第7話夢かもしれない



この世界に来て1日弱、たったそれだけの時間なのにめちゃくちゃ大きな変化があった。

周りに流されただけのこともあったけど……

私はこの変化を受け入れてきたのだ




一番考えることは多分、たったこれだけの時間で婚約者が3人もできたこと。

なんだかここと元の世界は常識が違うみたいで、こちらの常識に流されてしまったところはたくさんあるけれど絶対に今の状態は異常だ。



だってカイルにも、ツィリムにもエルにも私は大事にしてほしいし、大事にしたいって思ってる。

本気で。

これは普通に考えたら浮気だと思う。

私は今、3人を多分同じぐらいずつ好きで、誰か1人を選んでくれと言われても選べないもの。



日本でこんなことを言う友達がいたらぶっ飛ばしてると思うけれど、これが事実なんだから仕方ない。

何が問題かって、これを平然と受け入れてる私の神経が問題なんだ。

私は別に恋多き女ではないし、今までの人生にいた彼氏は高校時代の1人だけ。

1度に3人も好きになるって何でだろう?



それにツィリムや、エルが、あんなに私のことを大事にしてくれる理由もわからない

好きだ、愛してるってみんな言ってくれるけど、私はそんな魅力的な女じゃない

普通な普通な、平均的な女の子のはずなんだけど


カイルは団長って言ってたし、女に困る身分じゃないと思うんだけどなぁ、みんなイケメンだし




そういえば私はこの世界の言葉がわかるんだった、チートっていうのかな?

小説で読んだことがあるだけだけど……

そういう風に常識もチートで埋め込まれてるのかもしれない。



文字を書くときに自分の手が勝手に動かされたのと同じように、3人の婚約者を同じように愛せるような気持ちに操作されてるのかも?



そう考えると、すっごく気持ち悪いけど、事実かどうか確かめる方法はない。




わからないことを考えても仕方がないかな。

それより、私がこれからここでどうやって生きていきたいのか考えないと。




今はカイルの世話になりっぱなしだし、女が1人で生きていくのは大変そうだけど……


せめて1人で外に出れるようにはなりたいし、神託のこととか魔素の事とかいろいろ知りたい

そのためには、勉強することも大事かもしれない。

この国の歴史とか文化とか。




うーん、考えてもわからないことが多すぎる。

知らないこともできないことも過ぎて……

思考がループしてる。


その上、ポカポカ陽気の中でソファーに座ってるって、もう寝ろって言われてるようなものじゃん?

今後のことを考えるはずだったのに、いつの間にか眠りに落ちていた











夢かもしれない






大きくて温かい掌がそっと私の頭を撫でてくれる。


気持ちよくて思わずすり寄ると、手のひらは離れていってしまった。






ぅうーん……なんで……?



頭がふわふわしてうまく動いてないかも。


「もっと撫でて」独り言みたいだったと思う。


だけど手は戻ってきてくれて、しかも優しく抱寄せてくれた。

体温が伝わってきて心地いい。



……やたらリアルだけどこれは夢?


少しずつ意識がはっきりしてきた。

そのなかで一際目立つ真紅の瞳。



……カイルだっっ!!


反射的に逃げようとしてしまった。

それにカイルはとても悲しそうな顔をした。


「起こしてすまなかった。だが、俺はそんなに怖がられるようなことをしただろうか?」

首をブンブン横に振る。

現状、私の衣食住全ての面倒を見てくれてる人なのだ、不満なんてあるはずない。


「いや、ごめんなさい、ちょっとびっくりしちゃって」

「イズミルは寝ていると本当に子供みたいだからな。つい遊びたくなって」

「ううん大丈夫。うとうとしてただけだから」

ってか遊びたいって何?


でも手のひらが心地よかったのは確かで……





こうやって甘やかしてもらっていると、私がカイルにどれだけ依存してるのかはっきり分かってしまうみたいで、本当に申し訳ない。

私はカイルになんにもできないのに


「カイルありがとう、面倒かけてごめんね。いつか必ずお礼はするから」


カイルは心底驚いた顔をした後、私を強引に抱きすくめた。


「お礼なんてしなくていい、お前がここにいてくれるだけで、俺は十分だから。イズミルが第1夫に選んでくれて、俺はとても嬉しかった。

お前は面倒をかけてると言ったけど、俺が好きでここにいてもらってるんだからこれぐらいやるのは当たり前だ。むしろもっとわがままを言ってほしい。

好きなものとか欲しいものとか教えて欲しい」




そう言って深く深く口付けられた。

唇を割って舌が侵入してきて歯の裏を舐め上げ、舌を絡め取られる。

私はこんなに深いキスをしたことがなくて、息が続かなくなるのに、とっても気持ちいい。



とっても情熱的なキスだった。

カイルは私のことそんな好きじゃなくて、最初に見つけたから面倒見てくれてるんだとばかり思ってたけど、全然そんなことなかったみたい。

私の何がいいのか全然分からないけど、カイルは私をそばにおいていてくれて、こんなに優しいキスをくれる。



「イズミル、俺はお前を愛してる。大切にしてほしいと思うし、同じくらい大切にしてやりたい。もちろんイズミルには他の夫もいるから仕方ないとは思うけど、やっぱり俺を見てほしいと思ってしまう。

お前のことを世界で一番大事にするから、たまにでいい、俺と2人きりの時間を作って欲しい」



これ以上ないほど情熱的な愛の言葉だった。

真紅の瞳にまっすぐ見つめられて、私はこの人のこと愛してるんだなって思った。

ひとごとみたいな言い方だけど、ストンと胸に落ちるように納得できて、それからじわじわと暖かい気持ちがこみ上げてきた。


「うん、私もカイルのことを大事にしたいし、大事にしてほしい」


初めて自分から口付けた。

触れるだけの子供のようなキスだったけど、私にはこれが精一杯で……


私の全力のキスをカイルは優しく受け止めてくれた。

ふわりと無敵の王子様スマイルとを見せてくれて心臓がうるさい。



大好きで大切なこの人たちのために、出来ることはなんだってしてあげたいなって思うし、少しづつでもいいから出来ることを増やしていきたいって思う。









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