14 好きなものを語らせてください!

「パールバックの『大地』は良いですよ! ぜひ読んでください!!』

ー全四巻。一冊に付き、ページ数は四百ページ。読めるか!?

               ★

 結論から申しますと。

 イントロダクションの本は、読めませんでした。

 あらすじとか調べてみると面白そうではあるんですけどね。

 しかし、文庫で四百ページで、全四巻。

 生半可の覚悟じゃあ読めませんよ。

 本は好きですが、昔ほど貪欲には読んでいません。

 学生の頃は、気が狂ったように本を読んでいたんですけどね。

 今じゃ、エッセイや漫画がせいぜい。

 仕事で頭使っている分、頭からっぽにして読める物を好むみたいです。

 だから、純粋に長編を読める人はすごいなあって思います。

 で、話を元に戻しますと。

 婚活ではいろいろな話をお相手の方とします。

 最初は、お互いの仕事のこととか家族のこととかを話しますけど、やっぱりある程度したら、自分の好きなことに話が行くわけです。

 で、お互いの好きなことを話すのですが、これがまた、なかなかに難儀なのです。

 いえ、まあ。

 私も自分の「好きなこと」について話ますが、内容は考えます。

 そりゃあ、初対面の方に、

「あなたの好きなBLは何ですか?」

 と、話せるわけないじゃないですかっ!

 そんなディープな話題、出すはずもないです。

 この辺は、やはり女性の方が選択は上手いのかなーとも思います。

 と言いますのも、イントロダクションに出てきた方は、実は直接にお会いすることはなかったのですが、それはそれはそれは長い文を掲示板にアップされる方でした。

 婚活サイトで知り合ったのですが、「好きな物は何ですか?」と聞かれたので、「読書が好きです」とお返事しました。

 これは、嘘じゃあないですしね。ええ、BLがメインと言えど、興味のある物は何でも読んでますし。

 で、「趣味は読書です」と書いて送ったわけです。

 そうしたら、次の日即返事が来ました。……原稿用紙、3枚以上はある分量の。

「あなたは、読書が好きなんですね。それは、素晴らしいです。

 僕も本を読むのが好きです。パールバックの『大地』は特に素晴らしいです。

 大地の息吹を感じるような文章が何とも言えません」

 内容は、ほとんど覚えていないんですが。

 こんな感じの文章がずっと書いてありました。

 いや。もう、本当に「申し訳ありません」という言葉が出かかりましたよ。

 確かに、私は本を読むのが好きです。

 しかし、メインはBL。そのBLも小説は、最近読むのが億劫になってきていますからね。

 ですが、お相手の彼の「読書」のレベルは、半端なかったわけです。

 例えて言うならば。

「料理作るの好きなんです」

と言う人達がいて、片や「味の素やレトルトを使った料理」を作る人、片や「魚をさばき、出汁をかつお節を削って取る料理」作る人。

 ええ。

 私は、その「魚をさばき、出汁を鰹節を削って取る料理」を作る人に、「私、料理好きなんです」と言ったわけですよ。

 しかも、彼は私にこうも掲示板で問いかけてきました。

「何かおススメの本はありませんか?」と。

 それで、当時楽しく読んでいた本をおススメしました。

 これも、なかなか長編です。古典の名作ではなくて、エンターテイメント小説なんですけどね。

 で、彼はこれをどうしたかと申しますと。

 結局のところ、メールをやり取りをしていた三か月の間に、読破していました。

 これまた、文庫本で四百ページ近くはある長編なんですよ!!

 あ、念のため申しておきますと、BLではありません。

 この辺は、一応「大人」ですから。

 きちんと、分はわきまえております。

 そして、掲示板には私が紹介した本の感想が書かれて、「他にも何かありませんか?」と、そんな言葉が書かれてきました。

 私としても、そこそこ本は読んでいますから、話題には事欠きません。

 しかし。

 彼は、毎回原稿用紙三枚分以上のメッセージを掲示板に書き込んできました。

 おそらく、読むのも書くのも好きな方なのでしょう。

 でも、それは私にはいつしか苦行に近いものがありました。

 毎回、何かしらの本の話題を出してくる→その点について、ネットで調べる→掲示板に文章を書くの繰り返しです。

 そして、いつまで経っても「会う」という話は出てきません。

 当時、私が使っていた婚活サイトは、掲示板の交流は一か月半でした。

 一週間で終了するところもあれば、このサイトのように一か月半使えるところもあります。

 で、そろそろその掲示板サイトを使える期間が終了しようとしていた頃、彼から掲示板に、「これが僕のメールアドレスです」とメールアドレスが書かれていました。

 私は、それをメモして、返事を書かないといけないなーと思いながら、日々の仕事&改めてスタートした結婚相談所の婚活に追われ、彼にメールを出さないまま、終わってしまいました。

