Chapter 2 Ignite

Chapter 2 Ignite ①

 東京都八王子市。

 山間部にある打ち捨てられた廃工場の跡地。人がいないはずのその場は剣呑な空気が満ちていた。

 スーツ姿の男たちが十人、齢にして六十あたりの老人達がそれぞれ銃器を手にして殺意を露わにしていた。皆、一見にして堅気の者とは思えない様相である。その殺意の矛先は対峙する一人の男に向けられている。

「なるほど、これがほんとのお礼参りってやつか」

 老人たちと対峙する男がうんうんと頷いて、一人だけ納得していた。

 その男の様相はあまりに奇天烈だった。中肉中背。ブラックのスーツ姿に黒い髪といった全身黒ずくめであったが、その顔だけは白い仮面で覆い隠されていた。

 白い『増女』と呼ばれる能面だった。赤い紅の塗られた唇は半開きのままで、二つの細い双眸は虚のようであり、対峙する老人達への眼差しには何ら感情が込められていない。

「『白拍子ぃ』! てめぇ、まだ自分が置かれた状況がわかっちゃいないようだなぁ!」

 老人たちの一人が声を荒げる。

 白拍子と呼ばれた能面の男がその大声に驚いたように、オーバーなジェスチャーをして

降参の意を示すように両の掌を老人達に向けた。その両手には装甲に覆われた大仰なグローブが嵌められている。

「そう大声を出さなくても聞こえてますよう。あぁいや失礼致しました。ご自身の耳が遠いものですから、自分の声を張り上げないといけないんですね。いやぁ、歳は取りたくない」

 老人達は反社会的集団、所謂ヤクザ、暴力団と呼ばれる者たちだった。

 少子高齢化社会の極みとも言える二〇四〇年代の日本において、暴力団もまたその問題の例外ではなかった。後継者不足に加え、法的にも認められた企業が自分たち反社会的集団が担ってきた産業分野に入り込み、あるいは撃滅しに踏み込んできたのだ。無論、暴力団側も抵抗を試みた。だが企業によるプロフェッショナルたちの理論体系の整ったシステマチックな”戦闘業務”と暴力団による無秩序な〝単なる暴力〟では、競合の結果は火を見るよりも明らかだった。その果てに、過去に主要指定暴力団とされていた大規模組織も今では見る影も無い。今日の日本において、反社会的集団による国内の麻薬の流通は激減している。

 だがそのような中でも時代の流れに抵抗する極道たちがいるにはいた。

 時代と変化に対応しようとする努力もせず、大人しく破滅を受け入れることもできない者達。凝り固まった価値観と心中することもできず、困窮極まった者たちが最後にすがりつく末路は暴力しかないのは至極当然のことだった。

 白拍子はフリーランスのコンバットコントラクターであると同時に、武器の個人商や依頼の斡旋、戦闘プロパイダ業におけるコンサルティングも業務として取り扱っていた。今回、白拍子は目の前の老極道達に依頼され、コンバットコントラクターとしての仕事と武器を斡旋した。

 だが老極道達は安く値切ってくる上に無茶な注文が多かった。厄介な客としか言いようが無く、白拍子としてはさっさと縁を切りたいところだった。

 白拍子とて一応はプロである。老極道達の理不尽な罵倒に耐えながら、彼らに見合った仕事と武器を斡旋。プロとしての最低限の仕事は果たした。後は前金だけ貰い、彼らには勝手に死んで頂ければ面倒は無かっただろう。

 そのような希望的観測はあっさりと打ち砕かれた。悪運が良かったのか、どういうわけか連中の半分程が生きて帰り、今こうやって白拍子に対しクレームの銃口を向けている。

「てめぇコラ! なんか言ったらどうだ!?」と怒鳴られる白拍子。

 それに対して「いやー、やっぱ客は選ぶべきだったなーって後悔してるとこです」と返す

 二言目にはおいコラ、やれコラ。反知性的な連中だと白拍子は心中で侮蔑する。実に日本人らしい、短絡的で感情論と精神論でしか動かない輩だ。どうせこちらが斡旋した仕事もそのような具合でやらかしたのだろう。その時に全員死んでくれれば面倒なことにはならなかったものの、という言葉が喉元まで出てくる。

