第6話 バレンタイン・エイ
『エイ行中』
エイ行中。
エイギョウチュウ。
営業中。
僕はドアを蹴り破る勢いで開けた。
「貴様というマンタはー!!」
「慌しいと思ったら、急急如律料理店の出前係の
「漢字とルビが合ってないんだよ! せめて象と書いてパオーンくらい言え!」
「ei。それで、パオーンさん。いったいどうしたんですか?」
「素直にパオーンと呼ばれると、それはそれでムカつく」
「ワガママですねえ、ei」
僕はカウンター席に腰を下ろし、マスター・マンタに詰問した。
「ホラーメン対決から、どうして逃げた?」
「ei? なんのお話でしょう」
「とぼけるな! 新メニューのホラーメンと、急急如律料理店のイチオシ料理で対決しようと提案したのはマスターですよね?」
「エーイ」
「適当に答えるな! ずっと待っていたんですよ? 9日後の9時9分開始だったはずです」
マスター・マンタは風船の上に飛び乗って、ボヨンボヨンとトランポリンみたいに飛び跳ねて遊んでいる。
「敵前逃亡するなんて、恥ずかしいと思わないんですか?」
「エーイ。よく考えてください。本格中華料理店のメニューと異世界マンタが経営する喫茶店の料理じゃ、勝負になりませんよね? エーイエーイ」
「その差を理解したうえで、勝負を挑んだんじゃないんですか?」
ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン、ボヨンボヨン。
「……勝手に人の胸をボヨンボヨンボヨンボヨンと触るなー!!」
「最近この国の『セクハラ』という文化に興味持ちましてね、ei」
駄目だ、この異世界マンタと会話をすると恐ろしく疲れる。
いや、いまに始まった話じゃない。急な話じゃない。キュウリとキュウリ漬けとタコきゅうのミックスジュースを飲まされた時から、僕はマスター・マンタの性格を思い知ったはずだ。キュウリは旨かった。
「頭の中がきゅうきゅうとうるさいですね。勝負は中止です。9が付くナントカとか、約束した憶えはありませんし、ei」
「珍しく一話完結じゃなかったんですよ。続きをやりましょうよ」
「ですが、大西洋マグロ(パオーン)さん、ホラーメンじゃ勝負にならないんですよ。ただのエイの千切りを濃厚エイ出汁スープに放り込んだだけなので、ei」
「いつものエイ料理じゃないですか! 2カ月も引っ張る意味がわからないんですが! ていうかもう、どこから突っ込んだらいいのか分からん」
分からんけど、わかっていたはずだ。絶対にしょーもない結末を迎えると。
「ところで、ホルスタイン乳牛のミッシー(パオーン)さん。今日からバレンタイン・エイを始めました。気になりますか? 今日はバレンタインデーの翌日です。9日後の9時9分にバレンタイン・エイの謎が解けるかもしれませんよ、ei」
「何もかもが強烈にズレすぎてて、もう従いていけません」
項垂れている僕に、マスター・マンタが声を掛けた。
「お財布スッカラカンの夜明け」
何故、この店に来る前にスクラッ○100枚全滅したことを知っているんだ!
いや、きっと、全てはフォー○の導きなんだろう。
この店に来ると、僕は世界の有名珍獣になる。呼び方は全てパオーン。
これもきっと、フォー○の導きに違いない。
「ヘイ、シリ。ヘイシリ。ジャイアントコーン。シリ。コーン。エーイ」
「豊胸してねえよ!」
「フォー○のあらんことを」
「勝手に誤解して励ますな!」
バレンタイン・エイの謎は謎のままでいい。
何故なら、バレンタイン・エイに謎など存在しないからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます