第二章 人形を追う

 科学技術が発展しても、未だ神話が生き続けるこの星。かつて人間だった神が鉱物を樹に生るようにしたと伝えられるこの星。

 鉱物が他の星に比べ容易に、かつ安価に手に入るこの星では、宝石を食べて育つ自律の人形が子供の情操教育用に広く普及していた。

 その人形の記録を付け続ける人物がいた。彼は名もない学者で、愛されているが故に当たり前すぎて、研究者が少ない人形に関する分野を専門としていた。

 人々が子供の頃から愛し親しむ、鉱物を食べる人形。それはクレイドールと呼ばれ、この星でのみ製造・販売されている。購入は容易で、食べさせる鉱物もこの星でなら子供のお小遣いでも買う事が出来る。食べさせる鉱物によって姿を変えていくクレイドールは、子供だけでなく大人をも夢中にさせる物だ。

 寿命はおおよそ十年。多くの子供は、クレイドールと接することで、大事な者を喪うという事を経験する。その経験をこの星の人は非常に重視する。悼むこと、死を思うことは常識なのだ。

 人々に大事なことを教えるクレイドールは、ごく稀に突然変異を起こす。どう言った条件下でかはわからないけれども、寿命を間近にしたクレイドールが、鉱物としての自覚を持つ、輝くようにうつくしい、ミネオールと呼ばれる人形になる事があるのだ。

 ミネオールとなった人形は、そこから更に数年、寿命を延ばす。クレイドールのままでいるよりも、長く主人と共に居られるのだ。

 長く共に居られるからか、それともそのうつくしさ故か、ミネオールに憧れる子供は多い。

 ミネオールは沢山の人々の憧れだ。けれども、クレイドールが卑下されると言うことは決して無かった。

 彼は、どの様にしてクレイドールがミネオールになるのかを研究している。手がかりは全く見つからないけれども、ミネオールを所有する人の元に行き、話を聞き、情報を集めていた。いつか自分と同じ研究をする人の手がかりになれば。そう思って。


 この日、彼はある女性の家を訪ねた。その女性の名はコーアル。幼少期は貧しい家で育ち、その中でも生活を切り詰めてクレイドールを購入したという。

 彼女が所有する人形の名はアーマス。かつては黒い瞳に黒い髪、真っ黒な肌のクレイドールだったと言う事だけれども、彼の目の前に現れた人形は、薄いブルーの瞳に、輝くような白い髪、それに白い肌のミネオールだった。

 彼はコーアルから、幼少期のこと、アーマスがミネオールになった時の事、ミネオールになってから今までの事などを詳細に訊ね、記録していった。

 アーマスは、金剛石のミネオールだという。けれども、いくら鉱物が安価で手に入るこの星でも、金剛石は高価な部類に入る。コーアルの家で金剛石の樹を育てていたとは思えないし、当然購入する事もままならなかったはずだ。そう考える彼は不思議そうな顔をする。

 すると、コーアルがくすりと笑って、アーマスには石墨ばかりを食べさせていたという。

 彼は納得した顔になる。石墨と金剛石の成分は同じだ。それできっと、アーマスは金剛石のミネオールになったのだろう。

 その事を簡潔に記録に付け、彼は微笑んで言う。

「それにしても、長く共に居られてうれしいでしょう」

 彼の言葉に、コーアルもアーマスも笑顔で頷く。

 その言葉を締めの言葉にして、彼はコーアルたちへの質問を終えた。


 家を出て最寄り駅へ行き、待ち時間の間に彼は手帳を開く。手帳には、また別の日に話を聞きに行く予定が書かれている。

 次に話を聞きに行くのは、硫黄のミネオールの居る家だ。

 こうやって家にお邪魔して話を聞くのは慣れてきたけれども、失礼が無いようにしないとと、彼は改めて気を引き締めた。

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