第10話 キョーレツな罵詈雑言

「まあ、栽培とか食い物の保存なんかは学校で習ったし否定はしないけどさ。ありがたく思ってくれる人が多いって言うのなら、わざわざ少数派な俺のところに来る理由はないだろ?」


「うん。本当は、人間のところへ来るつもりもなかったの。でも、浩ちゃんにだけはどうしても謝りたくて」


「うむむ。俺だけにとな」


 そう言われると、なんだかこの子が健気に思えてきた。


 確かに、昨年の末から今年の三月ごろにかけてさんざん凍えさせられはしたが、その事を謝りに来たというだけで、このお冬さんは一番律儀ではある。


 何たって、それまでの十七年に及ぶ冬は顔すら出さなかったんだから、その点だけは汲んであげるべきかもしれない。


「話は分かったけど、どうして俺のところへだけ謝りに来たんだ? 冬を嫌っている人は、たぶん俺以外にもたくさんいたはずだろ」


「うん、たくさんいたよ。だけど、あたしへの文句は浩介くんのが一番〝キョーレツ〟だったから……」


「そうだったっけ?」


「毎日のように、あたしに恨み言を並べてたじゃない。それこそもう、耳をふさぎたくなるくらいにね」


「は、ははは……」


 と、笑いでごまかしてはみたが、俺の顔はあからさまに引きつっていた。


 確かに、俺の冬に対する罵詈雑言のレパートリーは自分でも呆れるくらいに多く、そして、その内容も手厳しいものだったのだ。


「何だテメーこの寒さは! バカか!!」


「寒くて痛いって意味が分かんねーんだよ! この人殺し!」


「何なんだよ明日の最低気温は零度って! 凍死させる気か! お前が死ね!」


「十二月から二月まで無くせやボケ!」


 ……いやぁ、思い返せば我ながら最低な罵詈雑言だ。


 お冬さんは冬という季節そのものだから、そういう不平不満や文句には慣れっこだっかのかも知れないが、これが普通の女性だったとしたら、その子は果たして泣いていたかも知れない。


「浩ちゃん、寝言でも冬の文句言ってたよ。よほどあたしの事が嫌いだったんだね」


「まぁな、俺は年季の入った冬嫌いだから。さすがに寝言のことは記憶にないけど、確かに色々不満は言ってきたよ」


「だよね」


「でも、冬を司るのはお冬さんの仕事だろ? 俺、自分でも面倒くさい性格だと思ってるけどさ、四季はどうしても変えられないことくらいはさすがに分かってるよ」


「じゃあ、怒ってないの?」


「ああ。ついついグチを言いたくなっちゃっただけなんだよ、あんまり気にするなって」


 なんて、冬にフォローをいれる俺は一体何なんだろう、という気がしなくもない。


「ありがと。でも、本当に謝りたいのはその事じゃないんだ」


「ん? 他に何かあったっけ」


「覚えてる? このアパートの敷地内が大雪になった日の事。浩ちゃんが『もう三月の半ばだってのに』って驚いてたあの日よ」

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