第82話 俺たちは地下を調査する


「なるほど」


俺はひとり頷いていた。


砂族の皆さんには休憩していてもらい、俺はユキとアラシを呼ぶ。


わたくしも見ていてよろしいですか?」


休憩用の食事と水筒を持って、リーアもやって来た。


そもそも、塔と遺跡はあまり離れてはいないんだけどね。


「いいよ、こっちにおいで」


イチャついてる訳じゃないけど、他は男性ばかりなので仕方がない。


「ユキ、アラシ、近くに俺たち以外の気配はあるか?」


砂狐や、他の生き物がいたら困る。


【だいじょーぶー】


【うん、いないよー】


「そか、ありがとう」


リーアにはユキたちの側にいてもらい、俺は石壁のある地帯の中ほどまで歩く。


この辺りでいいかな?。


『ああ、いいだろう。 やってみよう』


俺は一つ頷いて、あとは王子に任せた。




 王子が自分の背丈ほどある杖を取り出す。


直接魔法陣を描くための杖だ。


一度すべて払ってもらったので、地面には砂が浅く積もっている状態である。


『集中する』


王子が肩の鳥を片付け、他に邪魔が入らないように石壁地帯の周りに結界を張る。


リーアの側にユキたちだけでなく、ガーファンさんたちも立っていた。


不思議そうに、こちらを見ている。


 王子が結界で風が止んだ砂の地面に、魔法陣を描き始めた。


俺は集中している王子の代わりに周りの警戒だ。


しかし大きな魔法陣だな。


王子が集中しているからあまり声はかけられないけど。


 どれくらい時間がかかったのだろう。


日差しがきつくなり始めた。


『ふう』


手を止めた王子が大きく息を吐いた。


『では、いくぞ』


魔法紙ではない魔法陣は、王子が直接魔力を注ぎ込む。


「王子、今日は調査だからな。 自重してくれよ」


『ん、分かってる』


いや、たぶん、分かってないんじゃないかな。 この魔法陣の大きさ見てると。




 魔法陣に杖を突き立て、王子が目を閉じる。


王子の声は外には聞こえないが、俺にははっきりと聞こえている。


ただ魔力を込めるだけでなく、詠唱も併用となると、これはー。


「王子、何をやる気だ」


『もう終わった』


地面に描かれた大きな魔法陣が、黄金色に光る。


結界の外から「おー」とか、「うわー」とかの声が聞こえた。


 結界の中の暴風で俺の身体が揺さぶられる。


「うん?、なんの音かな」


地響きがして、何かが噴き出す。


「うはっ」


地下から砂が噴水のように湧き出し、結界の外に放り出された。


「こらっ、王子。 リーアたちが砂に埋もれちまう」


『あ、すまぬ』


でも王子の魔法陣は途中で止めることが出来ない。


 俺は魔法陣帳から一枚を引き出すと、リーアの元へ駆け出す。


そして紙を口に咥えると、空に向かって両手を突き出す。


<結界>


俺を中心にドーム型の結界が現れる。


ふう、間に合った。




「申し訳ない、ちょっと魔力量を誤ってしまった」


俺は念話鳥を出し、驚いて腰を抜かしている砂族の人たちに声をかける。


「あのー」


ガーファンさんが俺の側に来て俺の髪を指差す。 


ああ、王子に任せていたから金髪緑眼になっていた。


それで驚いてたのか。


念話鳥を出し、あははは、と笑って誤魔化して黒髪に戻す。


『もう少し待ってくれ』


うん、分かってるよ。


これ、王子が何かを焦ってる感じがするんだよね。


 俺の結界に落ちてくる砂が徐々に少なくなっていく。


俺は空を見上げて、日差しに目を細くする。


「あー、これ、焼けちゃうなあ」


『ん?、何がだ』


女性のお肌の大敵さ。


砂漠での結界はUVカットしないとダメかもしれん。


そんなのが作れるかどうかは分からないけど。




 そんなことを考えてる間に砂の音が止まる。


大量の砂が石壁周辺の外に山積みになっていた。


