第11話 とある日の積雪

「……というと、俺が引っ越しを終えた次の日の事だったかな」


「うん」


「あの日の事ならよく覚えてるよ。何しろ、この地域にあれだけたくさんの雪が積もったのは五年ぶりだったらしいからな。俺もつい浮かれちゃってさ」


「とても嬉しそうだったよね」


「空に向かって『もっと積もれば雪だるまが作れるのにな』って言ってたら、そのあと本当に大雪が降ってきたもんだからびっくりしたよ」


「……あはは」


 と、彼女はなぜか遠慮がちな声で笑った。


「あんな経験は子供の時以来だったから、久しぶりに雪だるまでも作ろうって思ったんだよな。しかも昼飯を食うのも忘れるくらい、雪転がしに夢中になってさ」


「そうだったね」


「で、その時にかいた汗が原因で体が冷え込んじゃって、風邪を引いて、危うく肺炎になりかけちまったんだよなぁ。ははは、俺ってほんとバカだわ」


「ごめんなさいっ!」


 突然、お冬さんが勢いよく頭を下げた。


「えっ。な、何だよ急に。もしかして、その事を謝りに来たのか?」


「うん、そうなの」


「いやいや、ちょっと待てよ。さっきスケジュール通りに雪を降らせるのがお冬さんの仕事って言ってたじゃないか。だったら別に謝るような事じゃないだろ?」


「違うの。あの日の予定では十センチくらいの積雪のつもりだったんだけど、つい降らせすぎちゃったのよ」


 そういうえば当日の気象ニュースでは、都内の一部で二十センチほどの雪が積もったと言っていたな。さすがに二倍となると降らせすぎなのか。


「あの時、嫌われてると思ってた浩ちゃんが雪の事を喜んでくれたから、あたしまで嬉しくなって。で、雪を積もらせるためには、もっと気温を下げないといけないじゃない? それでつい調子に乗っちゃって……」


 とまで言って口ごもったお冬さんは、申し訳無さそうな表情で俺の顔色を伺ってきた。


 どうやら、彼女は自分のせいで俺が風邪を引き、肺炎になりかけた事で、罪の意識にさいなまれているようだ。

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