第5話 俺たちは呪術師と同行する
やがて、ひと段落したのか呪術師の女性がこちらを見上げた。
俺がニコリと笑って手を振ったら大袈裟に驚かれた。
よほど珍しいことみたいだね。
仕事が終わったようで呪術師の一行が帰り支度を始めた。
木の太い幹の下へと繋がる階段を下りながら様子を見ていると、すでに女性たちは村の出入り口にいる。
「え、ちょっと待って」<跳躍><浮遊>
俺は慌てて飛び降りた。
広場に着地するなり女性の元へと走る。 周りがドン引きしてるが今は無視だ。
「あの!、実はとても大切なお話があるんです。
あなたを探していたのはお孫さんのことを伝えるだけではなく、私自身の話もありまして」
早口でまくし立てる俺に女性と黒服の呪術師一行は唖然とした。
「ネス、落ち着け。
先ほども言ったが、いつでもお前の話は聞く。
まだしばらくはこちらに居るのだろう?」
ああ、長命な妖精族と人間では時間の感覚が違うのを忘れてた。
「すみません、私の話は少し急ぐので」
しかし彼らはどうみても自分たちの村へ帰る気でいるのだ。
「もしよろしければ、そちらの村へご一緒してもよろしいでしょうか」
俺の言葉に白髭の老人エルフと村長が驚いた。
「おい、そんな勝手なことを」
村長である大柄なエルフが俺を睨んだ。
俺を抑えようと、村の若い男性エルフたちに合図を送る。
「待ちなさい」
その村長を白い髭のエルフが止めた。
「この者の魔術を見ていなかったのか?。
お前たちなど、どうにでも出来る力のある魔術師だ。
この前はわざと捕らえられたのが分からないのか」
俺をこの村へ連れてきたエルフが大声で抗議する。
「嘘だ!、なんでそんなことをする必要があるんだ」
白髭の老人エルフは俺を見て静かに言った。
「すべては、ここへ来るためだったのであろう」
あらら、バレてる。
俺は少し胡散臭い笑顔を浮かべる。
「どうやら、もう誤魔化しは必要ないようですね」
俺は白髭の老人エルフにお世話になったお礼を言う。
そして村長をはじめ、村のエルフたちにはっきりと伝えた。
「その通りです。私はこの呪術師の女性に会うためにこの森に入ったのです」
そしてもうこの村には用はない。
「そういうわけで、これからはそちらの村にお世話になります」
笑顔で強引に呪術師一行に同行させてもらうことにした。
「ほお。 まあよかろう。 ついて来い」
少し表情は引きつってはいたが巫女の女性からは承諾を得られた。
「ありがとうございます」
別に荷物もないので、そのまま一緒に村を出ようと思う。
「どれ、私も行こうかな」
白髪に白い髭も豊かな老人のエルフが何か言い出したぞ。
「お邪魔かな?」
誰に聞いてるんだろう。
俺はチラリと女性呪術師を見る。
「ふん。 連れは何人増えようが関係ない。 来たいなら来ればいいわ」
口の端をあげて微笑む女性。
老人のエルフはすぐに支度をしてくると言って家へと上がって行った。
老人を待つ間、しばらく連れになる呪術師の一行を見る。
呪術師の女性エルフと黒い服装の若い男性エルフが二人。
彼らに挨拶をすると「よろしくー」と、笑顔で挨拶を返された。
この村のエルフたちとは大違いだ。
彼らの話では、呪術師の女性は彼らの村の長老であり、神殿の巫女だという。
付き添いである黒服二人は彼女の弟子らしい。
「呪術は嫌われていると聞きましたが?」
その二人の弟子に王子が不躾にそんなことを訊く。
二人は顔を見合わせ、クスリと笑った。
「俺たちは孤児だ。 生きていくためには強くならなければならない。
そのためなら何でもするさ」
へえ、と感心していると、二人がチラッともう一人の連れを見る。
この間まで広場で籠に吊るされていた罪人らしい男性エルフが、縄で手を縛られた状態で立っていた。