 話にならない。会話ができない。コミュニケーション不可能。白拍子はそう結論付けた。

「日本人ってさぁ、ほんとクレーマー体質だと思うんだわ。というか今思い知らされてる。や〜いや〜いふぁっきんじゃっぷ、いえろーもんき〜、ヒャヒャヒャヒャ!」

「なんだとこの野郎!」

「はぁん! しまったぁ! また口汚いこと言っちゃった!」

 頭を抱えてみせると、首元から十字架を取り出し仮面越しにキスをした。

「ウソ。ごめんカミサマ。また人種差別しちゃった。老いも若きも白いのも黒いのも黄色いのも人類皆穴兄弟竿姉妹違う間違えた平等だったよね。うんうん」

 そうしてくちづけした十字架をその場に捨てる。

「ホント、平等にクソだよね」

 コンクリートの床に音を立てて落ちた十字架を踏みにじる。

「で、改めてあんたらの目的はなにさー? 滑舌悪いからかもうボケてるから知らないけど何言ってるのかわからなかったんだわー。ちなみにねー武器のクーリングオフは適用外だよー」

「白拍子さんよ、そこまでにしちゃもらえないか」

 白拍子の言葉にいちいち熱り立つ老極道達。だがそんな彼らを制するように一人の男が前に出た。

「確かに俺達は極道なんて碌でもないことをやってきた。今更堅気に戻ろうなんて虫のいい話だし、社会がそれを許してくれるとは思っちゃいねえよ」

 だがよ、と男は続ける。

「この歳で新しいことを始めようたって土台無理な話だ。俺たちにはこういうやり方しか知らないし、できねえんだよ」

「すごい。見事な精神論ですね。全く合理的じゃない。おまけに新しいことを学んでいく気も無いときた。人間もコンピュータと同じなんですよ。知識と価値観は日頃からアップデートしていかないと。古いOSのコンピュータは使い物にならなくなると同じように」

 自分の足元に転がっているスナイパーライフルをつま先で触れる。

「良い道具を使えばうまくいくと勘違い。しかもその道具の良さを少しも理解していない。買った道具が自分に扱えるようなものではなかったからと後で返金をせびってくる。おまけに自分らの計画の失敗をぼくちんのせいにしてくるときたもんだ。というかその計画も果たして計画と言えたものなのかどうかすらもわかったもんじゃないっすねー」

 仮面越しではあるが、明らかにその表情が道化を気取ったものから怒りに歪んだおぞましいものに変わったと老極道でも察知することができた。

 同じ人間であっても、あまりに思考と行動原理のレイヤーに差があった。あまりに低レベル。あまりに怒りや不満を通り越して哀れみすらも感じてくる。

「なんて可哀想に。きっとこのような有様では彼らに未来は無いだろう。おそらく貴方がたには大勢の人々に迷惑をかけた果てに路傍で野垂れ死ぬ結末しか待ち受けていないでしょうねえ……」

 白拍子は芝居がかったように両手を大仰に広げると、だらりと力なく腰を折り顔と腕を下げる。

 下がった肩をわずかに身じろぎさせる。ちゃきり、と微かな音が鳴る。  ぐんっ、と勢いよく白拍子が顔を上げる。その能面の虚のような双眸の奥底に昏い光が点る。

 かたかたかた、と能面が小刻みに揺れ始め、

「自分の失敗をぉ! 他人のせいにしちゃいけないってぇ!! ママに教わらなかったんですかぁーー!!!」

 白拍子が右手を振るった。びゅう、と風を切る音に空気が揺れる。

 すると老極道の一人の首がずるりと胴から離れてコンクリートの床に落ちた。頸動脈から血が溢れ出て、首から下も倒れ伏せる。

 残った老極道達が息を呑む。そして吐く息とともに雄叫びを上げる。トリガーを引き絞り銃弾をばら撒くが、パニックに陥っておりその銃口は定まっていない。やがてすぐに彼らの銃器から弾が吐き出されなくなり、カタカタと音を立てるだけとなる。

