12 健気な人が好みです

健気

① 殊勝なさま。心がけがよく、しっかりしているさま。特に、年少者や力の弱い者が困難なことに立ち向かっていくさま。

② 勇ましく気丈なさま。

③ 健康であるさま。ーデジタル大辞泉より

                    ★

 正直に申しますと、私も健気な人は大好きです。

 なまじっか、自分も含め周りにはパワー溢れる方々がひしめき合い、時々圧倒されることもあります。

 そんな中、健気な子が現れたら、たとえ女の人であろうと、「ああ、嫁に来て欲しい!」と思います。

 そして、実際「嫁に来ない?」と言ってしまいそうになります。

 と言うか、言ってしまいます。

 だから。男性が健気な人が嫁に欲しい、と言う気持ちはわからなのでもないのです。

 BLだって、健気な受けが出て来る物が、やっぱり読み応えがあります。

 ならば、何故自分が健気な人にならないのか?って、声が聞こえてきそうですね。

 でも。「健気な気持ち」と言うのは、一方的に与えるものではない、と私は思うのです。

 同居を承諾した奥様は、お相手のあなたを支えたいと言う、健気な気持ちでそれを承知したのです。

 「合わせてもらって当然、と言う態度を続ければ、愛情は枯れるわ」

 と、結婚相談所の方もおっしゃっていましたが、「僕(私)のことを好きなら、〇〇してくれるはず」と言う思いは、どうも婚活している方々にもあるようです。

 と言うか、そのことを「当然」と思っているから、「こうしてくれない!」と言う不満がたまって行くのでしょう。

「僕のことを好きなら、地元に来て同居してくれるはず」とか、「僕のことを好きなら、一緒に頑張ってくれるはず」とか、何故に思えるのか。

 そのくせ、自分が同じことを求められると、沈黙の艦隊です。

 「威張るなら、稼げ」とは、人生の先輩方の言葉ですが、相手に求めるならば、自分も与えていかねばならないってことで。

 今回は、そんなお話し。

 その方とは、婚活サイトで出会いました。

 ちなみに、私の婚活歴は、婚活サイト→婚活パーティー→結婚相談所です。

 どれが良いかは人それぞれですが、結果が出たのが結婚相談所なので、個人的には、早めに結果を出したいのであれば、結婚相談所なのかなーとも思います。

 さて、話を戻しましょう。

 婚活サイトで、活動をすることを決めたのは、やはり費用が「安い」からです。

 何せ、大手相談所の1/3の費用ですみます。

 しかも、提供しているサービスは、ほぼ結婚相談所と変わりません。

 これが、婚活サイトの最大のメリットです。

 けれど、使ったことがある方はわかると思いますが、婚活サイトは、サービスの提供内容は普通の結婚相談所の変わらないのですが、一番の特徴があります。

 それは、自分で何でもしないといけないってことです。

 自己紹介を書くプロフィール欄も自分で考えて記入しなければならないですし、メールで交流する時を考えるのも自分でしなければならないですし、交流が深まって行けば当然会う事になりますけど、その段取りも自分でしなければなりません。

 しかも、自分のやっていることが、「正しい」のか、「正しくない」のか。

 本当に手探りの状態です。

 さて、そんな婚活サイトでも、色んな方にお会いしましたが、この章に出て来る「彼」は、実際お会いして、数か月お付き合いしました。

 最初のアクションは、あちらからでした。

 婚活サイトは、最初にメールの交換から始まります。

 ただし、その前に二人専用の掲示板がありまして、そこが使える期間は、その掲示板で交流します。

 彼のプロフィールを確認すると、そこそこ整った顔立ちです。

 お仕事は自営業。肉体労働のお仕事で、引き締まった体をしています。

 ふむ、と思いました。

 外見は悪くないです。確かに「イケメン」ではありませんが、人好きのするお顔です。

 年齢も近いし、交流するのは悪くないかもしれません。

 と言う事で、早速掲示板で交流開始です。

 彼は同じ県内在住と言う事で、話題も共通点が多く、掲示板での交流もなかなか楽しかったです。

 他の方々とも掲示板で交流していたのですが、やはり他県なので、なかなか共通の話題がなく、仕事が続けたかった私には、あまり彼らと出会って交流していく気にはなりませんでした。

 で、彼とならば、同じ県だし私が働いている街の近くに住んでいるし、場合によっては希望して転勤させてもらえば良いなあ、と考えていました。

 そうこうしているうちに、掲示板が使える期間が過ぎようとしていたので、メールで交流することにしました。

 メールでの交流をしていくうちに、「ますますあなたに会いたくなりました」と書かれたら、まんざらでもないです。

 と言うか、嬉しいです。

 あまりモテたことのない人生。

 そこだけに価値を求めていないので気にはしていませんが、そこそこ「良いな」と思っている人にアピールされたら、嬉しくないわけがないです。

 でも、「婚活サイト」はやはりトラブルの温床でもあるわけです。

 いくらサイトの方が気をつけてくれたとしても、間に「結婚相談所の人」と言う安全弁がない以上、気軽に「会いましょうか」とはやってはいけない。

 まあ、婚活サイトには「自分の身は自分で守りましょう」と注意事項に書いてありますし、「最初に会う時は、人のたくさんいる場所で、昼間に会うようにしましょう。長く時間ではなく、短い時間で」ともサイトに書いてあります。

