第9話 謝罪
「それで? 何しに来たんだって聞いてるんだよ俺は」
「あ、そうだった。あのね、あたし、浩ちゃんに謝りに来たのよ」
「へ? 謝る?」
「うん。冬が嫌いなんでしょ?」
確かに俺は、今まで人目をはばからずにそう公言してきた。そのことは冬が始まって以来、今日までずっとこの子の耳に伝わっていたのだ。
「なんだよ、そんな事か」
「『そんな事か』って何よ。人がわざわざ風に乗って足を運んで来たのに」
人とか足を運ぶとか、いろいろと突っ込みたくなるフレーズばかりだが、イラッとくるのが先だった。
「ずいぶんと恩着せがましいことを言うじゃないか」
「えっ、どういうこと?」
「これまで十八年間、さんざん人に痛い思いをさせておいてさ。俺が七歳の頃なんか、大晦日の日に降った大雪のせいですっ転んで尾てい骨にヒビが入ったんだぞ。それを今さらわびに来たって言うんだろ。遅すぎて話にならねえよ」
「ち、違うよぅ。あたしは、浩ちゃんにとって十八番目の冬なの。浩ちゃんがケガをしたのは、他の冬の時でしょ」
「冬のせいだって事には違いないじゃねぇかよ!」
「で、でも……」
「結局この冬も寒かったし雪風のせいで顔はイテーし、クリスマスは一人ぼっちだったしで何にもいいことがなかったんだぞ。せっかく謝りに来るのなら、おわびが遅くなりましたって菓子折りでも持ってくるのが誠意ってもんじゃないのかい。ええ、お嬢ちゃんよう」
ヒートアップしてまくしたてるあまり、多少おかしな言い回しと彼女に関係のない事柄が混じってしまった。ともあれ、冬に誠意を求める人間なんて、俺が人類の歴史上初めてではないだろうか。
何だかその行為自体がアホくさく思えてきて、もはやこれ以上怒る気にもならなくなったが、言われた当の彼女は、意外にも責任を感じているようだった。
「確かにあたしは、この冬でみんなに寒い思いをさせてしまったし、降らせた雪の除雪作業も大変だったと聞いているわ。でも、これは全て冬のスケジュールとして毎日細かく決められた事だから、仕方なかったのよ」
「…………」
「それに、冬だからこそ栽培ができる作物もあるし、寒気を上手に使って食料を保存している人だってたくさんいるわ。スキーとかスノーボードみたいに、ウインタースポーツを楽しんでいる人だっていたでしょう?」
「む、確かに……」
「浩ちゃんにとって、あたしたちの存在は忌まわしいものなのかも知れないけど、中には、あたしたちの事をありがたく思ってくれている人もいるんだよ」
そこまで言われると、俺にはもう返す言葉もなかった。
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