第4話 彼女は薄着

「ああもう、分かったよ! 聞けばいいんだろ。聞いてやるから、とりあえずヒーターをつけさせてくれよ。俺は寒いのが苦手なんだ」


「あ、ダメ!」


 立ち上がった俺の寝巻きのすそを、泥棒女が慌ててつかむ。


 と、その拍子に足がもつれ、俺はそばに設置していた木製のタンスに思いっきり額をぶつけてしまった。


「ぎゃあああああ」


「あ! 大丈夫?」


「か、角! 今の角だったぞ、このバカ女!」


「ごめんなさい。でも、ヒーターはやめようよ」


「いててて。じゃあ、電気カーペットならいいか?」


「それもやだ」


「何でだよ、このまんまじゃ寒いだろ。さっきも言ったけど……」


「知ってるよ、寒いのが苦手なんでしょ。でも、あたしは寒い方が好きなの」


 ああ言えばこう言う女だな。


 大体、なぜ俺が寒いのが苦手なのを知っていると断言できるのか。


「ところでお前さぁ、この季節に何でそんな薄着なんだ? ひょっとして色仕掛けでもするつもりだったのか?」


「ん? 『色仕掛け』ってなーに?」


「……お前、俺の事からかってるだろ」


「違うよぅ、本当に知らないの。でもこの服かわいいでしょ? 男の子にも人気らしいよ」


「まあ、確かにかわいいキャミソールワンピースだし似合ってるけど。でも今はまだ三月だぜ、そんな服着てると風邪引くだろ」


「大丈夫だよ、あたし冬だから平気だもん」


 まだ言うのかこの女は。


「だとしても、さすがに薄着はないだろ」


「んー、だって、今の時期じゃこの姿でないと人間の世界に降りられなかったんだよ」


「ハァ? 人間の世界?」


「うん。あたしは冬だからね、こう見えても人間とは体のつくりが違うの。もうすぐ春だから、あなたみたいな厚着してると体を維持できないんだよ。だからヒーターとかはやめてね」


「ということは何だ、『あたしは冬だから、熱を浴びると融けちゃうのー』とでも言いたいのか?」


「ピンポーン、大当たりです!」


 この返しに俺はカチンときた。


 何がピンポーンだ、不審者のくせに、茶目っ気たっぷりな返事をしやがって。


「もういい、これ以上お前の話聞いてると頭がおかしくなりそうだ。出てけよ」


「ま、待ってよ! だから本当なんだってば」


「うるせえ! いい加減にしないと警察に突き出すぞ。さあ、立てよ」


「あぁ、あたしに触っちゃダメ!」


「何言ってやがんだ、この泥棒ネコが……」


 と、女の手を力任せにつかんだその瞬間、一瞬にして、俺の全身に鳥肌が立った。


 というのも、泥棒女のその細腕は体温が感じられないどころか、まるで氷でできた棒のように、キンキンに冷えきっていたのだ。

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