漠然とした其れは

 何となく、壊れてしまうと思った。

 大袈裟な事では無く、唯何となく日々の生活の中で緩やかに「私」と言う殻が壊れてしまうと思った。


 何となく。何とはなしに。

    感覚的な話だ。現実では無い。

 妄想かも知れない。けれども事実ではあるだろう。


 何もかもに囚われてしまって、彼方からも此方からも心臓を引っ掻かれてしまって、私は身動きが取れないまま唯息を忙しなく取り込むばかりの殻に成り果ててしまった。私は「私」と言う殻に、脆く中身の伴わない殻に成り果ててしまった。

 そうして、その殻すらきっと壊れてしまうのだと思った。忙しなく息を取り込み過ぎた私は、引っ掻かれて脆くなった殻を内側から余分な物で満たして壊してしまうのだと思った。


 漠然とした話だ。私の主観による感覚の話だ。ただの妄想かも知れない。

 それでも何とはなしに、その漠然とした考えは現実的でないと分かっていながらも、私は事実であると叫びたかった。


 そうでなければ。

 そうでなければ、この脆くなった「私」と言う殻が壊れていく、そんな感覚を有する「私」が余りにも惨めではないか。



 怖いのは「私が壊れていく感覚」などでは無く、「私が壊れてしまうと思っている感覚」が、「私の漠然とした、私の主観による感覚」が、他者の眼から見た時に「事実」として認められない事だ。

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