5.星空
空を見ると同時にさっきとは違う爽やかで柔らかい風が僕らを包み込む。
そこには全てを吸い込むような漆黒でいて立体感のある宇宙に無数の星々が輝いていた。
僕達のいる場所は木や障害物が一切ない広大な芝で緩やかな丘のようになっている。
山でいえば山頂に2人きり。
草達が身を寄せ合う音だけが耳に触れ、瞳に入り込む闇で宇宙の広さを体感する。
「綺麗だ」
あまりの美しさにこの一言しか頭に浮かばない。
「でしょ これが見せたかったの」
僕はずっとやってみたかったことを提案する。
「ねえ横になってみない?プラネタリウムみたいにさ」
「いいね」
僕達は仰向けになりさらに大きく感じる大地と宇宙を全身で感じる。
彼女の手が僕の右手に触れる。
僕は一瞬ビックリしてその手を避けた。
「手、繋ぎたくない?」
今にも消えそうな声で彼女は言う。
そんなわけない。
僕は彼女の元へ帰る手を引き止め離さなかった。
「ほらあそこ、UFOとか見えるんじゃない?」
僕は1番大きく紅く煌めく星を指さす。
「宇宙人の秘密基地っぽい」
あんなに禍々しく煌めく紅い星を見たことは無かった。なんという名前なんだろう。
星がここまでハッキリと綺麗に見えるところに来るのは勿論初めてなのだがそもそも星を見ることに時間をとりしっかりと見た事すらなかった。
「いや、きっと宇宙船だよ」
体を移動させ彼女の肩に自分の肩を触れさせる。
「星じゃなくて?」
「だってさあれだけチカチカし過ぎじゃない?」
「たしかに!
「どんな宇宙人が乗ってるのかな」
彼女は嬉しそうに話す。
「そうだな、蛸みたいな体で顔はカエルかな」
「うぇ、気持ちわる」
そのとき、その星から白く強い光を放つ何かが飛び出し物凄いスピードでどこかへ消えていった。
「みた?いまの」
僕は恐怖と好奇心の入り交じる不思議な感覚とで石のように固まる口を無理やり動かす。
彼女は恐怖よりも好奇心が勝っているよな口調で答えた。
「うん、みた!流れ星かな」
「すぐ消えなかったからやっぱりあれは宇宙船だよ」
僕は幽霊もそうだけどUFOとか宇宙人とか、頭では広い宇宙のどこかにいると信じていても実際に目にすると怖いという感情が出てきてしまう。
そんな感情がつたわったのか彼女は笑う。
「ちょっと怖いんでしょ」
「うん、怖い」
「お化けなのにね」
「ほんと、なんでだろう」
僕は笑う。
少しの間沈黙が続く。
「本当に今日が最後なのかな」
悲しそうな声で聞いてくる。
あまりに幸せなこの時間が止まればいいのにと本気で思った。
「大丈夫、生まれ変わったらまた会えるよ」
「そうかな」
彼女の不安はこちらまで伝わってくる。
もう会えないと感じているのだろうか。
僕は彼女の不安を落ち着かせるため抱き締めようかと思った。
でも、実際にはできなかった。
「ずっとこのままでいたいね」
空を見ながら呟く。
「いれるよ、絶対に」
根拠の無い言葉を彼女に放つ。
「そうだよね」
僕は彼女の手を強く握る。
「うん…」
そうだ老爺と出会った場所を彼女に見せよう。
僕のおすすめの場所。
「ねえ、この後僕のおすすめの場所に行こうよ」
「え?どこ?」
「凄い綺麗なところだよ」
「楽しみだな」
横を見ると彼女の宇宙を映す瞳は涙を流していた。
「冬音」
「なに?」
僕は今からしようとしていることに不思議と緊張やいやらしい気持ちは全くなかった。
彼女を安心させ一緒にいたいという気持ちしかなかったから。
僕は彼女を強く抱き寄せた。
僕の胸にうずくまる彼女は震えていた。
これ以上何も出来なかった。
悔しさ悲しさで僕も押し潰され涙が流れる。
頬を垂れる涙は溜まっていき地面に落ちる。
僕達はしばらく抱き合っていた。
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