第7話 管理番号37425
決して他人に聞かれてはいけない痛い妄想を、彼女にしっかりと聞かれていた。こんなの末代までの大恥だ。
俺は発狂寸前で何度も壁に頭を打ちつけた。
「わっ、何してるの!?」
「そんな事を聞かれたらもう生きていけねぇ、いっそのことこのまま死んでやるんだ」
「別にあたしに聞かれたくらい平気でしょ」
「平気じゃねえ、むしろ一番聞かれたくない!」
「いいじゃない、せっかく好きになってくれるきっかけができたんだし。でしょ?」
「うっ、うーん。まぁ当の本人がそう言ってくれるのなら……」
「うんうん」
と言って彼女はニッコリと笑った。
「まぁ話は分かったよ。信じがたいけど、君は本当に冬なんだな」
「そ」
「で、ここには何しに来たんだ? えーと、名前なんだっけ」
「名前なんてあるわけないじゃない。あたしは冬なんだよ」
「でも、冬以外の呼び方くらいはあるだろ?」
「うーんとね。正確には日本担当の冬で、管理番号で呼ぶなら三七四二五になるけど」
「えぇ? そんな番号とかじゃ会話がしにくいだろ。もっと他にないのか?」
「じゃあ、こんなのはどう? さっきの『お冬さん』っていうの」
「うぐっ」
どうも、彼女は根に持つ性格のようだ。
「ふふふ、いいアイデアでしょ。さあ、遠慮なくどうぞ」
「お、お冬さん」
「はぁい。浩ちゃん」
と言って、彼女は上目づかいに俺の顔をのぞき込んできた。そのしぐさと甘えた声に、思わず胸がときめいてしまう。
「ななな、なにが『浩ちゃん』だよ。人のことを勝手にアダ名で呼ぶなよな」
「いいじゃん。あっ、もしかして浩ちゃん照れちゃってるの? かっわいいんだ」
くそっ、完全に手玉に取られてしまっている。
「ふっ。バカ言ってるんじゃないぜ。浩ちゃんなんて、これまで愛し合ってきた数多の女に呼ばれ飽きて困ってたところさ」
「へー。ところでさ、これなぁに?」
「うおおぃ、あっさり流すな!」
人がせっかくカマをかけて、モテ男のフリをしてみせたというのに、彼女の興味はもうすでに別のものに移っていた。
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