 しかし、警戒ばかりしては、婚活は進みません。

 警戒はしつつも、彼に会ってみることにしました。

 でも、サイトの注意事項も忘れず、最初に会うのは「水族館」にしました。

 「水族館」は、美術館や博物館ほど敷居が高くありませんし、一度料金を払ってしまえば、食事とかお土産を買わない限り、お金を使うことはありません。

 それに、周りは家族連れも多く、とても安心できます。

 そして、いよいよ彼と水族館で初対面です。

 「どうも、初めまして」

 と私が頭を下げると、彼も「初めまして」と言いながら、ぎこちなく頭を下げて来ました。

 ふむ、と思いました。

「あ、チケット買っときました」

 とそう言って、彼はチケットを私に渡してくれました。

 いいです。とても良いです。

「払いますよ」

 私は慌ててそう言いましたが、

「大丈夫です」

 彼は首を振りました。

「行きましょうか」

 ぎこちなさはあるものの、誠実な印象です。

 私たちは一緒に水族館へと歩き出しました。

 水族館は、やはり見ごたえがありました。

 魚の群れに、くらげの浮遊、面白い生き物達。

「面白いですね」

 と、彼はそう言って笑いました。

 さて、皆様。

 ここで、勘違いをしてはいけません。

 これは、過去の出来事です。

 私が、結婚相談所に登録する前の出来事です。

 今までとはちょっと様子が違いますが、「上手くいった例!?」と思ってはいけません。

 これは、間違いなく過去の出来事です。

 閑話休題。

 さてさて、水族館デートで打ち解けた私たちは、本格的に交際をスタートしました。

 とは言っても、互いに仕事をしている身ですから、学生のようにはいきません。

 私は今もですが、この頃も仕事に生きがいを持っていました。

 生活のための仕事ですが、「仕事」は「仕事」です。

 プライベートも大切ですが、「仕事」には「責任」があります。

 -と、当時の私は思っていました。

 まあ、今もそうなのですが。

 彼も自営業ですから、私が休みの日は逆にお仕事があったりして、なかなか会えない日が続きます。

 それでも、メールをしたり、彼は旅行先からお土産を送ってくれたりして、そこそこ上手く付き合っている、と私は思っていました。

 そして、夏。

 夏は忙しいけど、イベントが多い季節です。

 だから、コンサートや海に行って、楽しんでいました。

 けれど。そんなふうに過ごしていた時、「夏休みに会いたいね」と言っていたのですが、彼の家族が帰省すると言うことで、私たちは会えなくなりました。

 仕方ないので、私も会うことは諦めて、夏休みは早々に実家に帰省することにしました。

 が、滞在中にトラブル発生。

 次の週に会う約束をしていたのですが、会えなくなってしまいました。

 しかし、家族が困っているのですから、それはそれで仕方がないことです。

 彼も家族の帰省があって、私との予定を伸ばしたのですから、そのことはわかってくれるだろう、と私は連絡とお詫びのメールを書いて送りました。

 そうして、返信のメールが来て、それを開いたとたん、私は自分の目を疑いました。

「こんにちは。来週会えないのですね。そのことを知った時、しばらく落ち込みました。でも、大丈夫です」

 このメールを見て、皆様はどう思われたでしょうか?

 さて、もう一度前のページを見てみましょう。

 彼は、私に「家族が帰省するから会えない」と言っていました。

 それなのに、私が家族のことで「会えない」と伝えると、上のようなメールを送って来たのです。

 自分は「家族」のことを優先するのに、私が「家族」のことを理由に会う約束をキャンセルすると、そんな内容のメールを送ってよこしてきたわけです。

 私の「家族のことで会えない」と言うメールに、そのような内容のメールを返事で送ってくるということは、少なからず私に罪悪感を持って欲しいと思っていることが、見え隠れしていました。

 自分は当然のことのように「家族」を理由にして私に会わなかったのに、何故、こんな内容のメールをもらわないといけないのか。

 私としては、釈然としない思いでした。

 だから。彼に、メールを送りました。

「私にも、家族がいます。その家族を優先してはいけないのですか?」と。

 そうしたら、彼から、速攻でメールが返って来ました。

 「何故、そんなことを言われるのですか。僕は、『大丈夫です』と書いています。そもそも、あなたは結婚しようとしているのか。いつまでも仕事を辞める話はしないし、大切にされなければ、僕はあなたを愛せません」

 そのメールを見て、私は目が点になりました。

 いや、仕事を辞めるって、いつの間にそんな話になっているんですか。

 そもそも、私は仕事を辞める気はないって、言ってましたよね?

