三人目 お願いだから死なせてくれ
「これが、どういう意味かわかるかい?」
ふっ、と笑った男に少年は目を見開く。意味が分からない。まるで、目の前で少年から角が生えてくるとでも思っているのかと疑いそうになる、彼の好奇に満ちた目。それは見ている人間を引き込むような、深い海のような青緑色の目だった。
「どういうことだよ、おじさん。」
一瞬怯んだ後、少年は男を睨み付ける。飄々とした彼を見ていたら、何故だか腹が立ってきた。
(俺は本気なのに…)
「ねえおじさん、なんで俺は軽傷なの?」
ニヤリと笑った男は無言で部屋のテレビを付ける。テレビからは何処かの中継が流れており、アナウンサーが街灯に照らされて映っていた。
「現場から中継です、今日未明A市のs会社で14歳の秋谷響さんが屋上から落ちたとの通報がありました。ビルの下には大量の血溜りがありましたが、遺体はなかったようです。血の跡が何処かに続いているということは無く、少年はそこから移動した形跡はないようです。警察はこの不可思議な事件を捜査するもよう。」
そこで次のニュースに切り替わる。当の本人は狐につままれたような顔をし、テレビと男を順番に見る。その目は恐怖に満ちている。
「何故…何故俺はここにいる…?」
「世間では、これだけの血を流していれば死んだんだろうと思われている。」
淡々と述べる彼の横顔を見つめる。美しかった。しかし何処か悲しそうな、パズルのピースが何個かはまっていないような…そういった雰囲気がどことなくあった。
「ところで少年、何故死のうとした?」
少年の視線に気付いたのか、それともたんに気になっただけか…男は少年に話しかける。
「…別に、無理やり言えって言ってはいないよ。ただの興味本位だ、赤の他人にわざわざ言う必要もない。」
軽くそう言うが、少年に向けられた目は彼の心のなかを探るように鋭かった。一瞬、部屋の温度が低くなるように、少年の背筋は凍る。
こいつは危ない
そう感じた。しかし言わないからといってそれといったメリットもない。そう思ったのか静かに口をあける。
「死にたかった。ただ純粋に、周りの人間…否、自分も含めて人間が…」
「嫌になったんだ」
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