これからこのエルフを呪術師の村まで連れて行くらしい。
きっと彼らの以前の姿なのだろう。
何も言われなくても、俺には何となくそんな気がした。
旅支度とはいっても特に変わった様子は見られないが、
「待たせたな」
と、白髭の老人エルフが一行に加わり、俺たちは出発する。
村の女性エルフたちが憐みの目で俺たちを見ていたのが気になった。
一部の女性は俺にこっそり荷物を返してくれて、「行かないほうがいい」とまで訴えてきた。
事実、女性にとっては危ない森なのだろう。
魔獣や人さらい、突然の洪水。
でも本来はエルフにとって森は安全なはずだけどなあ。
どうしてそんな危ない場所にわざわざ住んでいるのかということにならないか?。
『長い間住んでいると変化を嫌うのだろう』
そうなのか。 慣れというのは恐ろしいな。
白髭のエルフと呪術師の女性は古くからの知り合いらしい。
襲ってきた魔獣を倒す連携など、見事なものだった。
だけど、気安く話しているのに、どこかギクシャクしてる気がする。
「仲が良いのか悪いのか」
俺がそんなことをポツリと呟くと、隣を歩いていた黒服のエルフが、
「昔からの因縁のようですよ」
と、いつものことだと笑った。
連れの黒い服のエルフの男性二人は、まだ若いようだった。
王子の容姿がエルフに近いこともあって、あまりこちらを警戒していない。
俺も休憩の度にリンゴやお菓子を渡してるからね。
これから世話になるんだから印象は良くしておいて損はないだろ。
『餌付けじゃないのか』
王子、うるさいよ。
罪人とされているエルフを連れているためか、俺たち一行の移動速度は遅い。
森の中で一泊することになりそうだ。
「どんな村なんですか?」
「そうですね。 森の中の村よりは小さいですが、活気はありますよ」
若いエルフはそう言って元気に笑う。
「そういえば、あの村はどちらかといえば暗い感じでしたね」
俺は気を遣って少々控えめに言ってみた。
お爺さんがこっちを見ている。
「ええ、まあ」
黒服のエルフもお爺さんが気になるのか、言葉を濁した。
俺たちは揃って苦笑を浮かべる。
「呪術師の村とは言われていますが、近隣から修行に来ている若者も多いです」
「へえ」
意外だ。
日が暮れかけた頃、休憩所にしているらしい小屋に着いた。
ささやかな夕食の後、白髭のエルフはまた高い木の上に登って行った。
よほど高い場所が好きなんだな。
俺は呪術師の巫女にお茶を入れながら少し話をさせてもらう。
「そなたの用事とは何だ?」
「はい、実は私にも呪術を教えて欲しいのです」
呪術を使いたい訳ではないが、魔術の研究をしているのでその仕組みが知りたいと正直に話す。
ま、俺じゃなくて王子なんだけどね。
「ふむ。 そなたも物好きじゃな。 まあよいわ」
「いいんですか?。 村の秘術とかではないんでしょうか」
巫女はハハッと軽く笑う。
この巫女の女性は自分が村の長となってから、他の村から追い出された若者を受け入れ、希望者に広めていったそうだ。
「何故ですか?。 自分たちだけが嫌われているのが嫌だったとか」
「いやいやいや」
そこは曖昧な返事しか返ってこなかった。
森の中でもう一泊し、三日目の夕方近くになって森の向こうに小高い丘が見えてきた。
「あれが我らの里じゃ」
呪術師の女性がその丘を指差した。
森の中にぽっかりと浮いた台形のような隆起した土地。
翌朝、高台に近づくにつれ、その丘の上に立派な木造の建物が見えてきた。
「あれは呪術師の神殿じゃ」
やがて俺たちは丘の上にある小さな村に辿り着いた。
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