過去を消したい少年

第8話 また問題発生


まだ8月に入ってすらいないのに、とても暑い7月後半

俺はいきなり、天使さんからこんなことを言われた



「こんぐらっちゅれいしょーんっ!」


英語でおめでとうと言われた

普通に日本語で言ってもらえませんかね


「……なんかありがとうございます」


「むー。喜んでないなぁ……よいしょっと」


天使さんが隣に座る

それと同時に、甘い匂いが天使さんから漂ってきた

少し、胸がドキッとしたものの、その匂いは一瞬だけだった


すると、天使さんが図書室から借りたのだろうか。

探偵小説を取り出す


ちなみにここは俺がいつもいる図書室ではなく……

今回は暑さに耐えきれず冷房の点いた職員室にいる


何故か茨木先生は寝ており、騒がなければ起きないだろうという状況


ここで、天使さんから話をしてくる



「……まだ私の名前を思い出せませんか?」


その言葉に対しすっかり忘れていた自分は、目を反らしながら……


「すまん。高城さんの事で忘れてた」


「……赤木」


「え?」


返答すると、天使さんが下を向き呟く

その『赤木』という言葉は、俺にとっては正直聞きたくない言葉だった

だが、一度も会っていないであろう少女に―――――


―――――初恋“なのかも”しれない少女がその名を知っている


そこに疑問を持った



「ふふっ、私はあなたの事全部知ってますよ。過去に起こった事も全部です」


「……そうか、別にそれはいいんだ。本題があるだろ」


「ありゃりゃ、バレちゃいましたか」


「そりゃあ、名前思い出したかって言われたらなぁ……」


そして俺は立ち上がり、椅子を元の場所に戻す

すると、天使さんが耳元で囁く


「私の名前は赤木あかぎ 桃歌とうかです。今後はそれでお呼びを」


「おいっ!」


と後ろを振り返ると、そこには天使さん……

いや、赤木さんは消えていた

多分普通にドアから逃げたのだろう


「……ふわぁあ……どうかしましたぁ?暁君……」


「っ……ここは許すか……」


本来なら本当に聞きたくない言葉だし、赤木の名前を勝手に使うのはダメだが、ここは許すと判断

まぁ、また彼女の事は後でということにしよう

そして彼女の事は今後から、仕方なく赤木さんと呼ぼう……



―――――



大広間に戻ると、勝ノ原の周りに数人が集まっている

一体どうしたのだろうか


「……どうかしたか」


「あ、暁君だ」


立花さんが俺の事を指す

おい、指を指すな



「勝ノ原君が掛かってきた電話に出て、その後震えだしたのよ」


高城さんが言う

……元の高城さんだ。


ちゃんと元に戻ったらしい

京都旅行も無事、父と楽しく過ごしたようで、お土産はお菓子だった

高城さんが言うには高城さんの父は仕事の量を少し減らしつつ、ちゃんと家族の時間を取ってくれるとのこと

俺の行動が正しかったようだ。


それよりもそんな事で話している場合では無いな

少し場所を移動させるか


「神埼、手伝え」


「え?あぁ、いいけど」



そして、勝ノ原を図書室にまで誘導しておく

すると、高城さんから声を掛けられた


「暁君」


「ん?どうした」


「……これを一応渡しておくわ」


「ん?……メールアドレスに電話番号か」


「えぇ」


紙を渡された

その内容はメールアドレス、電話番号の二つが書かれていた

どうやら登録しといてということだろう


「……後でな」


「っ!うん。わかったわ」


思わずうんって言ってるぞ

いつもなら「えぇ」って言ってる癖に……

あと目をキラキラさせるな



―――――




「……で、どうしたんだ勝ノ原。正直に話してくれ」


「あ?あぁ……実はな……」


それから少し勝ノ原と話した

話の内容は勝ノ原の過去だ


中学時代、勝ノ原は友人と暴力沙汰の行為をしたとのこと

しかし勝ノ原はお母さんを亡くすと、それからお母さんの言っていたことをしっかりと守る良い少年になったそうだ


すっかり良い少年になったのは良く、奴等と付き合いも無くなったそうだ

でもそれは勝ノ原以外の視点だ

実際は違っており、奴等から虐めを受けそのままその奴等を逃げたのだ


そして、そのまま時が過ぎ去って高校生になった今。


「――――奴等から連絡が来たんだ……『今度は逃がさない。俺達の事を話した罰だ』って……来るんだ……」


体を震えながら言う勝ノ原は、恐怖でいっぱいのようだ

というより、来る?

