし、ユハは激痛に身を震わせ、悲鳴の代わりに火を吐く。

 痛みと怒りがエネルギーとなり、ユハの腹の中で炎の温度が上がっていく。

 さらに炎を吐いていると、アララギが三彩羽を振り、ローラムを炎の前面へ、自分の前へと移動させた。

 闇雲に炎を吐いていたように見え、てローラムにだけは直撃しないようにしていたことがばれている。ユハはぎょっとし、口を閉ざすが間に合わない。

 ――ローラムが丸焼きになってしまう!

 勝ち誇ったアララギの顔が、瞬間歪む。

 ローラムのさらに前に人影が飛び出した。小さな影は両手を広げたまま瞬時に大きくなり、炎に飲まれた。

 炎が静まっても、動くものはない。

 固唾をのんで全員が見守る中、ごほ、と誰かが咳をした。

 静寂と硬直が一気に解ける。ごほごほと咳き込みながら、ローラムの前に飛び出した影がごとりと動く。

 石の獅子である。

「石を溶かすならもっと高温なの吐いてくれないと、温くて堪んないですよ、勇隼先輩」

 その声と言いかたにハッとする。玖那だ。人の姿だったときとは似ても似つかず、大きさも姿もまるで違う。

 玖那の本来の姿は、石の獅子だったのだ。昔は守り神の像の一種としていたるところにいたという石の獅子は、近年では見るのも珍しく、その細工は過去の芸術として名を知られるばかりだ。玖那ほどの大きさの石の獅子は、それこそ当時でも相当珍しかっただろう。

 本来の石の獅子の姿になった玖那がくるりと振り返る。見る間に不機嫌になったアララギに二人揃って睨み付けられたが、先ほどまでとは打って変わって心強い。

「何の真似だ、幽鬼。ぼくは深王だぞ。そこに朱璽鬼もいる」

 傍にいるのが見えないのか、とアララギが顎でユハを示す。今更そんなことを言ったところで朱璽鬼であるユハが反抗していることを隠せるはずもないが、アララギはどこまでも強気だ。ユハ以外の幽鬼は簡単に自分に従うと思っているのだろう。現に、今まではそうだった。

 幽鬼をまとめる深王は、存在してこそ意味がある。役目がある。適当な呼称がないからこそ王としてまとめ役の名を冠しているだけで、幽鬼たちにとってそれは人間のように敬うべき対象としての名ではない。王としての役目を果たしてくれている代わりに、力を貸してやる相手というだけだと思っている幽鬼も少なくはない。

 言ってしまえば深王ではなく、礎、貴石、長、なんだっていいのだ。ただその役割を果たし、連綿と続いて行きさえすれば。

 不遜な態度を崩しもしないアララギに、玖那が本物の獅子のように吠える。

「俺が味方をするのは勇隼先輩だけだ。俺の名も知らぬくせに偉そうにしてんじゃねぇよ! 噛み千切るぞ」

 荒々しいのは見た目だけではなく、中身もそうらしい。いつも丁寧な言葉遣いをしていたとは思えない獰猛さで、石でも鋭い牙を剥き、玖那がアララギに飛びかかる。慌ててアララギが三彩羽を振るが、よほどの風でなければ巨大な石は浮かせない。

 アララギと玖那が揉み合っているうちに、アララギの手から三彩羽が滑り落ちた。同時に宙に浮いていたローラムがぐらりと傾く。

 落ちる、と思ったときには遅かった。

 遅れて駆け寄ってきたカシーと臥朋がほうも唖然とする。

「……痛い」

 誰もが間に合わなかった。

 ローラムは、頭を樽の中に突っ込むような形で、落ちていた。

 

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