 まあ、でも。

 毎回、原稿用紙三枚分のメッセージと、読めないおススメの本の書けないプレッシャーを考えると、これはある意味自然な流れだったのかな、とも思います。

  相手のアカデミックさに付いて行けなかっただけだろう、と言う声があるかもしれませんが、考えてもみてください。

 基本的に、日々の生活に追われている私達が、長文のメールを見て、返事をする余力がどこまであるのか。

 私も彼に返信するのに、3日ほどかかりました。

 婚活の場では、長文のメールは好まれていません。

 何せ、文字だけの交流なので、普通に話す以上に相手への気遣いが必要となるのです。

 相手が返信しやすい分量は、メールの形式にして、10行までが好ましいそうです。

 そのことをサイトで確認した時、「なるほどなー」と思いました。

 彼は、私と「アカデミック」な交流をしたかったのかもしれません。

 私も、BLのことを熱く語れる方が見つかったと思ったら、彼と同じことをしてしまうかもしれません。

 けれど。

 お相手のことを考えると、やはりメールや掲示板の交流は手短に、あとは直接会ってお話するのが、一番だと思いました。

 で、このこともあったから、私はできるだけ婚活相手の方とは会うようにしたのです。

 会った後のメールであれば、なかなかスムーズに行くようにも思えましたし。

 それに、やっぱり自分の好きなことを語ってもらうには、ライブが一番良いです。

 文章で書く手間ありませんし、わからなければ質問もできますしね。

 でも。

 いくら自分の「好き」なもののことでも。

 やっぱり、お相手のことを考えると、「ほどほどに」が良いのかもなあ、とは思います。

 男性の方は、やはり凝り性の方が多いのか、話題がピンポイント・・・・・・と言うか、ディープなんですよね。

 その方は、お見合いで知り合いました。 

 五十代初婚の方です。

 真面目そうな方でした。

 しかし、緊張されていたようで、話してもぎこちない。大変、ぎこちない。

 そんな彼が、ふと私に言いました。

「私は、神社を巡るのが好きなんです」

 ふむ、と私は思いました。

 なかなか良いネタです。

 パワースポットは、昨今では話題になって、世間一般の方も認識するようになりました。

「ああ、そうなんですか。おススメのパワースポットになる神社はありますか?」

 私としては、話を広げるために、この言葉を言いました。

 すると、彼はこう言いました。

「神社は、神社ですよ。パワースポットは関係ありません」

 まあ……そうですね。 

 はい。彼の言う通りでは、ございます。

 「神社は、古来から神様を祭る場所です。パワースポットなんて、そんなこと言ってはいけませんよ」

 まあ、そうです。それはそうなんです。

「そうですかあ。やっぱり、一番祭られている神社が多いのは、稲荷ですかね?」

 だから、彼に合わせてそう話題を変えてみました。

「数は、関係ありませんよ」

 いや、だから。と、私は思いました。

 こちらとしては、話を広げるために聞いているのに、スッパンスッパン話をぶち切るんじゃねぇぇぇ!

「好きな神様はいらっしゃいますか?」

 とりあえず、イザナミ、イザナギ、アマテラス、スサノオ、クシナダ姫、ヤマトタケルノミコト、木花開耶姫、海彦、山彦、大国主命ぐらいならわかるか!?と思いながら聞くと、

