第9話 協力者の正体


「―――――お兄ちゃんですか?」


「あぁ、いるだろ。こんな顔の奴」


俺は移動中に書いた似顔絵を見せる

すると少し悩んだ表情を見せる


そういえば鈴身茜は探偵だ

情報収集力と推理力は伊達じゃない

だから、茜の兄であるあの男はセンターに通っている勝ノ原の事を知れたのだろう

……実際本人も言ってたしな


「まさかお兄ちゃんまた変な事してるの?」


「あぁ、そんでもって俺の事を調べるつもりだ」


「えぇ……ミスったなぁ……暁さんなら解決できると思ったんだけどな…むぅ」


手を顎に当てて考える茜


茜とは意外と長年居る

何故長年居るとかというと、茜は“優秀過ぎる”のだ

ちゃんと俺からの条件も飲んでくれるし、ちゃんと依頼もこなす

学校通いながら探偵の仕事もする

完璧かどうかは置いといて、非常に良い人材だ


「そういえば、今年も通ってるんですね。センター」


「まぁ…な」


「どうなんですか?その……“あの時”みたいにならないようにしてるんですか」


「……」


俺は少し無言を続ける

すると、茜は少し焦った様子で尋ねてくる


「す、すいません……」


「…いや、良いんだ。それよりもあいつに俺の事は言うな」


そう言ってコーヒーを飲む

工藤さんの造るコーヒーは、少し苦いものの、それを甘さがカバーをしている

甘苦あまにがいコーヒーは人それぞれの意見があるだろうが、これがスタンダードだ


「……ふぅ。やっぱこれかなぁ…」


そんなことを呟いてると、茜が言う

どうやらお兄さんには俺の事は喋らないと誓うそうだ

もし破ったら今回のコーヒーを奢ってくれる

そういう条件だ


「……それじゃあ、くれぐれもお兄ちゃんに殴られないように」


そう言って店を出ていこうとする茜の手首を掴む


「ふぇっ!な、なんですかかか……」


「はぁ……一つだけこっちから言いたいことがあるんだ」


「っ……はい、なんでしょう」


落ち着きを取り戻した茜

俺は、最後の切り札として今回は茜を使いたい

なので一通りの事を茜に教え、俺も店を出ていくのであった


ちなみに余談だが、工藤さんに頼んでお代は物事が終わるまで保留とした



―――――



「……勝ノ原」


「す、すまん暁っ!あんなこと頼んじゃって……」


教育センターに戻ると、どうやら神埼が勝ノ原を見つけてきたようで、今何故か俺が説教しているみたいな状況になっている

まぁ勝ノ原にも話したいことはあるので、一先ひとまず廊下で二人で話すことにした



「そ、それで用ってなんだよ……」


「お前、自分でこの事をどうにかしろ」


「お、おう……最初っからそのつもりだし……」


さて、それじゃあ同じ戦法でいけるだろう

罵倒の開始だ


「でもお前、逃げたよな。自分でケリ付けなきゃならない場面で」


「い、いやあれはその……」


「お前、なんでここにいるか分かってるのか」


「い、いや。でもここに集まっているのは――」


「――そうだ。ここに集まっているのは才能があり、将来性もある人材だ。でも自分の駄目な過去も消せない男なんてここにはいらない。出てけ」


「っ!」


勝ノ原は拳を握りしめて、呟く


「もう一度……言ってみろよ」


「自分の過ちを治せない奴は要らない。出ていけ」


そう言うと勝ノ原は胸ぐらを掴んでくる

……今日二回目なんだが?


そんなことを思っていると勝ノ原は多少の涙を見せながらも大声で言ってくる


「自分の過ちだぁ?そんなのどうでもいいっ!なんでここから出ていかなきゃならないんだっ!そんなのお前が決めることじゃねぇだろっ!」


「だったら……」


「だったら…なんだよ」


「だったら今日のお前を見返してみろよ。過去に関わった因縁のある人物から電話が掛かってきて、それだけで怯えて、奴等から逃げて、でもって今。」


そう言うと勝ノ原が怒った表情で見る

片手は完全に殴ろうとしている

そこに一手の矢を射す


「お前今、また過去と同じことをしているんだ」


「っっ…………」


俺の顔の前で拳が止まる

……よし。これでいいんだ

絶対に俺の事を殴れる訳がない


「俺だって……俺だってこの癖を治したいんだよぉ」


突然、泣き出した

男泣きだ。

でもその前にやることあるだろ

今すぐ胸ぐら解除しろよ


「……なぁ暁、お前に聞きたいことがあるんだ……」


少し泣いた後、そう言った

そして涙を拭き、胸ぐらを解除してまた言う


「俺は、どうすればいいんだよ……過去のなにもかもを忘れたいんだ――――」


――――――――お母さんへ正しい自分を見せたいんだ


そういって、その場に座り込む勝ノ原

俺は、探偵茜に電話をする

そして俺は勝ノ原に対し、位置と日時を教えて今日はそのまま帰った



―――――



「にゃー」


「…なんだ。どうした。眠いのか」


家に帰ると突然妹の美也が話し掛けてくる

にゃーってなんぞや


「ぬゃあ?」


「……寝てなさい。もう寝る時間だぞ」


「やた。寝る」


「良い子じゃねぇかよ。寝てろ」


そう言うと美也は階段を上がっていく

俺はリビングのソファーに座り、下を俯く


勝ノ原のケリを付ける為の戦場として埠頭を選んだ

しかも、スマートフォンの情報によると生憎の雨らしい


「雨の埠頭……か」


雨の埠頭は正直隠れにくい

勝ノ原と俺の関係が知られたら喧嘩で勝ノ原が負けた場合、俺にも喧嘩を売る可能性がある

茜の情報は確かなものだ。

センターであいつの対応をしたのは俺だ

だから、俺に疑いが来るのだ


だから見届ける為に、喧嘩を避ける為に隠れたいのだがどうだろうか

そうならないようにしなければならないな

でもそこまでは予想通りではある


「でも、無理かなぁ……」


「うんうん。無理なものは無理よねぇ」


「……シンプルに怖いから止めてくれ。お母さん」


「えぇ?良いじゃない。で、なんの話?」


お母さんは目をキラキラさせながら聞いてくる

俺はさっき考えていたことを話す


「……そう。う~ん、お母さんから言えるのは~」


そう言うと頭を撫でてくるお母さん

そしてまた口を開く


「絶対に怪我しないことっ。分かったわね?」


「……あぁ」


「返事は」

「はいはい。おやすみ」


俺はその場を逃げるように部屋を戻った

まったく、説教を受けるのは俺でも楽ではない



第9話 協力者の正体―――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る