第10話 過去の過ちは埠頭にて

 雨の埠頭


 ここではコンテナ埠頭だ

 そこに二人の影がある


 一人は勝ノ原

 過去を打ち消す為に―――――


 一人は鈴身

 怨みを晴らす為に―――――


「よう…勝ノ原ぁ!何年ぶりだ?」


「……それは良いとして、ケリを付けようぜ」


「そうだな……お前をぶっ殺してやる」


 そうして始まった対決

 腹を蹴ったり、顔を殴ったりして、相手をダウンさせるまで殴り合いが続く

 5分経過しても、その状態は続いている


 ちなみに俺はコンテナの後ろに隠れながら様子を見ている

 だが、もう一人同じように見ていた人が居たようだ

 物陰から出てきて、大声を叫ぶ


「お兄ちゃんっ!」


「っ!?あ、茜っ!お前…」


「またお母さんの言うこと聞いてないのっ!そんなんじゃお母さん失望しちゃうよっ!」


 喧嘩している二人の手が止まる


「……お母さんが何だよ……」


「お母さんに言われたじゃんっ!お母さんの言うことが聞けたら、病気も治るってっ!」


「あっ……」


 ……そういうことか

 両者、ほぼ同じだな


「へっ、お前もお母さんの為に殴るのを、暴力振るうのを止めたらどうだ」


 そう言う勝ノ原

 すると最後の一発と言わんばかりに勢いよく勝ノ原に殴ろうとする鈴身兄


「お兄ちゃんっ!」


 怒った声で言う茜

 その場がスローになる

 あの勢いのある拳を受けたら完全に勝ノ原がノックアウトする

 だが、今回はノックアウトすることは無かった



「なっ!てめぇっ!」


「……すまんな、だがそれはダメだ」


 そう言って拳を引かせる

 だがこいつには言うことが聞かないようで、俺のことを殴ろうとしてきた


「なにっ」


 ドーン

 周りに音が響く


 鈴身兄の頭を掴み、圧倒的な力でコンクリートの路面に頭をぶつける

 その間約2秒

 ……力を出し過ぎたか


「がぁっ……」


「お、おい……さ、さっきのは……やり過ぎじゃない…か?」


 勝ノ原が問いかけてくる

 だが自己防衛だ。

 仕方ない


「……暁さん」


 すると、茜が聞いてくる


「暁さんって……何なんですか?」


「……さぁな、もののけかもな。……冗談だ」


 そう言ってその場を後にする

 はぁ……あんなことしなければ良かった



 ―――――



 暁さんはそのまま私達の前から消えた

 するとお兄ちゃんが立ち上がる

 おでこから血が垂れてきているけど、多分大丈夫だろう



「っ……いってぇ……」


「なぁ……もう暴力するな」


「っ……はぁ?」


 勝ノ原って方でしたっけ…

 まぁいいや。勝ノ原さんが話し掛ける


「……俺はケリが付いた。お前も同じ理由だから……殴る気にもならないからな。じゃあな」


 そう言い残し、勝ノ原さんもこの場から離れていった

 二人になってしまったこの空間

 私も去ろうと思ったその時、お兄ちゃんが発する


「……なぁ、お母さんってどこの病院だっけか…」


「……えっと、松川医大学病院だけど……」


「…そうか」


 よっこらせと立ち上がるお兄ちゃん

 そこには、涙が出ていた

 だけどお兄ちゃんは気付いてないだろう


「俺、お母さんに会ってくるよ」


「っ!……うん、いってらっしゃい」


 暁さんのお陰なのかな……

 分からないけど一瞬、昔のお兄ちゃんのような笑顔を見せた気がする


「……お兄ちゃん」



 ―――――




 さてあの後、勝ノ原は何も怖がらなくなった

 鈴身兄……鈴身 健だっけか

 あの男もどうやら暴力沙汰は止めたらしい

 だが、俺に対して恐怖を抱いたそうだ


 ちなみに今日は偶然勝ノ原を公園で見かけたが、木の枝に絡まった風船を取ってあげることをしていた

 あの調子なら正しく成長していける道を見つけただろう

 それなら良かった


 すると勝ノ原が気づいたようで、話し掛けてくる


「お、よう!相棒!この前は他人なのにケリを付けるのを手伝ってもらってすまないな」


「……いや、いいんだ。それはどうでも良い。……どうだ、あれから」


 すると、勝ノ原は一つの写真を見せる

 その写真には、勝ノ原と鈴身健の姿が写っていた


「よりを戻したんだ。あ、安心しろよっ!暴力はしてない。ただ、同じ者として、接してるよ」


「……そうか、良かったな」


「あぁ!」


 そう言いながら、この場を後にする勝ノ原

 鼻歌を歌っており、とても嬉しそうだ


「……んで、いつまで見てるんだ。赤木さん」


「ふぇぇっ!?ば、バレてた……」


 と物陰から出てきたのはワンピース姿の赤木さんが居た

 するといつの間にかスマートフォンを取り出しており……


 一枚撮った


「あっ!今撮りましたねー!むぅ……まぁ…いいや」


 近くに寄ってくる赤木さん

 その瞬間、甘い匂いが襲ってくる


「えへへ~、どうでしたか?勝ノ原君のケリの付け方は」


「まぁ、悪くないんじゃないか。結果的に」


「……確か、前もですよね?」


「……なぜ知ってる」


 あの場に居たのは神埼と俺と……


 うっ…


「……すまん、帰る」


「え、嘘っ!」


 そう言ってその場から逃げる

 やっぱり、“あいつ”の事を思い出すのはダメだ―――――










 ―――――赤木の事を想うのはだめだ



 そんなこんなで勝ノ原も良い道に行っただろう……

 多分だけどな


 第10話 過去の過ちは埠頭にて―――――


 ――――――――――過去を消したい少年 完




「……あと4人…頑張って」

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センターの夏休み 星空 連 @hoshizolasan_mk2

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