「神様は、神様です。どうしてそんなことを聞かれるんですか?」

 本当に、彼は不思議そうな顔をして言いました。

 「あなたは、好きな神社はないのですか?」

 逆に、私はそう彼に問われました。

 が、しかし。

 聞かれる内容が、とてもディープです。

「そうですね。やっぱり、稲荷神社が好きですね」

 でも、がんばって答えてみました。

「どうしてですか?」

「稲荷のきつねがかわいいです」

「それは、違います」

 しかし。

 私の言葉に、彼は首を振りました。

「神社は、一つ一つ雰囲気が違うんですよ。わかりませんか?」

 いやいやいやいや、わかりませんって。

 神社の雰囲気は、たいてい似ています。

 そりゃそうです、「神社」なんですから。

 その一つ一つの雰囲気を感じながら堪能する人って、あんまりいないような気がします。

 と言うか、たいていの素人さんは、そんなこと、考えもしないでしょう。

 だから、私も自分のわかる範囲で答えることにしました。

「松ぼっくりとどんぐりがたくさん拾える神社です」

 ……。いえ、だって。

 松ぼっくりも、どんぐりも、いろいろと使えますからっっ!(仕事絡みで)

 最近は、松ぼっくりもあまり見なくなったから、それを拾える神社は希少なんですっ!!

 まあ、普通の感覚じゃあないって、わかりますよ。

 でも、彼の「感性」に一番近い答えは、それでした。

「そういう時は、『どう違うんですか?』と聞けば良かったのよ」  

 後日。結婚相談所の方は、私にそう言いました。

「相手は、あなたの『へー、そうなんだあ。すごいですね』」と言う言葉が欲しかったのよ。あなたの答えなんて、はなっから期待していなかったの。それなのに、あなたは稲荷だの、松ぼっくりだの言ったんでしょ?」

 ええ、言いました。

 話のネタを広げるために、言いましたとも!

「その話について行けるのはすごいけれど、相手は、『生意気だな』って思ったかもね」

 こういう時。いつも、思います。

 何故に自分のことは棚に上げて、相手に求めるのか、と。

 神社の特徴を独特の感性で語る彼に、どうすごいと言えるのか!?

 いえ、すごいと言えば、すごいのでしょう。

 彼は独特の感性で、「神社」を捉えているのです。

 ただ、それを彼は共有し共感することを望んでいなかっただけのこと。

 彼は、ただただ、「すごいね」と言って欲しかったのです。

「つまり、『あなたすごいのね』と言う言葉だけが欲しいってことですよね」

 でも、それって婚活をする意味あるのか!?

 と、思った方、同志ですね。

 それだけだったら、キャバクラに行けば良いのです。

 婚活相手にそれを求めるのは、はっきり言って、ハードルが高すぎですっっ!

「まあ、キャバクラだと高くつくじゃない。でも、結婚相手のお嫁さんに言ってもらえれば、無料だからね。男は、けっこう単純なの。そこを上手く付けば、とても良いんだけどね」

「神社を独特に捉える『感性』をですか!」

 それを褒めると言うことは、それを「受け入れる」と言うことです。

 あの独特の感性に付いて行ける自信は、私にはありません。

「大丈夫よ。彼、断って来ているじゃない」

 はい、そうです。

 彼は、一度会った後、お断りをしてきました。

「でも、あなたとしてもどうせお断りするつもりだったんでしょ? だったら、何の問題もないわ」

 まあ、確かにそうです。

 彼が「また会いたい」と言ってくれたら会うつもりでしたが、しかし、彼とは合わないだろうなーとは思っていました。

 ただ、彼が断わって来たのは、結婚相談所の方が言われる通り、「俺の聖域に口出ししやがって!」なんだろうなーとは、私にも何となく察しが付きました。

 男の「聖域」には、口を出さない方が賢明なのかもしれません。

 ただ、そう思うならば。

 最初っから、話題として出すんじゃねぇぇぇ!と、私は声を大にして言いたいです。

 だいたい、私達は結婚相手を探しているであって、キャバクラのお姉ちゃん達みたいに、男の人を良い気にさせるために婚活をしているわけではないのですよ。

「でも、男ってそんなもんよ。『あなたサイコー!』って、言って欲しいんだから」

 結婚相談所の方はそうおっしゃいますが、ならば、せめて世間一般の話題を提供できるぐらいのレベルになれやっと、突っ込んだ私は、間違っているのでしょうか?

