第7話 魔法少女マンタ

 今年で十六年目を迎える、某魔法少女アニメ。そのアニメはコ◯ナ禍により放送を中断せざるを得なかった。

 仕方がないんだ。僕だって本当は悲しい。だけど、◯型コ◯ナが悪いんだ。アニメ制作会社だって辛いはず。けれど……。


 二月から始まった新シリーズが春になったら見れなくなった。僕は何を楽しみに生きればいいんだ。


 ふと、異世界マン喫が視界に映る。

 ……この店、コーヒーもパンケーキもソフトクリームもパフェも、何を食べてもまずいんだけど、ラーメンと餃子と炒飯は凄く美味しいんだよな。中華料理に強いという、なんともおかしな喫茶店だ。

 そうだな……ラーメンでも食べて行くか。


 カランカラン。


「……ei。おや、表参道さんではありませんか。お久しぶりですね」

竹下通たけしたとおるです」

「まあまあ、似たようなモンですから。いいじゃありませんか、ei」

「マスターって、実は、竹下通りも表参道も行ったことがないでしょう。分かりますよ」

「フォー◯を飛ばして行った気分に浸ったことならありますよ、ei」


 相変わらず、変なマンタだ。それにしても……。


「マスター、今日はどうしてそんな服を着ているんですか? いつも裸体なのに」

「破廉恥な言い方は禁止です。ei。見て分かりませんか、実は私、魔法少女になったんです」

「マスターは雌だったんですね。てっきり雄かと──」

「黙りゃんさーい! 性別は伏せてあります。表参道さんは、まずは空気を読むところから始めなさい。修行はそれからです、ei」

「なんの修行ですか、なんの。じゃなくて! その衣装は、まさか──!」

「エーイ、やっぱり分かりますか? そうです良い子のみんなが大好きなプ◯◯◯◯です、ei」

「頭文字以外は全て伏字にしましたね。賢明な判断です。その姿を見たら、良い子のみんなが怒り狂いそうです。かくいう僕も、キュ◯ス◯ーのピンクの衣装を太った肉皿が着ているかと思うと、頭が沸騰して湯気が出そうですよ。ええ、ええそれはもう本当に!」

「表参道さん。貴方のような客が現れるから、異世界マンタが登場する某小説の作者の性別が分からなくなる読者が出てくるんですよ、ei。男かと思えば女なのか、かと思えば、やっぱり──という感じで、よく間違われるそうですよ。私には何の関係もありませんけどね、ei」

「なんでもいいから、さっさとその衣装を脱ぎなさい! 断じて許せん!」

「きーらー◯ーくー♪ ほー◯ーの◯でー♪ 憧れのー♪ 私◯くよー♪ エーイ!!」

「太った肉皿が変身シーンの歌を歌うな! 伏せても分かる。というかもっと伏せろ!」

「ス◯ートゥ◯ンクル♪ プ◯◯◯◯ー! プ◯◯◯◯ー! アアー!」

「シリーズ初の! 初めて変身シーンにBGMだけじゃなく歌詞もついた記念すべきシリーズだったのに! それをこんな生臭い異世界海洋生物にコスプレされて歌われるとは!」

「まあまあ、表参道さん、コーヒーでも飲んで落ち着きましょうよ。奢りませんが、ei」

「奢りでもいらん。はあ……」


額を抑えて溜息を吐くと、マスター・マンタがコーヒーカップをコトリと置いた。


「奢りじゃありません」

「いりません」

「エーイ業妨害する気ですか、ei」


 エーイ業妨害するつもりはなかったけれど、確かに、店に入って何も注文しないのはまずいか。ラーメンを食べる気も失せたし、このコーヒーでいいか。

 それにしても……。


「マスターは、なんで昨年シリーズのコスプレをしているんですか? どうせなら最新作のコスプレをすればいいのに」

「ei? 今年のプ◯◯◯◯は、ス◯ートィ◯クルですよね?」

「違いますよ、それは去年のシリーズ。今年は、ヒー◯ング◯とプ◯◯◯◯です」

「エーイ!! 魔法少女が出てくる、あの大好きなシリーズは去年で終わってしまったんですか!」

「ま、ちょ、ちょっと待て」


 この異世界マンタは、どうやら重大な勘違いをしているようだ。


「魔法少女が登場するシリーズは、魔法◯かいプ◯◯◯◯です。マスター、ス◯ートィ◯クルプ◯◯◯◯に魔法少女は登場しませんよ」


 マスター・マンタは涙を流しながら衣装を脱ぎ始めた。なんだか少し可哀想な気がしてきた。


「ガッカリしないで、マスター。どちらのシリーズも有料配信されていますから、そこで見れますよ。なんならお勧めの動画配信サイトを教えますから」


 マスター・マンタは衣装を脱ぎ終えると、カウンターに座って出前のラーメンを食べ始めた。


「実はですね、プ◯◯◯◯は変身シーンしか知らないんですよ。『よーっつべー』だったかな? そのサイトで変身シーンを見たら、私も変身したくなりましてね、ei。フォー◯を操れる私なら、簡単に変身できちゃうと思いましてね、ei」


 僕はマスター・マンタからラーメンを引ったくって食べ始めた。出前のラーメンのはずなのに店のラーメンと同じ味がする。知らん。もうなんでもいい!


「な、な、な、なにをするんですか、表参道さん! 私のラーメンですよ、ei!」


 僕はこの店に来ると、竹下通から表参道に変身する。

 この肉皿が竹下通りと表参道の区別がつかない理由がわかった気がした。


「ラーメン返してくださいよ、ei!」

「黙れ肉皿!!」



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