第21話 再会

 どうやらブルージーンズの匂いは、あの子から春風に乗って、俺の鼻腔にまで届いたようだ。


 サラサラとした長い銀髪という派手さが際立つその子は、おいしそうに何かを飲んでいる。


 あれは何だろうな。ひょっとして……いや、間違いない。


 自分とお冬さん以外には軒並み不評だった、至高の珍品である柑橘系乳飲料、みかん牛乳ではないか。


 俺は不思議な感動を覚えた。まさかこの大学に、俺と全く同じ趣味嗜好を持った人間が存在していたなんて。


 しかも相手は女の子だというのだ。これはもしかすると、彼女が俺にとっての運命の相手だという事ではないのか?


 大城よ、まさしくお前の言っていた通りだな。


 どうやら〝新しい恋〟なるものは、早くも入学初日にして見つかりそうな予感がするぜ。


 好みのものはバッチリと合いそうだから、きっと話もしやすいだろう。


 俺は頭の中で会話のイメージトレーニングをした後、思い切って、銀髪の女の子に声をかけることにした。


「あああ、あのっ」


「はい?」


「ええとですね。……あれ?」


「あ! 浩ちゃんだよね?」


「は? ……ええええええっ」


 俺は思わず、周囲の視線を浴びるほどの大声をあげてしまった。


 爽やかなブルージーンズの香りで身を包み、みかん牛乳を飲んでいた女の子は誰あろう、数時間前に悲しい別れをしたばかりのお冬さん本人だったのだ。


「よかった。ここにいればまた浩ちゃんに会える気がしてたんだ」


「な、何で? も、も、も」


「『もう二度と会えない、って思ってたのに』って?」


 あまりの驚きに言葉が詰まり、俺は何度も頷いた。


「あはは……実はあたし、あの後、冬の神様に怒られちゃったんだ。『冬が人間に会いに行くなんて前代未聞だ』って」


「怒られた?」


「うん。だから、バツとして人間に格下げされちゃったの」


 と言って彼女は、軽く舌を出してはにかんでみせた。

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