「そんなところがかわいいって思えたら良いんだけどね」

 と、結婚相談所の方は、言われます。

 でも。好きなことを話されて、楽しくお話できたとしても。

 その後が続かない時ってのもあるわけです。

 この方も、お見合いで知り合った方でした。

 「再婚者だけど、素朴な人だよ」

 と、結婚相談所の方に言われて、ふむ、と思いました。

 悪くないかもしれません。素朴な人柄、良いではないですか。

 あまりプライドが高いのも、はっきり言っていただけません。

『俺を褒めろ、俺を称えろ!』と言われても、ちゃちい男にそれをやるのは、はっきり言ってめんどくさい。

 これは私の持論ですが、本来実力のある人間は、自分の力量を人にアピールはしないものなのです。

 だって、そんな人は、自分の目標を叶えたら、次の目標に意識を切り替えています。

 周りに「すごいね」と言われても、それすらもその人の耳には届いていないのです。

 イチロー選手がそんな感じですよね。 

 なので、「素朴」。けっこうです。

 良い条件じゃあないですか。素朴な男、ウエルカムです!!

 と、テンション高めで会いました。

 この時の結婚相談所は、「会ってからのお楽しみ」タイプ。

 プロフィールは教えてもらっていましたが、顔はわかりませんでした。

 そして、いざお見合いです。

 紹介された顔は、まあ人好きのするお顔でした。

 うん。悪くないな、と思いました。

「顔で腹は膨れん」

 とは、人生の先輩方のお言葉です。

 人生の先輩方のアドバイスは、馬鹿にできません。

 素直に受け入れるに限ります。

 で、肝心のお見合いですが。

 この方は、とあるお寺が大好きな方でした。

 ええ。それは、とにかくマニアックなぐらいに。

 ちょっと個人情報に引っかかるのであまり詳しくは書けませんが、とにかく一つのお寺が小さい頃から好きで、よく訪れて行っているそうです。

 それは大人になってからも変わらないとか。

 ほう、と思いました。

 なかなか斬新な視点でのお話も聞けて面白かったです。

 あっと言う間の一時間でした。

「あの人の話に付いて行けたのは、あなたが初めてだったわ」

と、結婚相談所の方にも言われました。

 いえいえ、マニアックな話も良い物です。

 が、しかし。

 初対面の時は良かったのですが、問題は次でした。

 何せ、ディープにそのお寺を愛している彼ですから、語り合いたくてしょうがないわけです。

 せめて他のお寺にも話題が移れば良いのですが、彼の興味はそのお寺のみ。

 そのオンリーワンがゆえに、話が広がらない、広がらない。

「あのお寺も同じ禅寺ですよね」

 と言っても、

「そうなんですか」

 と、一行で終了です。

「〇〇寺は、禅寺なんですけど、俺は他はよく知らないんですよ。〇〇寺の歴史は詳しいですよ」

 そして、語りだす、〇〇寺のこと。

 皆様、思い出されましたでしょうか?

 そうです。先の章(健気な人が好みです)で出てきた、テーマパークのことを話したがる彼を。

 とにかく、どんな話題を出しても、テーマパークに持って行こうとしていました。

 この後になって、男の方が自分の得意なことを話したがるのは、「俺ってすごいでしょ」というアピールをしたいからだと、ネットで書いてあるのを読みました。

 ようするに、「男の本能」ってことですね。

 なので、この人も私が自分と同じ寺に興味を持っていると思って、その寺について詳しく話そうと思ったのかもしれません。

 ですが、これを読んでいる男性の方々。

 あなた方は、自分の興味のない話を、延々と聞かされて楽しいでしょうか?

 婚活の場で福山雅治の話をされたいですか!?

 直接的な表現でなくても私ってかわいいでしょって話を、と延々と聞かされたいですか!?

 そう。面白くないですよね?

 それは、私達女性とて同じこと。

 「自分のこと」ばかり話されても、面白くないのです。

 でも。

 やっばり、婚活と言うのは、相手への思いやりが一番ということ。

 自分の思いばかりが先行していては、やはりいけないのでしょう。(私も含めて)

 だからこそ、相手への配慮のために、服装に気を使い、清潔感を出すようにし、会話の内容も考える。

 そして何よりも、相手への思いやりを忘れずに。

 ここまでして「お断り」をしたり、「お断り」をされたりしたら、それは縁がなかったということなのかもしれません。

 そう。「遺伝子レベル」での拒否感は、もう本能ですから。

 どうしようもないんですよ、うん!

 けれど、やっぱり会話は楽しくしたいです。

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