第9話 破門状がでまわる

お店で仕入れる商品はいくつもの問屋から仕入れる。

同じカテゴリーでも一社にしてしまうと高く売り付けられたりするので通常は二社以上の問屋と契約しておく。

問屋も全国規模の大手問屋から地方の中小規模の問屋までさまざまな会社と取引をしている。

中小規模の問屋は年々大手に買収されたり、経営に行き詰まり商売をやめたり、倒産したりして淘汰されている。


中小規模の問屋では時々独立する営業マンが出てくる。

商売自体がそれほど大規模ではなく、独立しても自分の家族が生活できて数人のアルバイトの給料を出せるくらいのビジネスをやっていけば、雇われている会社よりも月々の収入は高く得られるだろうという算段。

独立しても新たな商品供給元を開拓することはほとんどなく、今までの会社が取引していた元卸売業に依頼してみたり、また、商品を卸すお店もそれまで雇われていた会社の取引先に少しよい条件でセールスをかけたりするくらいだ。


円満退社、暖簾分けなら、元の会社の業務を分担して行うから何も問題は無い。

しかし、今まで雇われていた会社に内緒で秘密裏に事を進め、さまざまな取引の情報データベースも盗んで独立する人もいる。そういう人は会社では成績優秀な得意先を多く抱える営業マンだ。自分の力で会社は成り立っている。だからこの能力を独立して生かし今までよりも多くの金を稼ごうと思うようだ。

会社としてみれば裏切り者。

そんな状態で独立されても、会社の得意先を奪う盗人同然。


ある営業マンが独立したとお店に挨拶に来た。

見ず知らずの相手では無いが、新たに名刺を貰い取引するかは考えてみましょうということに。

しかし、どのお店もどのチェーン店の本部も、その営業マンとは取引をしない。

何故なら彼が挨拶回りをする前に、元の会社から「弊社●●会社営業職○○が退職したしました。弊社の顧客情報等を持ち出し自営業において営業活動をするようですが、弊社とは一切関係がございません。今後法的措置も考えており、○○においてはお得意先様にご迷惑をおかすることがあるとの所存でごさいます…」などの手紙が取引先には送られている。

破門状である。

この人とは関わらないて下さいねというお願いである。


取引先は変なトラブルに巻き込まれないようにその独立した営業マンを敬遠する。

独立なんてそんなに甘いものではない。

過信が大きく人生を狂わす。

その営業マンは姿を消した。

新たに問屋を始めたという話も聞かない。

また、どこかの問屋に再就職したという話も聞かない。

業界は広いようで狭い。

破門状恐るべし。

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