五人目 私は君と同じで、化け物だ
「私は人間じゃない。」
無邪気に笑う子供のように、声に楽しそうだというのが滲み出ている。一見からかわれているようにも見えるが、その目は真剣そのものだった。鈴虫が鳴いた。とても微かだった。その鳴き声が分かるほど、周りは静かだった。
「…冗談は大概にしなよ、おじさん。もう大人でしょ?子供をからかうことになんの躊躇いもないの?」
嘘だよといって笑ってくれと言うように、怯えたような表情で響は見つめる。しかし男は表情を変えない。まるで、時が止まっているように、時間だけが刻々と過ぎていく。
「なんだよ、どういうことだよ…?」
何かを話していないと落ち着かないのか、響は焦って怒ったように話始める。だが男はその話を聞いていないのか、或いは聞いても何も変わらないという無言のアピールなのか…「じゃあ、これならどうだ?」
そう言う彼の手には、美しい程月のように輝くナイフだった。彼はそのナイフを振り上げて自分の白い腕に突き刺した。その途端苺のように赤い液体が流れ出す。ドロドロと溢れてくるその血に響は顔をしかめる。男は何事もなかったかのようにナイフを自身の腕から抜く。すると、目に見えない糸で縫われていくようにするすると傷口は治っていく。呆気にとられた響を見て男は、ね?というように少しだけ口角をあげて腕を見せた。まるでマジシャンがマジックを見せたあとのような、そんな茶目っ気のある笑顔だった。「これを見たら、私が人間じゃないということを信じてくれたかな?」
ニコリと笑っていう男に響は青ざめた顔で素直に頷いた。よろしい、と教師のように満足そうに頷く彼は椅子に座り直すと、
「さて、では君が落ちたときの血溜りの量は異常だったね?しかし今は軽傷だ。そして今の私の傷が一瞬で治ったこと。この3つからどう考える?」
そう聞くと響はまさかと云うように目を見開く。
「嫌だ、考えたくもない…だって、俺は…」
「君は、君も人間じゃないんだよ」
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