第7話 緑地カラ河川敷ヘ
タヌキヲンに搭乗すると、あとから彼の膝に乗った由比に、村正は説明を受けることになった。
「陰八相がこの十年かけて駆逐できないでいるのは、頭目の一匹を倒しても数日で増長した別個体が後釜を次ぐことになるからよ。
とんだ繁殖力よね」
「それじゃあんなのを一匹一匹ちまちま倒してても意味がない、でも一気に殲滅しようって画策だって無いわけじゃ」
「ええ、当然にあったわよ」
「なんで八頭に上限の固定されたように語られるんです、それなら九頭を超えてあっという間に人喰いが跋扈しそうなものですけど」
「人喰いを軸とした縄張りは、今でも刻一刻と生態系を蝕んでいるけれど、彼らは何故か旧首都圏を囲って、チヨダへ向かおうとするのよ」
「やけに具体的に場所が定まってますね」
「これまではそこを奴らが目指す理由なんてわからなかった、けれど奴らにはチヨダを目指す目的がある」
「……魚が川登りするようなもんですか?」
「さぁ、テツゾーが言うにはもっと混み入ったものらしいけど、兎に角それらの習性を利用していけば、連中を一網打尽にできるんじゃないかと。
あとラクーンドッグキャンセラー、あれへの対策手段、関東圏に分布したそれを同様の手段で効果を薄める実験も完成されつつある。
でも技術がただあるのと、それを使いこなせるかで生き残れる面子ってのは変わってくる。
あなたが生き残れるかもそういうこと」
「……」
「戦うのに必要なものを、今から教えてあげる」
フタコタマガワ緑地、にある簡易な球場、ここにいまのタヌキヲンは浮遊していた。
「さっき商店街がありましたけど、あそこは」
「いまや道祖神フレームやタヌキヲンの整備に使われてるね、ほぼゴーストタウンというかシャッター街と化してるけど──来た」
「?」
「これから訓練と行こうと思ったのに、その時間も連中与えてくれないらしいわね。
補給だけは済んでてよかった」
逢魔ヶ刻、三匹の裏八相の襲撃である。
「なんでここに!?」
「奴らがタヌキヲンを確認したら群体が何らかの手段で交信する可能性があるから即座に陰八相は討ち取る必要があるとは聞いてたけど、さっそく嗅ぎつけられていたようね。
気を引き締めていきなよ、初陣だ──それとも怯む?」
「覚悟は先に固めてここにいますよ」
アーマーから尾の狸金棒をさっそく引き出して形態をレベル2へ移行したが、三匹が相手ではこれを振り回しても分が悪い。
「見様見真似の武器なんてロクなことないですね!」
「やはり三匹相手に近接武器では分が悪いね。
慣れが肝心だけど、いまに必要なのはそも飛び道具だ、向こうはこちらを明確に敵と認知して追ってきているわよ、一旦ホバーで河川敷まで退いて」
「ええ!」
形態をレベル1に戻すと、やがて河川敷まで弾き出されていた。
「──パージ!」
「はい!」
「それからガンブレード、扱い方は教わっているね!」
河原に“殻”が展開され、水が盛んに打ち付けて寄せる。
そしてレベル2のタヌキヲンは殻の腰部からガンブレードの柄を取り上げる。
八装縁起のウェポンについて、先ほど鋳造からは説明を受けていたのだが、狸金棒については重量もあり扱いの難しそうだと村正の語ると、鋳造はなにも鈍器にこだわることはないと逸物ガンブレードを彼に勧めた。ほかに斬撃などのこなせる碌な武装もないとはいえ、そのネーミングはどうなのか。
『逸物ガンブレードはエナジーガンブレードであるから、玉袋弾倉に挟んでセン〇リこいてチャージしろ、男ならできるだろう?』
──もろ十八禁武装じゃねーか!
『ともかく刀身をふたつの弾倉の間に挟んで引くだけで完成する、少々帯電ぶんの負荷はかかるが、気になるほどではないだろ』
そうですね、確かに気になるほどではない、この刀そのものについては。
「……」
「なに、私がどうかした?」
「いえ、大したことではありません、気にしないでください」
「?」
問題はそれをまだ会って日どころか時間も浅く、だからおそらく意識されてもいないだろう異性の前でどぎつい下ネタを披露するとんだ羞恥プレイであることか。
(仕事仕事仕事、そう、これは仕事なんだ!)
仕方ないと割り切ろう。
そもなんで信楽焼なんだとか色々ツッコミ入れたい気分になるのはあるが、狸狩りに必要なことだ、いまの自分に必要な力はこれなのだ。最大のものを与えられたなら、最大の成果をあげようではないか。
それに下ネタを抜きにすれば、エナジーブレードの刀身に必要な電磁気をチャージするという実に合理的な──でもやはり下ネタの感は否めない。
けれど、刀身から余波を弾き出して遠方の敵を近付けさせずして掃討する、実に合理的ではないか。
誰だいま射〇とか考えたやつ、出てこい。
「あらぁ、ご立派なものをお持ちで」
「いまそういう風には言ってほしくなかったかな!」
「どうしたの?」
「いや……ああもう!」
わざとらしい由比の言葉がリビドーとか前立腺とか色々刺激してくるが、それは無視!
目の前の狸、陰八相って幹部クラスにぶちかましたれい!!!
「道祖神から離れすぎたか!」
「え?」
「陰八相ども、子分らを呼んでる!」
確かに堤のうえに少しづつだが、陰八相以外の個体らもちまちま見受けられる。
「とっとと叩かないと不味いよ!」
「っ!」
「運転は変わらなくていい?」
「もうちょっとは意地でもやらせてもらいます!!」
エネルギーをチャージしたブレードを散開する連中へと横薙ぎに一閃。
余波がドライビングスクールと堤の方へ届いてばらばらと不穏な音を立てるが、
「人なんていないから好き放題やって!」
「はい!」
由比の言葉に村正は後押しされて、応えるように刀を再び振った。
「チャージ最大で五連撃はできるけど、時間がなければ二撃で干上がるのはしゃーない、間髪入れずに頭目らに集中!」
(やばい、このひと頼もしすぎる)
傍にいてくれるとそれだけで興奮するし、いい匂いするし、かっこいいお姉さんだ。控えめに言って、最高だ。
最初はわりとdisられたというか過小評価なんていま時点でもそう変わってない気がするが、この人が傍にいてくれるだけで、
「いける……!!!」
村正の迸るリビドーの結果、陰八相二頭目を打ち捨てるまでに幾度かチャージを挟んで七撃、最後の三頭目を前にした時点で子分らが堤を下ってきたのをガンモードで散らして、最後は斬撃飛ばしのコツを感覚が掴んで最初から数えて九度目の斬撃で奴を斃すことが叶った。
すると統制を失った子分らはあたふたとかけずって蜘蛛の子散らすようにしていったり、二匹ぐらいが堤の下に気絶してしまっていたので、村正は近寄るとその喉笛に容赦なくブレードを突き立ててトドメとした。
「初陣、お疲れ様」
「なんか、引けをとってばかりでしたよ、すいませんでした」
「十分だよ」
「あのっ」
「?」
「戦いに大事なことって、結局」
由比は村正の言葉に微笑みかけると、彼の顔にぐっと近づいて、唇に接吻した。
「狸狩るなら楽しまなきゃ損、でしょ?」
「……、ははっ」
村正はこのとき由比に、生き甲斐を拾って貰えたのかもしれない。
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