11 あなたのサポートが必要なんです!
「前に、彼氏に『俺と仕事とどっちが大切なんだ!?』って言われました」-職場の同僚。
「男と別れても死にゃせんばってん、お金ないと生きていけんけんね」
「同感です」
★
まあ、今の時代は昔と違って「専業主婦」なんて、もうステイタスでしかありません。
いくら政府が「景気が良い」と言っても、それはデフレが進んでいるからの状況であって、生活コストが昔よりも格段に高くなっている現代では、「絵に描いた餅」にしかなりません。
実際、男の人の正社員の就職もなかなか難しい現代のこのご時世、しかしお金を出さないと得られない物ばかりです。
子どもの教育にしろ、福祉のサービスにしろ、まずは「お金」が物を言います。昔と違って、夫の稼ぎだけではやっていけなくなっているのです。
「けれど、旦那それわかっていなくてね。転職して給料下がったから、私がパートにでる時間長くしなきゃいけないってのに、『家事もしてね』って言ったら、『何で俺が?』って言うのよ? 腹が立ったから、『今の手取りは、私が上なのよ? 私よりも稼げていないくせに偉そうにするなら、この家出て行って』って言ったわ」
私と同世代のパートの方は、そう言いました。
けっこう、ドギツイことを言い放ってくれています。
「そりゃあまあ、そぎゃんたい。『家事は妻の役目』と言うなら、夫は家族ば養えるぐらいの稼ぎをしてこにゃ」
「稼ぎもせんのに、偉そうにしてる旦那なんぞ、おらん方がまし」
けれど、私がひぇぇぇぇと思っている発言も、人生の先輩方は納得顔で頷いています。
一応、私はとうの昔に適齢期は過ぎていますが、嫁入り前です。
すいません、結婚に夢見させてください。
「あら。違うわよ。現代は、男女協力して家庭を回して行かなきゃいけないって話よ」
しかし、パートの人は笑顔で私に言います。
「そうそう」
「間違っとることは、言っとらんたい」
パートの方と人生の先輩方は、笑顔で頷き合っています。
しかし、その根底には「その気になれば、捨てちゃるけんね」と言う本気の気持ちが見えます。
そう言えば、我が母も、
「そぎゃん態度ば続くなら、熟年離婚ば覚悟しなっせよ。老後までようみらんけんね」
と、父に言い放っておりました。
これ、言っただけじゃないんですね。我が母は、有言実行のお人。
自分が「やる」と決めたら、どれだけ時間がかかろうと、やり遂げる人。
我が勝手にやっている父も、母の言葉には危機感を持ったのか、定年後までにはその行為を控えるようになりました。
……何と申しますか。
私の周りには、似たような人達が集まっていると思うのは、気のせいでしょうか。
独身既婚若さも渋さも含め、何故か似たような価値観と行動力のある人達が集まっている……。
ええ、まあ。そんな私も、同じ穴のムジナなのですが。
で、前置きが長くなりましたが、今回はそんな私の気性が爆発した……と言うか、まあ、いつものパターンでの話ではあります。
その方とは、お見合いで知り合いました。
私よりも年上の方でした。
「五十代初婚だけど、どう?」
ふむ、と思いました。
「親御さんと同居ですか?」
私は、結婚相談所の方に確認を取りました。
これには、理由があります。
五十代で初婚。そして、親と同居。
これは、「バツイチ」で「子持ち」の方とは違う意味で、「要注意物件」なのです。
五十代で独身だったという方は、もちろん今の時代たくさんいらっしゃいます。
ですが、今まで独身で親御さんと同居ということは、ほとんど身の回りのことを、母親にやってもらって来た可能性が高い、ということなのです。
しかも、私は自分の親とも相手の親とも同居は希望しない私としては、「今さら実家を出られない」と言う結婚相手は、望むところではありません。
「あら、珍しく迷っているの?」
いつもであれば、即断即決の私。結婚相談所の方は、意外そうです。
「そうですね。五十代はともかく、ご実家でご両親と同居と言うのは、ちょっと引っかかりますね」
「そうね。でも、この方稼ぎは良いわよ」
「良いですね! それでは、お願いします」
結婚相談所の方の言葉に、私は即決しました。
