第17話 思い出の一枚
「そうだよね。もう、みかん牛乳が飲めなくなっちゃうもんね」
お冬さんはそう言うと、寂しげな表情を隠すかのように、つとめて明るく笑ってみせた。
あえて俺に会えなくなるから、と言わなかったのは、もしかすると俺に気を遣った彼女なりの優しさなのかも知れない。
「あたし、もう行かないと」
「うっ」
「浩ちゃん、ありがとね。すごく楽しかったよ」
「ま、待てよ。せっかくだからさ、一緒に写真でも撮っていかないか?」
「シャシン? それってなーに?」
「つくづく世間知らずだな……まあ季節だから仕方ないけど」
「あ! 分かった!」
「え?」
「これの事でしょ」
と言いながら、お冬さんはキャミソールワンピースの肩ひもをずらし始めた。
「わーっ違う違う! 何でそうなる!」
俺は慌てて、彼女の凍えそうなくらいに冷えた手を制し、
「でもあたし、これ以外に着ているものないよ。取るってそういう事じゃないの?」
「え、それしか着てないって事は……」
「これを脱いだら裸だよ」
そのセリフを聞いた途端、俺はつい本能のおもむくまま、彼女の首から下の方に目をやってしまった。
いかんいかん、これでは下心が丸見えだ。
「とくかくそれじゃないんだよ。写真っていうのは、そうだなぁ、二人の思い出を残しておく事って言えば分かるかな」
「思い出?」
「そう。で、これは、俺とお冬さんが出会ったことを、ずっと画像にして残しておける便利な機械なんだ」
と、俺は手に持った携帯電話の、保存しておいた写真の一枚をお冬さんに見せてみた。
「画像? よく分かんないけど、テレビみたいなの?」
「まあそんなもんかな、いや違うか。というかテレビとかCMのことを知ってるなら、カメラの事も伝わって来てるだろ?」
「あ、カメラなら知ってるよ。『おしょーがつをパチリ』っての、去年の終わりごろにテレビのCMでやってたよね」
そのCMだと言うほど伝わっていないような気もするな。
百聞は一見にしかずと言うし、これは口で説明するよりも、行動に移してみせた方が早いかも知れない。
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