第15話 覚悟の時

「ねえ。浩ちゃん」


「ん?」


「こんなあたしの事、好きになってくれる?」


 次の会話の口火を切ったのはお冬さんの方だった。


 しかも、いきなり火の玉ストレートのセリフをド真ん中に放り込んできたのである。


 お冬さんはわざわざ俺の所まで謝りに来てくれたし、性格もよさそうだから嫌いだということはない。


 というか、むしろ好みのタイプだと言える。


 何より美少女だし、サラリとした銀色の長髪は俺にはどストライクだ。


 若干細身だが、出るところは出ているそのスタイルも申し分ない。


 だが俺は彼女の問いに、すぐさま、ハッキリと答えることができなかった。


 なぜなら、この質問はつまり、俺がこれまで忌み嫌ってきた〝冬〟を好きになってくれるか? という風にも受け取れたからだ。


「そ、そうだな」


「……ねぇ。今、どうしてそんなに間が空いたの?」


「えっ」


「返事も何だかおかしいし、ほんとは嫌いなの?」


「ち、違うよ、そんな事ないって!」


 俺は全力で否定した。


「今だから正直に言うけど、俺、女の子と付き合った事が無かったんだ。だから、こういうのに慣れてなくてさ。ははは」


「そうなの?」


「うん。恥ずかしながら」


「じゃあ、浩ちゃんにとって、あたしが初めてのひとって事になるのかな」


「まぁ……そうなるわな」


「うふふ。そっかぁ」


 と、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇ。もっかい聞いてもいい?」


「……うん」


「あたしの事、好きになってくれる?」


 よーし。今度はもう迷わないし、うろたえないぞ。


 俺は、自分を好きになってくれた相手が、冬という季節そのものだという事もすっかり忘れ、寝間着のえりを正してその場に正座した。


 女性に対して愛の告白をする場合、ここまで決意と姿勢を改めなければならないものなのかは分からないけれど、とにかく、俺は俺なりに準備は整えたつもりだ。


 ――江崎浩介、十八歳。


 生まれてこの方、恋愛経験は一切無し。


 そんな非モテ野郎の俺が、ついに、恋愛という未知のゾーンに足を踏み入れようとしているのである。


 あとは、俺の彼女に対する気持ちを正直に伝えるだけなんだ。


 さあ、勇気を持って踏み出せ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る