何か一つ良い点があるならば、私は会うことにしています。
やはり、「良い条件」と「悪い条件」が混在しているのが婚活と言うもの。
「稼ぎが良い」と言うのであれば、それは「良い条件」です。
先の章で、「自分が良いと思う条件の人でも、ダメな時がある」ことがわかってから、私はあまり条件に縛られないようにすることを心がけました。
確かに、「一緒に生活を作り上げていく」ことは大事な条件ですが、会う前から条件に縛られるのも何か違うんだな、と思うようになったのです。
それに、やっぱり稼ぎはないよりはあった方が良いです。
専業主婦になる気はさらさらありませんが、稼ぎの良い旦那を持つということは、やっぱり婚活のメリットです。
とりあえず、私は会う事を即決しました。
さて、ここで注意事項です。
賢明な皆様は、既に十分承知していらっしゃると思いますが、私は「結婚相談所」と書いていますが、実は複数登録しています。
だから、色んな結婚相談所の出来事を書いています。
で、ここの結婚相談所は、プロフィールは教えてくれるのですが、写真等は見せてくれません。
「会ってからのお楽しみ」
なんだそうです。
それを、「嫌」と思うか「面白そう」と思うか。
それは人によって違うと思いますが、私は後者なので全然問題はありません。
そして挑んだお見合いの日。
お相手の方は、人の良さそうな感じの人でした。
何か、昔話に出て来そうな感じの人だな、と私は思いました。
そうして、結婚相談所で顔合わせをするのですが、話はまあ、ふつーに進みました。
とにかく、ふつー。自己紹介、仕事のこと、自分の好きなこと。
差し障りのない範囲で、二人で話します。
ここまで特徴がないのも珍しいな、とは思いました。
「話」というものは、その人の人なりが出るものです。
某寺の話を散々する方もいらっしゃったし、先の章でも色々な方々がご自分の好きな物を各自語り、私が好きな話をしようとすると、「何か違う」という顔をされました。
とにもかくにも、「特徴」があるはずなのに、まるで無味無臭。
「どう?」
と、彼が先に帰った後に、結婚相談所の方が私に尋ねました。
「まあ、とにかく、一度会っただけじゃわからないので、また会います」
「了解。じゃあ、彼に伝えます」
そこで、私と彼は二回目に会う事決定となりました。
「良いも悪いもない」は、実は婚活では一番望ましい印象なのだそうです。
婚活現場で、よく「お相手の恋愛感情を持てない」という声が聞かれますが、結婚相談所の方曰く、「一目惚れなんてのは、ありません。そういうのは、お付き合いをしていくうちに、出来上がっていくものなのです」
だから、できるだけ一人の人と会う回数は、短期間で多い方が良いのです。
短期決戦、短期勝負。
婚活の基本中の基本です。
なので、二股三股ぐらいは、当たり前でもあるのです。
ただ、まあ。
私は短期決戦、短期勝負は同感なんですが、二股三股はめんどくさいです。
話を元に戻しましょう。
二回目会うことになったら、早速会うための日程調整です。彼は他県の人です。
なかなか調整が難しいです。彼から「こちらに来ませんか?」と誘ってもらいましたが、まだお会いして二回目です。
ちょっとハードルが高いかなーとも思いました。
まあ、正直に言えば。お金がないってこともありましたし、彼にそこまでして会いたいとは思わなかったんです。
で、結局のところ。
「すいません、その日は夜に用事があるんです」
と言って、私の住む県の駅で待ち合わせして、駅ビルの中のレストランで食事をすることにしてもらいました。
無事に待ち合わせた後、レストランに入って、食事の注文もしました。
普通のレストランですから、個別に食べたい物を注文します。
「今日の夜は予定があるんですか?」
注文の後、彼は私にそう聞いてきました。
確かに、彼の誘いに「夜に用事があるので」と言った私ですが、嘘ではなく、本当に用事があったのです。
「はい。申し訳ありません」
私は、ペコリと頭を下げながら彼に謝りました。
「どんな用事なんですか?」
と、彼はさらに聞いて来ました。
あれ? と私は思いました。
「個人的な用事です」
しかし、とりあえず、そう答えました。
