第5話 彼女は手品師?

「うわっ、冷てぇ! 冷たすぎて痛い!」


「だから言ったでしょう? もう」


 女はあきれたような表情で腕を引っ込めた。


 謎の侵入方法、青い瞳と銀髪以外の全身がほぼ真っ白、さっきの凍えそうな突風、そして氷点下に近い程冷たい細腕。


 この女の特徴は何から何まで不可解なものばかりだが、よくよく推察してみると、その正体が導き出せないことはない。


 ただ、その正体とは、俺が冬の次に嫌いなものであった。


「ひいいっ! 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


「え。どうしたの急に?」


「成仏してください幽霊さん! 俺は関係ないんです。この部屋を借りる時、何も言わなかった不動産屋が悪いんです」


「……ねぇねぇ、違うよ。だからあたしは冬なんだってば」


「どうせ〝〟とかいう名前でこの辺で有名な亡霊なんだろ。頼むから俺に取り憑くのはやめてくれよぅ」


「〝お冬さん〟? あはははは、何それ。おっかしいの」


 幽霊は笑い転げていた。


「ね。あたしって、幽霊に見える?」


「そんなの、どう見たって幽霊じゃないか。お前の格好は季節はずれだし、腕もヒヤッとして人間のそれじゃないんだもん」


「ふう。どうやったら、信じてもらえるのかなあ」


 彼女はしばらく考え込むと、閃いたとばかりに指を鳴らした。


「ねえこれ見て。ほら」


「へ。何?」


「じゃじゃーん」


 という効果音を口ずさんで、幽霊が合わせた手のひらを開いてみせると、そこには真っ白な光を宿した、小さくてかわいい雪だるまが姿を見せた。


「わ、すげえ。手品みたいだ」


「でしょう。あたしがその気になれば、この部屋を雪でいっぱいにする事だってできるんだよ。そんな芸当が、幽霊なんかのしわざで可能だと思う?」


「いや、どうだろ」


「えっ?」


「俺、今まで幽霊に出くわしたことがなかったから分からないな」


 俺は正直に答えると、女はガックリとうなだれた。


「あ! さては雪女だな」


「浩介くん」


「ひっ」


 今度は女の眼がギラリと光った。どうやら怒らせてしまったようだ。


 幽霊はオーケーで、雪女という妖怪扱いはダメだという彼女の基準もよく分からないが、とにかく雪女呼ばわりはタブーのようである。

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