それはまあいいんだけどさ。


「これ、どこから出したの?」


『さっき砂族の人たちが見せてくれた町の跡。


あれの地下にあった砂だ』


地下に空間があったっていうことでしょ、それ。


王子、いつの間に調べたの。


『ガーファンさんが言ってただろ。


地上にある石壁は偽の町で、本物の町はその地下にあると』


ああ、そうだけど。


だからって、いきなり大量の砂をどかしちゃったらダメじゃん。


地下空間に溜まってる砂を放出すれば、そこが空洞になる。


最悪の場合、他から砂がなだれ込むか、地表が崩れ落ちるだろう。


『う、それは、すまない』


頼むよ、王子。 俺にはちゃんと事前に説明が欲しかったよ。




 俺は反省して落ち込んでいる王子を宥めつつ、地下への入り口を探す。


杖を使ってコンコンと石の地面を叩いていると、ガーファンさんたちがやって来た。


「あ、危ないですよ。


さっき地下から砂を出しちゃったんで、空洞が出来てるかもしれない」


ドタドタ走っていた砂族の人たちが一瞬止まり、恐る恐る下がる。


ガーファンさんはさすがに分かっているのか、ゆっくりと歩いて来た。


「おそらく崩れることはないと思いますよ。


そんなに脆いものなら、とっくにこの石壁も地下に落ちているはずですから」


俺はガーファンさんの言葉に過信は出来ない。


「以前、魔法陣のあった遺跡地下も、突然崩れましたからね」


「ああ」


あれはちょっと盗掘防止用の仕掛けくさかったけどね。


 それより問題は、地下への入り口だ。


「町への入り口がどこかにあるはずなんですよね」


ガーファンさんが頷く。


「さっき、砂を動かしたときに、ちょっと気になる部分がありました」


そう言って、彼はまたゆっくりと歩き出す。


それについて行くと、小さいが丸まる一軒分の家の跡があった。


「一つの家には必ず一つの地下への通路があるはずです」


俺たちは頷き合って、周辺を調べ始めた。




 俺はその家の跡を外から眺める。


「ここが玄関だとすると、こっちが炊事場か」


「こっちが居間で、こちらが寝室でしょう」


二人でその家に入ったつもりで想像する。


「秘密の地下通路だとすれば、一番奥でしょうか」


「うーん、どうなんだろう」


ガーファンさんが奥の寝室を調べ、俺は居間の中を調べることにした。


俺なら、砂嵐や外敵が来た時にとっさに逃げられるような場所にと考える。


奥ではいざとなったら間に合わないんじゃないだろうか。


「あ、これかな」


俺の声にガーファンさんが静かに戻って来る。


 家の中心辺り、石の床に模様としては不自然な丸い石があった。


砂を移動してもらい、その周辺を綺麗にする。


その頃にはリーアや砂狐たち、そして砂族の人たちも様子を見に来ていた。


『確かに、この中は空洞だ』


王子が魔力で調べてくれた。


俺は杖を使ってその石をそっと動かす。




 暗い穴がぽっかりと現れる。


杖の頭に照明を点し、そっとその中へ差し込んでみた。


「壁に足を引っかけるものがある。 これで降りるのかな」 


元の世界で見た、マンホールの中を下りるみたいな感じ。


俺はリーアに杖を渡し、その穴に入る。


「あ、あの、気を付けて」


ニコリと笑って、ゆっくりと下りる。


思ったより浅く、すぐに床に着いた。


 リーアに杖を落としてもらい、それを受け取ると、光を強める。


「へえ」


やはり、地上と同じような部屋がそこにあった。


ガーファンさんに続いて、砂族の人たちやリーアも降りて来る、


「ユキ、アラシ。 何か他のモノが近づく気配がしたら教えてくれ」


【うん、わかったー】


二匹には地上の警戒をお願いし、俺たちは地下の探索に乗り出した。


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