「お間抜けさーん! 敵の姿も確認しない。リロードも考慮しない。全く脳みそ使っているようには見えない。何も考えてない。だからあんたらはプロじゃないんだよ!」

 白拍子はグローブを嵌めた右手の五指から伸びるワイヤーで工場の天井にぶら下がり、銃撃を回避していた。

 老極道たちが一斉に銃口を白拍子に向ける。リロードされていない銃器からは発砲されない。慌てて慣れない手付きであたふたと弾倉を好感する老極道達。白拍子は呆れるしかなかった。

「自分の失敗を他人のせいにする悪い人はぁ! 今すぐここで死になさ〜〜〜〜〜い!!」

 ひゅん、と風を切る音がかすかに鳴る。

 白拍子が振るう右手には装甲に覆われたグローブが嵌められており、そのグローブの五指からはワイヤーが伸びている。ワイヤーには血が滴っていた。

 単分子ワイヤー。その名の通り、単分子になるほどに研磨されたワイヤーであり、非常に細く視認が困難な上に頑強、振り回せば触れずとも皮膚を裂く程の切れ味を誇る得物である。ワイヤーは手の甲の装甲内に巻き取られており、白拍子の意のままに操ることができる仕組みになっている。

 老極道の一人が銃を取りこぼしていた。否、その手は銃把を握りしめている。だが、腕と手首が切り離されていた。

「若者から敬老の証をプレゼントしてやるよぉ! 泣いて受け取れや老害どもが!」

 手間取りながらリロードを終えた老極道達が各々構えた銃のトリガーに指をかける。だがその指に力が込められる前に白拍子が一足飛びで急接近する。それと同時に振り回されたワイヤーがすれ違いざまに老極道二人をめった斬りにした。

 残りの極道たちが白拍子に銃口を向ける。だが白拍子は再び天井にワイヤーをかけて回避。そして工場内を上下左右に縦横無尽に飛び回り始めた。

「アヒャヒャヒャヒャ! これで社会保険料の削減に貢献できるね!」

 能面の奇声が三六〇度、あらゆる方向から響き渡る。

 老齢の極道が白拍子の動きについていけるはずもなく、スーパーボールのように工場内を跳ね回る能面がすれ違うと一人、また一人とワイヤーで細切れにされていった。

 飛び交う白拍子の着地際、ようやく偶然か一人の極道の照準が能面に合わせられた。サブマシンガンの火線が白拍子を嬲ろうと襲いかかる。だが銃弾がその能面を砕くことは無かった。

 白拍子は左腕を振り上げると、それに伴い彼の周囲をワイヤーが回転し壁と化す。銃撃は全て弾き返されていた。右手と同じように左手からもワイヤーが伸びている。

「海を満たす薔薇の香り。きっと螺旋アダムスキー脊髄受信体のニルヤの空にはまだ鍵穴が足りないのだろうか」

 くねくねと身悶えさせながら「見える! 視えちゃうよう!!」と意味不明な単語の羅列を口走ると、空いている右腕を掲げる。ワイヤーが銃撃してきた老極道に襲いかかる。だがこれまでの連中と同じようになます切りにするようなことはなく、身体に巻き付き拘束する。白拍子の絶妙な指使いと力加減によるものである。

 拘束された極道の全身にワイヤーが食い込む。よくよく見れば、ワイヤーには糸鋸のように細かな刃が並び立てられており、衣服の上から肌に食い込む。白拍子が傍を通過する度に切り裂かれていたのはこれによるものだった。