まさか……


「てことは、奴等がここの位置を掴んだのか?」


神埼が聞く

すると勝ノ原は立ち上がり、ドアノブに手を掛け……


「……奴等の相手頼むぞっ」


「あ、おい勝ノ原っ!逃げるなよ!」


勝ノ原は小動物のように逃げた

それを追うのは百獣の王、ライオンの代理、神埼だ

そんなことは置いといて、どうやら……


「……俺が相手するのか。めんどくさいなぁ…」


そう言って玄関の方に行く

やはり“奴等”が来ているらしい

ざっと十人、その内の一人はリーダー格だろうか

他の人とは違うオーラを放っている

認めたくは無いが、意外とイケメンだ


「……あんな外見の人が暴力沙汰かぁ……怖いなー」


棒読みである


すると、こっちの存在に気付いたようでリーダー格の一人が玄関に入ると他の人達も玄関の中に入る

俺は何も怖がらず、その場で立っている

するとリーダー格の男が突然胸ぐらを掴んでくる


「……勝ノ原出せ」


「……その前に名前を聞いても宜しいですか」


「はぁ?」


その男は首を傾げ、そしてため息を吐くとこう言った


「俺の名前は鈴身すずみ けんだ。いいからはよう勝ノ原出せぇや」


胸ぐらをもっと強く掴む鈴身という男

鈴身…?

そういえば、知り合いの探偵の名前も『鈴身』だったか…?


だがそんなことを考えていると、鈴身という男がガチで殴りに来そうなので、ここは一度引いてもらうしかない


「勝ノ原って……誰ですか」


「あぁ?ここにいるのは分かってんだぞ」


「はぁ……いませんよそんな人は」


「はぁぁ?……妹め、嘘情報か?」


小声で言う鈴身

妹?

どうやら少し話を聞かないといけない人は一人増えたようだ


「……まぁいい。お前の事も調べて、弱点をバラしてやるよ。今の内に本当の事を――――」


その男が言い切る前に言う


「―――だからいないって言っているでしょう。ここは市役所の管理下ですよ。市役所に言い付けたら、どうなるか分かりますよね…?」


「チッ、行くぞ」


そう言うとその男と他9名は玄関を出ていき、そのまま敷地内を出ていった

鈴身……か

……さて、このままだとヤバい事になりそうなので事を起こすしかなさそうだ


「……頑張るかぁ…」


とりあえず、まずは勝ノ原と話してみるか……


そう思い、神埼に電話をする

コールが鳴ったあと、すぐに神埼は出た


『おうっ!はぁはぁ……どうした』


「勝ノ原は見つかったか?」


『いやぁ……はぁはぁ……あいつ少し太ってデカイ癖に、早いなぁ……って…』


神埼よりも超える速度で逃げたか

……勝ノ原を神埼に探してもらって、俺は他に聞きたい人と会うか


「神埼、勝ノ原を見つけたら高城に外に出ないよう監視してくれって頼んでくれ」


『はい?てか暁も探してくれよぉ……』


「すまんが忙しい。それじゃあ」


そう言って電話を切った

そして、また電話を掛ける


「……もしもし。話がしたい」


そう言うと電話の相手は場所を指定した

指定されたのは俺の知り合いがやる隠れた名店、喫茶店「コーク」だ

ちなみに名前の由来は“コーヒー”とその店の運営者である“工藤くどう”さんの“こー”と工藤の“く”を合わせてコークになったらしい


「……外出届け出さないとな」



―――――



暑い日差しの中、俺は路地を歩く

センターから約1時間

そして、目的の場所に付いた


「……コーク。久々に来たな」


そして、店内に入る

ベルの音が鳴ったあと、すぐに経営者でもあり運営者でもある工藤さんが挨拶してくれた


「お、久々に来ましたね。暁君」


「おじさん。コーヒーだけで良いです」


「かしこまりました」


そして指定の席へと座る

すると、その後でまた店内にベルの音が鳴る


どうやら会いたかった人が来たようだ


そしてその人も俺と向き合うようにテーブル席に座る


透き通った金髪のショートヘア

中学生のように見える幼さと身長

そして、小学生のような服を着る

どこまでも小さい奴め


「ふわぁぁあ……なんか眠いですねぇ……」


「おい探偵。帽子は被らないのか」


「おっと、そうでした」


そしてカバンから出てきたのは立派な探偵帽

これを装着した彼女の名は―――――



「それじゃあこの私、“鈴身すずみ” あかねになんでも相談しなさーいっ!」


―――――鈴身茜、多分奴等のリーダー格の鈴身と兄妹だろう



第8話 また問題発生―――――

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