 つまり、何事を置いても、あなたのことを優先させろと?

 彼が目の前にいたら、そう突っ込みたかったです。

「僕のことが好きなら、やってくれるはずです」

 でも、この文を見た時。そういうことですか、と思いました。

 彼は、私が「自分のことを好きならば、自分のためにやってくれるはずだ」と思っていたのです。

 でも、そこに私の思いはありません。

 だって、私は仕事が好きでしたし、家族もいるし、友達もいます。

 彼のために、全てを捨てる気はありませんでした。

 と言うか、それを「当然」として求めてくる彼に、「すごいな」と思いました。

 彼は、私のために何一つ捨てる気はないのです。

 それなのに、私にはそれを当然のように求めてくる。そして、それをしない私に怒りを爆発させたのです。

 つまり、彼は「自分のために全てを捨てて付いてきてくれる女性」を求めているのであり、それは「私」でなくても良いのだな、と私は思いました。

 さらに言うと、彼は脳内で理想の展開を考えていて、その理想とは違う私の態度にも苛立っていたのでしょう。

「なるほど。ときめきメモリアルを現実でしていたわけか」

 と、私は彼のメールを見て呟きました。

 ならば、それはゲームでやってもらわねばなりません。

 私は、彼の理想を演じるつもりはありませんでした。

 今思い返してみると、私の結婚に対する理想は、あまり今と変わっていません。

「お互いに協力して、新しい生活を築いていくこと」

 けれど、彼にとっては、それは「大切にされていない」ということに繋がっているのです。

 だから。私は、こうメールを返しました。

「あなたのお気持ちはわかりました。では、もうお会いしない方が良いでしょう。私はあなたの理想通りにはできませんし、するつもりもありません」

 そうメールを書いて、一晩置きました。

 翌朝に、パソコンを開いて、もう一度私は自分に問いかけました。

 私は、どうしたいのか。

 そして、結論はメールの文面そのままでした。

 なので、そのまま「送信」のボタンを押しました。

 彼からの返信はありませんでした。

 そして、季節は夏から秋、秋から冬へと移り変わります。

 私は、元気に仕事に追われる日々でした。

 そして、初冬ぐらいから、非通知の電話が携帯に入るようになりました。

 仕事中でも入ってくるので、非通知の電話は拒否するように設定すると、次は公衆電話から来るようになりました。

 めんどくさいなーと思いながらも、私はこれも着信拒否しました。

 それで一安心と思いきや、今度は見覚えのない携帯番号から入ってきます。

 ますますめんどくさくなった私は、どうしようかなーと思って、周りに相談してみました。

「携帯番号変えたら?」という意見が多くて、その通りだなと私も思い、さくっと携帯番号を変えました。

 そうしたら、案の定、その手の電話はかかってこなくなり。

 私は一安心、と思っていました。

 でも。

 婚活のことで占い師さんに相談した時に、指摘されたんです。

「それ、お別れを告げた彼氏さんではないですか?」と。

 私にとっては、思ってもいないことでした。

「彼は、あなたに未練があります。おそらく、あなたとその内容をやり取りしていた時も、あなたが『そんなこと言わないで』ということを期待していたんだと思います。ところがあなたは、『わかりました』と言って、一切連絡して来なくなった。彼としては、慌てたと思います。『こんなすばじゃなかった』って感じで」

「なんか、まるでときめきメモリアルをリアルにやってるって感じですね」

「まあ、あれはゲームだからね。焦らしたり慌てさせたりして、相手の心を掴んで行くのを楽しむのが目的だもの。でも、現実はそうじゃないわよね」

 「なるほどなー」

 と、私は占い師さんの言葉に頷きました。

 まあ、でも。

 あくまでも、これは「占い」です。

「でも、あなたは彼と復縁する気あるの?」

「ないですね」

 占い師さんの言葉に、私はきっぱりと言い切りました。

 仮に占いの通りだったとしても。

 ときめきメモリアル的なゲームは、リアルでやるんじゃなくて、ゲームの中でやるからこそ、楽しいのです。

 自分の思い通りになる恋愛をしたいのであれば、ゲームの中でやるべきです。

 私は、リアルで恋愛をしたいし、結婚をしたい。

 だから、彼とのことは既に「過去」のことでした。

 あれから。もうずいぶんと経つのですが、彼は結婚しているのでしょうか?

 この時のことを結婚相談所の方に話したら、

「若かったわねー」とのことでした。歴戦練磨の猛者には、私のこの体験は、ひよっこ過ぎたのかもしれません。

 でも、やっぱり今でも思います。

「ときめきメモリアルは、ゲームでやれ!」と。

 自分都合の「健気な子」は、リアルではいないってこと、わかっている婚活男性は何人いるのでしょうか???

 この後に会った人達のことも考えると、「あまりいないよね」ってことは、確かでございますね。









 

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