 白拍子が右腕を頭上まで振り上げると、拘束した極道も工場の天井近くまで持ち上げられた。そして白拍子が右手を逆手に捻ると、極道も頭を下へ上下逆さまの体勢になる。

 工場内の床は薄汚れたコンクリ詰めだ。

「受精卵が視た悪夢に注がれる神々の屎尿だ! おそらく仏のハラワタにまみれているのだろう!」

 悲鳴と絶叫とともに白拍子が右腕を勢いよく振り下ろす。

 トマトか何かが潰れるような鈍い水音。工場の床に赤い飛沫が飛び散った。

 殺戮と蹂躙が終わり、耳に入るのは粘り気のある血の水音。工場内に響き渡る戦闘音はそれが最後だった。

「はぁ〜、スッキリした」 

 頭の潰れた極道からワイヤーを巻き戻すと、白拍子は額の汗を拭い一息をついた。

「えーっと、これで全員だったけな」

 ひぃふぅみぃと転がる死体を指さして、その数を数えようとした。だが、そのどれもこれもが五体満足ではなかった。

「いっかーん! 死体をバラバラにしちゃったらちゃんと数を数えられないぢゃん! やだもー、拙者のばかばか!」

 髪をぐしゃぐしゃとかき乱しながら地団駄を踏む。だが一通り狼狽しきった所で、

「まぁいーや、きっとこれで全員かな! うん、後期高齢者医療制度の負担削減に貢献しちゃったよ、オレっち!」

 今度は一人満足げにその場を後にしようとした。

「お仕事ご苦労さん!」

 だが、工場内でまだ身を潜めている者が一人生き残っていた。極道たちのリーダー格である。雑然と積まれたコンテナの陰に隠れて、震える身を小さくさせていた。歯の根も合わず、ズボンを濡らしている。一番最初に威勢をよく啖呵を切ったが、最初の一人の首が落とされたのを見て、一番最初に逃げ出していたのだ。仲間が白拍子に無様に殺されている中で自分一人だけ恐れをなしていた。

 男は元々、他人任せで無責任な生き方をしてきた。忍耐力も無く学校からドロップアウトすると、考え無しの行動で引き起こした事態から少年院にぶち込まれお決まりの転落コースへと流れ落ちた。そんな人間がただでさえ疲弊している日本社会に入り込む余地などなく、受け皿となったのはお決まりの反社会的勢力くらいだった。

 幸か不幸か才覚は無かったが悪運があった。それと同時に他人の功績を掠め取る狡猾さと強欲さもあった。実力も度胸も培わないまま、彼は中規模団体の下部組織の長にまで昇りつめた。そしてその地位によってもたらされる享楽に溺れた。迫りくる時代の変化、暴力団の在り方そのものの衰退からも目を背けていた。

 その結果、辿り着いた果てがこの様だ。

 もうやめだ。万引きかなにか適当な軽い罪でも犯して自首して刑務所にでも入ろう。それがいい。寝床と一日三食に悩まされることもなくなる。

 この場を後にするため立ち上がろうと膝に力を入れる。身を潜めていたコンテナからゆっくりと顔を出し、辺りを見渡す。つい先程まで悲鳴と銃声で騒々しかった工場の中は今では不気味なほどに静寂そのものだった。あるのは寸刻みにされた肉塊とガラクタになった武器だけ。

「もういなくなったか……」

「そんなわけないよねー!!」

 突如、眼前に逆さまの能面が現れた。天井からワイヤーを吊るして蜘蛛のように身を上下逆さまにしてぶら下がっている。

「お前ら能無しの老害と違って、あたくしはプロフェッショナルなんですぅー。仕事に対する意識が違うわけ。この業界、何より信用がものを言うんだし。殺した人数なんて殺しながら確認してるに決まってるじゃん」