暗に、「すいません、言えません」と言う意味も含んで、私は言ったつもりです。
楽しみにしていたBL本が発売されたから、この後、大きな本屋に行って、購入して読むつもりですなど、死んでも言えません。
と言うか、言ったら引かれます。
「それは何ですか?」
しかし、彼は重ねて聞いてきます。
おいおいおい、と私は思いました。
「私用です」
なので、もう一度そう言いました。
これ以上聞かれるのであれば、はっきりと「すいません、プライベートなので」
と言うつもりでした。
「そうですか。気になりますね」
と、彼は言いました。
ここで私はまた、おいおいおい、となりました。
まあ、彼にしてみれば。
せっかく自分の地元に誘ったのに、私が「用事」を盾に断ったのですから、その理由を知りたかったのでしょう。
また、自分の方が一回目見合いにこちらに来たので、今度は私が来るべきだとも思ったのかもしれません。
けれど、私の方は。
他県に、お金をかけて行くまでは、彼に「会いたい」とは思わなかったのです。
「会わない」にした方が、失礼ではなかったかもしれないなーと私が思いながら、ご飯を食べていた時です。
不意に。
彼が、こう言いました。
「お仕事は、給料が安くて大変でしょう」
思わず、耳を疑いました。
「はいっっ!?」となってしまいました。
「最近、話題になっているじゃないですか」
唖然、となってしまいました。
正直に申しましょう。確かに、給料は安いです。ええええ、って言うぐらい安い。
けれど、私は生活のための仕事とは言え、そこに「やりがい」を求めているのです。
でもそれを別にしても、ほぼ初対面の相手に、言って良い言葉ではないです。
「仕事は、楽しいです」
私は、笑顔を浮かべながら言いました。
「給料は、関係ないです」
そして、短く付け加えました。
「そうですか……」
私の態度に、ぎこちなく彼は頷きました。
ええ。その時の私は、「そのケンカ買ったぁ!」状態。
笑顔でケンカを買っていました。
そのまま、笑顔でケンカを買った私と、ぎこちなくなってしまった彼は、別れてしまいました。
まあ、今思えば。
彼も、自分の売りどころが「稼ぎ」だったということは、重々承知していたのでしょう。そして、自分のマイナスの部分が、年齢のわりに老けて見える外見だと言う事も、わかっていたのだと思います。
そう……私が彼に「お金を払ってまで会いたいとは思わない」と思ったのは、彼の「外見」もあったのです。
女性は、男性みたいにあからさまに「若さ」を好むようなことは言いませんが、本音は「若いピチピチした子が良い」と思ってはいるのです。
だから、「俺達男は、幾つになっても、若い子を選べる」と豪語される男性に好まれる「若い女性」は、実はその男性よりも「もっと若い方が良い」と思っているのです。
私も、まだ二十代の時に三十代後半の方からアプローチされましたが、嫌悪感しかありませんでした。
もちろん、今はアラフォーですから、分別はあります。
あからさまに「男は二十代が良い!」とは言いません。さすがに、同世代の子ども世代とはないわ、とも思います。
それに、「外見」だけに拘るのは、ノーだと言うのも経験上わかっていました。
だから、彼と一回だけ会って断るのは失礼だと、この時の私は思ったのです。
けれど。返って失礼なことになってしまっていたのかもしれません。
-とは、建前で。
本当は、「君、お金ないんでしょ? 私と結婚したら、お金には苦労しないよ」という気持ちが見え隠れしたあの瞬間に、「ないわ」と思ったのでした。
ただ、彼にとっては「給料の安い仕事」をしている私は、彼と結婚して、彼の人生のサポートをして行った方が良い、と相手は思ったのかもしれません。
いや、好きでもない人の人生サポートするぐらいなら、たとえ安月給でも、激務でも、私は自分の好きな仕事を選びます。
だけど、この件は、確かに私も浅はかだったと思います。
たとえ女と言えど、「結婚相手は若い方が好ましい」と本能的に思ってしまうことを、実感したお見合いでもありました。
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