6.約束
「ねえ見て、あそこ明るくなってきた!」
「本当だ、綺麗だね」
朝が来るのに夕方みたいな景色で少し不思議な感覚になる。
たまにテスト勉強とかで徹夜した時に見ることがある景色とはまたべつの、どこか神秘的に感じる。
「ねえ、」
僕はいいことを思いついた。
「なに?」
僕達は移動に時間も体力も取られない。
「日の出見に行かない?」
「どこに?」
「…」
やってしまった…気持ちだけが先を行き場所を考えてなかった。
「考えてないんかーい」
彼女は笑う。
そうだ!あの海なら!
でも、日の入りが見えるってことは日の出は反対か。
あそこでの日の入りは見せたいから山とかいいかな。
うーん。
「富士山とか?」
日の出と言えば富士山じゃないかな。
「富士山?」
不安な気持ちを移動時間もないというメリットを伝えることで抑える。
「ほら、好きなところに一瞬で行けるし」
「たしかに、日の出と言えば富士山だよね」
彼女は納得してくれて居るようだった。
「行ったことないんだよね」
「僕も、友達とか富士山に初日の出見に行ったとかよく聞くけどね」
「あるあるじゃん」
僕達は笑い合う。
笑い終わり沈黙になった時僕は口を開く、
「夕日はさ、とっておきの所があるから楽しみにしててね」
僕はこの時ひとつのことを心に決めた。
彼女は少し驚いたような顔になる。
「楽しみ」
「凄い綺麗だからね」
「私が?」
「いや、その場所が」
「え、そっち?」
「うん」
僕達はまた笑いあった。
彼女の笑顔は何よりも綺麗だ。
2人で手を繋ぎ目を瞑る。
「よし、富士山を想像しよう」
「分かった」
身体が浮かぶ感覚と沈む感覚が同時にする。
風がないのに髪はふわふわと浮かび再び足と地面が結びつく。
目を開けると…
思わず感嘆の吐息が漏れる。
「綺麗だね」
「うん」
彼女の方を見る。
彼女の横顔。
オレンジ色の光に照らされ虹彩は茶色く美しい。
彼女との未来を想像してしまう。
訪れることの無い未来を。
心の奥底から悲しみが溢れ出る。
なんとも言えぬ切なさ。届かない願いを叶えようともがくことすら出来ない。
「ねえ、冬音」
「何?」
「デートに行こう」
太陽に照らされているからか彼女は顔を紅くして笑う。
「何いきなり」
「ご飯とかパンケーキとか行けないけどさ」
「死んでるもんね」
彼女は吹き出す。
僕も釣られて笑う。
ふと思いついた。
「その代わり博物館とか動物園とか無料どころか檻にまで入れるよ」
「おぉ!」
彼女は目を輝かせる。
「いく?」
「いく!」
これがずっと続けば幸せなのに。
そんな事を考えながら僕は水色の宇宙に浮かぶ星を眺める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます