告白
翠の告白を聞いて、茉里は自分の手を見た。翠と自分の手を交互に見て、自分が今、あまりに冷静であることを知った。
「分かっていました。あの時、あなたの遺体を見たときに。あれは私が持っていた湖岸の石が見せた真実。翠さん、他にも何かあるんですよね? 旦那さんのことで」
翠は、頷いた。
「私たち親子は、夫に殺された。あなたがあのペンションに来る一週間前のことよ。夫は私たちの遺体を湖に沈めて、ペンションを焼いた。あの人がどうしてあんなことをしたのかは分からない。本当に優しくていい人だったから。だから、私たち親子はそれが分からなくて、意識だけを湖の中から引っ張り出して幻を作り上げた。そこへ、あなたがやってきた。二週間前に私たちが出した求人広告を見て」
「じゃあ、私はないはずの場所にいて、ないはずのバイトをしていたんですか? お客さんは? 仕入れたものやお料理は?」
翠は、うなだれて、ドリンクバーのグラスから手を放した。グラスの水滴に手の痕はなかった。
「すべて幻。過ぎた時間も幻なの。お客さんは過去にいらした方の記憶をたどって引っ張り出してきたの」
目の前にいる翠は幻。
真実を語る翠は幻なのに、茉里はまったく怖くなかった。確かに、この店に入る時に何か変な感じはした。ドリンクバーを取りに行くときに、翠は、トイレに行くから自分の分も汲んでおいてくれと頼んできた。入店するときには姿を見せていたのか、店員は何の迷いもなく二名様と言っていた。それが、意識を強く持って幻を見せるほどにまで成長した幽霊の姿なのだとすると、納得がいく。
「じゃあ、及川さんは? 壮太さんを助けてくれって言ったのは?」
翠は、茉里の質問に何の迷いもなく答えた。
「及川は、二十年前に死んだ私の兄だと思う。兄は、自分を飲み込んだあの湖で、壮太が苦しんで憎しみを募らせていくところを見ていた。だから、あの子のことを助けてって言ったんだと思うわ」
「憎しみ?」
翠は、頷いた。
「父親に対する憎しみ。今の壮太は、憎しみにとらわれて湖から出ることができなくなってしまった。ペンションであなたを湖の底に引きずり込もうとしたのも、そもそも、ペンションを復活させてあなたを呼んだのもあの子だった。あの子の憎しみの鎖に繋がれて動けなくなってしまった私は、あの子のに従うしかなかった。そこで、あなたは兄・及川の力の及んだ石を拾ってくれた」
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