第14話 「好き」と言われて
「……あ。おいしい!」
お冬さんはみかん牛乳をひと口飲むと、目を輝かせてそう言った。
「ほ、本当か?」
「うん! 甘酸っぱくてつぶつぶがたくさん入ってて、牛乳のまろやかな感じがすっごく合ってると思うよ」
「そうだろう、そうだろう。やっぱり、俺の目に狂いはなかったな。はっはっは」
などと高笑いをしてみせたものの、実を言うと、俺の周囲でのみかん牛乳に対する評価は、耳を
「酸っぱいのは苦手だからパス」
「牛乳とみかんを混ぜる必要性が感じられない」
「素材の配合率合ってるか? これ」
「牛乳とみかんジュースを別々に飲む方が健康的だわ」
「百五十円返せよ」
「こんなものを奨めたお前を呪ってやる」
など。
だから、お冬さんのように喜んでもらえることが逆に新鮮で、まるで自分が褒められたかのように嬉しく感じた。
彼女は、初めて俺と趣味が合った人、もとい、季節なのだ。
そのせいもあってか、俺はいつの間にか、この子に対して親近感のようなものを覚えてていた。
いや、彼女の外見やしぐさ、そして先ほどの告白に胸の高鳴りを覚えたあたり、ひょっとするとこの感情は親近感ではなく〝恋愛感情〟というものなのかも知れない。
「やるねー、浩ちゃん。人は見かけによらないって本当だね」
「どういう意味だよ」
「浩ちゃんの好きなもの、あたしも好きだよ」
「おっ。そ、そうなのか」
「うん!」
面と向かって好きと言われると、俺はすぐ表情に出てしまうタイプらしい。
熱く火照ったニヤケ顔を悟られないよう、俺はふいに何もない天井へ目をやり、そのまま黙りこんでしまった。
かたやお冬さんの方も、そんな俺を見て自分の告白に照れてしまったのか、紅色に染まった頬を隠すように、下を向いてモジモジしている。
そんなもどかしい時間がしばらく続いた。
こういう場合、俺はどうすりゃいいんだろう。
俺自身、あまり口が上手い方じゃないから気の利いた言葉も思い浮かばないし、会話と間をを繋いでくれたみかん牛乳も、すでに空き瓶と化している。
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