 天井にかけたワイヤーを解き、白拍子はその場に着地する。男はその能面姿の足元になりふり構わず一切の躊躇無く土下座をした。額を自分が濡らした床に擦り付ける。

「頼む! 俺が悪かった! 助けてくれ! 命だけは!」

 え〜〜〜、と白拍子は心底気味の悪いものを見てしまったと困惑した。

「マジで? 土下座とか生で初めて見た。あーそこまでされちゃあ、どうしようかなぁ」

 能面が所在無さげにしていた。見逃してくれるのか。そうリーダー格が期待して面を上げた。

 白塗りの能面が相変わらず見下ろしている。当たり前だがその表情を窺うこともできない。

 だが得体の知れない怖気のようなものが滲み、溢れているのが肌でわかった。全身が泡立つ。

「何勝手に期待しちゃってんの。どうしようかなってのは、お前をどういう感じで殺してやろうかなってことだよ」

 白拍子の視界の隅に一挺のハンドガンが入ると、片腕を振るった。

「よしきーめた」

 五指の先から伸びたワイヤーが離れた場所に落ちていたハンドガンを絡め取ると、白拍子の手元まで引き戻された。

「季節外れだけど、おじいちゃんにはお年玉をあげよう。イッツ終末介護」

 男の額に冷たい銃口が押し付けられた。


 一人の女が騒ぎの終わった廃工場へ足を踏み入れていた。少し日に焼けているのか、あるいは地黒なのか褐色の浅黒い肌をタイトスカートのスーツに包み、高いヒールを鳴らしている。

「ボス、お手すきですか?」

 女の声が血と肉に汚れた廃工場に響き渡る。ネイティブのものとは思えない訛りのある日本語だった。「はーい、宇春(ウーチェン)ちゃん、今終わったとこだよー」と返事。

 宇春と呼ばれた女が能面姿の元へと歩み寄る。

「どうしたの? 車で待っているようにって指示したけど」

「ボスにお電話が。我来様からです」

 その名前に白拍子は肩を落として大きくため息をついた。呼気が顔面と能面の隙間から漏れ出る。

「なーんでいっつも文面のメッセージを寄越せって言ってるのに、電話してくんのかなぁ。お偉いさんはみーんなそうだ。電話って人様の時間を拘束するものって考えがないのかな。無いよねー。だってお偉いさんだもん。自分が一番偉いと思ってて、他人のことなんか考えないよね。謙虚さってものが無いんだ、謙虚さってものが。他所の人間にはペコペコして、身内にはふんぞり返って内弁慶してる。宇春ちゃんもそう思うでしょ?」

「いいからさっさと電話に出てください」

「手厳しいっ」

 宇春の眼前にはミクスの通話機能の画面が先程から表示されている。その保留中であることを示すその画面を共有モードへと切り替え、白拍子へ向かって放るようなジェスチャーを取る。すると能面の眼前にも同じ画面が表示された。「切っちゃおうかなー」「出てください」というやり取りの後に、仕方なさそうに白拍子は通話を再開させた。

「はろはろ、あなたの白拍子でございますぅ。ちゃんと歯磨いてるぅ? 毎日うんこ出せてるぅ? ちゃんと8時間寝てるぅ? 結構結構。てめぇの部下を死ぬまで働かせて自分は惰眠を貪ってる大先生のそのふてぶてしさ、やつがれは大好きですよ。で、今回はどんな御用?」

 通話の相手は『ニッタミ』の担当者だった。

 白拍子はフリーランスのコンバットコントラクターとしてニッタミから主に戦闘プロパイダとしての業務を我来から直々に受けていた。近々、ニッタミは戦闘プロパイダ業を新規事業として立ち上げようとしており、その前準備として白拍子が雇われていた。

 無論、フリーランスの身である白拍子が受けている業務はニッタミからのものだけでは無い。先程皆殺しにしたヤクザたちもクライアントの内の一つではあった。だが当のニッタミは自らが課す業務を優先するようせっつかせていた。特に特別料金を払うこともなくだ。白拍子が我来に対し辟易としている理由はそこにあった。

「ふむふむなるほどわかりましたはい喜んでー!」と白拍子が快諾して通話を切る。その途端に「死ねえええええええええ!!」と絶叫した。

「今回のニッタミの案件、差し出がましいようですが、私はやめておいたほうがいいと忠告はしました」

「宇春ちゃんの言う通りだったよ。まぁでも儂らの目的のためには、我来ちゃんにお近づきになる必要があったしね」

「それで、また無茶振りですか。ブラック企業らしいですね。今度はどんな無茶振りを?」

「宇春ちゃんの中で無茶振りは決定済みなんだね。いや実際無茶ぶりなんだけど。なーんか、我来のお客さんがキルジナからやってくるって言うんで相手してくれってさ。ねぇ、宇春ちゃん。オイラ、ベビーシッターになった覚えは無いんだけど」

「私も無いです」

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