第8話 計劃ヲ進メヨ

 二人はいま、高架橋下まで戻って休憩している。


「急激に仲睦まじくなっているな。

 ま、今日明日でいきなりだが、初日にして陰八相三体にほか二頭をも屠るとは、あっという間に狸殺しを極めたものだ」

「由比さんの指導あってのことですから」

「ちょっとー私がまるで狸殺しに加担する悪女みたいじゃないですかやだー」

「事実だろうが。

 いちゃつくのは結構だが、茶番はこの辺として、だ。明日も狸狩りに動いてもらうぞ」

「でも今日にしてとんでもなく進んでますよね、あっという間にチョウフのとタヌキヲンに気づいて引き寄せられたので、陰八相だけでも五体?」

「もともと奴らを数屠ることはさほど難しくはないさ、だから首都圏を侵攻しても奴らは人間の居住地をいつまでも制圧しきらない、問題はタヌキヲンの行動を元に巨大に変貌した狸らをどうしたら殲滅できるか、だ」

「最初聞いた時はほんとにできるのか不審だったんだけど、どうにもできる気がしてくるんだから不思議ったら、──あぁ」


 由比はそう言って欠伸した。


「我々には三つ、やらねばならないことがある。一、現存分布する巨大狸らを殲滅、二、汚染された個体を除去したのち、ラクーンドッグキャンセラーを無効とする対抗因子を生態分布域に入念に散布、三、首魁となるニッコウから上京──いや陛下がおわしてなければ京(みやこ)ではないよな、やってきた個体を討伐する」

「首魁?

 ラスボス的なのがいるんです?」

「そして明日で大方の決着をつけよう」

「人類が十年苦しんできたことがこうもあっさり決着(カタ)がつくなんて」

「人類というほど大層ではないがな、拍子抜けか?」

「いえ、楽しいですよ。

 陰八相を狩ってもこれから同種が人を喰らう上位種をまた生成し、それらが回復する前に群体を殲滅するにも、今回五体仕留めたとはいえ、時間稼ぎにはなった一方で群体が散らばったことで次に発生するものが何処に潜むか見当がつきにくくなった。段取りもなければ結局殺し続けることになる。

 あなたがやりたいのの最優先はするとどうやら首魁というやつを斃すことなんでは?」

「なんだこいつ、狸殺したいだけでなく頭もきちんと切れてやがるのか」

「いまの一言でこの人が俺をどう評価しているのかがよくわかりましたわ」

「否定する気もさらさらなかろう、どうせ殺るのだろうが」

「それで、明日首魁を殺れと?

 早速すぎやしません?」

「巨大化しようと有象無象の獣だ、基本タヌキヲンの防御力があれば返り討ちに遭うことはなかろう」

「ひとつ、良いですか」

「なんだね?」


 村正は鋳造に質問する。


「その首魁とされる存在、それと陰八相、そんな法則がわかっていて、タヌキヲンだけでない駆除の手段が、どうしてこんなになるまで──十年、元号だって変わってしまった。

 ともかく、奴らを殺すために、奴らの全てを教えてください」

「聞けば、まず耳を疑う」

「バカでかい信楽焼を見てからいったいなにを今さら疑えと言うんです」

「よろしい、ならば後には退くなよ」


 そして村正は、鋳造の口から元凶を知る。




「……なんだそりゃ。

 そんなもののために現代の人間が苦しまなきゃならないのかよ」

「因縁はその埋葬から始まっていた。けれどもそれをわざわざ触発してしまったのが10年前の易者だ、だが奴の思惑が首魁を産んだわけではないはずだ、だとしたら回りくどすぎる」

「起因するものはいくつもあった、と?」

「そのおかげで討伐に方向性を持たせることができた、それについては今日までみな最善を尽くして研究してきたことだ、何一つ無駄はなかったのさ」

「あぁ、──俺たちがそれを証明してやる」


 村正はそのあまりの下らない現実に全ての狸を過去とともに葬ってやろうと、そう改めて決意を固めるのだった。

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