第13話 潤しのみかん牛乳
「す、すまん。ちょっとノドが乾いたから、飲み物でも取ってくるよ。お冬さんも何か飲むか?」
「うん!」
彼女は元気いっぱいに返事をした。
「あたし、アワの出るやつがいいな」
「アワ? 炭酸飲料が好きなのか?」
「よく〝てれび〟の〝しーえむ〟で言ってたじゃない? 『この冬だからこそくせになるアワとノド越し、本格ドラフトスーパー』って」
「そりゃビールだろ、ダメダメ」
「びーる? 何で?」
「ビールはお酒なんだから、お冬さんみたいな子供が飲むようなもんじゃないの」
「あたし子供じゃないもん!」
と言ってふくれっ面をするところが、いかにも子供っぽくてかわいらしかった。
もっとも、俺もまだ未成年なので、冷蔵庫にビールなど置いていなかったのだが。
「ほら。これでガマンしなさい」
「なぁに、これ?」
「ふふっ、聞いて驚くなよ。俺が最近ハマったマイブームの乳飲料、その名も〝みかん牛乳〟だ!」
「…………」
「ん、どうした? お冬さん。遠慮なく飲んでいいんだぞ」
「変なの!」
「ぐはああぁ」
俺はその場に崩れ落ちた。
あらゆる変わったジュースを飲み比べること十八年、やっとこさ出会った至高の珍品、それがみかん牛乳だった。
これまでの苦難だった道のりを「変なの」のひと言でアッサリ否定してくるとは、お冬さん、なかなか容赦がないな。
「バッバカ言うんじゃねーよ、見た目は……確かに変だけど、大事なのはそこじゃないから」
「ねえ、浩ちゃん。お友達に『趣味が悪い』ってよく言われるでしょ」
「ぐっ。そ、それは言わないでくれ」
さらに図星を突かれ、もはや、俺の心はレフェリーストップ寸前のグロッキー状態である。
「だから、冬を彼女にしたいとか言い出してさぁー」
「あああぁ、それを蒸し返すな! 黙って飲め!」
「きゃっ。浩ちゃんこわーい」
「まったく、冬のくせに人間をからかいやがって。そもそも、みかん牛乳はこう見えても結構うまいんだからな」
とは言ったものの、みかん牛乳はなにぶんにも珍品中の珍品なもので、彼女が口をつけてくれるのかどうかは非常に気になるところだ。
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