7 価値観の確認は必須です。

「おめでとうございます! あなたは僕の妻に相応しいと判断されましたっ!」

-いや、別にけっこうです。

                 ★

 婚活には、価値観が合った人を探すことが大切だと言われています。

 それはそうだと私も実感しています。

 何せお付き合いに至ってもこの「価値観」ゆえにお断りすることがあるのは、前章まで読んだ方は、ご理解いただけますでしょう。(私の場合は、同居ですね。BUT それが問題なのではありませんよ)

 でも、時に「これは就活の面接ですか?」と言うお見合いがありました。

 どういうわけか、そういうお相手ほど、上から目線なんですよね。

 まず、お一人目は公務員の方でした。

 この方とはお見合いでした。出雲大社に良縁をお願いして、「公務員よろしく!」と頼んだ後だったので、期待していました。

 ちなみに縁結びで有名な出雲大社ですが、婚活されている方はここに参拝されることをオススメします。けっこう効果は高いです。

 ただし、「縁結び」のきっかけをくれるだけで、「その後は頑張れ!」って感じで突き放されるんですけど。

 まあ、それはそれとして。

 その方は公務員と言うお仕事柄か、とても真面目な方でした。

 一回目のお見合いの時は、こう言われました。

「あなたは、料理はされるのですか?」

「あ、はい。毎日仕事に行く前に作っています」

「それは素晴らしいですね。外食はされないんですね?」

「はい」

  まあ、「料理は作ります」と言うと、大抵の方は好感度上がるようです。

 女の一人暮らし、そうしないとやっていけないと言うことなんですけどね。

 そして、二回目に会った時。

「僕はこの検定を受けました。あなたもどうですか?」

 そう言って差し出されたのは、ご当地検定のテキストでした。

「それは差し上げます。それを使って勉強してください」

 これをどうしろと、私は思いました。

 いや、だって。私はその検定に興味などないのです。

 まして新品のテキストだったらともかく、彼が使ったらしき物。パラパラと見ると、書き込んだ後もあります。

 えーと、と思いましたが、

「また後で見せてもらいますね」

 と、私は本を受け取ってバッグの中に入れました。

 とりあえず、中身を後で確認して、興味が持てたら読んでみようと思いました。

 そして、そのまま話を変えるのも何だったので、

「どんな問題が出ますか?」

 と尋ねました。

 ご当地検定ですから、ご当地の特色ある問題が出ることを、彼は詳しく話してくれました。それについては、興味を持って聞くことができましたが、

「ぜひ、あなたもチャレンジされてください」

 と言われると、どうなのかなーと思ってしまいます。

「あなたは、この名前をどう思われますか?」

 すると唐突に、何か文字が書かれた紙を渡されました。

 広げてみると、その当時発表された、「人気のあった赤ちゃんの名前ランキング」が書かれていました。1位〇〇、2位〇〇って言う、あれですね。

「奇抜な名前もありますよね?」

 その紙を見ている私に、彼は重ねるように言葉を続けます。

「まあ、確かにえ?と言う名前もあります」

 私は、彼の言葉に頷きました。 

「そうですよね」

 彼の言葉に力が入ります。

「でも、これは私の個人的な考えであって、他人様に押し付けるものではないと思います。ましてや、赤ちゃんの名前を決めるのはご両親であって、それぞれに思いや考えがあるでしょうから、赤の他人が横から水を差すのは、無粋なことですよ。よそ様のご家庭のことですしね」

 さて。ここで、賢明な皆さまなら、ご理解されましたでしょう。

 はい、私はこの時点では、特に他意はありませんでした。

 ただ、意見を求められたから、答えた。それぐらいにしか思っていません。

 しかし。彼にとっては、とんでもない内容だったようです。

 察しの良い皆様方なら、ご理解していらっしゃるでしょう。

 彼は、「自分の子ども」が欲しかったのです。

 だから、私が「子育て」に同じ価値観を持っているか、知りたかった。

 ですが私は、彼に対して「は? なんば他人様の家庭のことに口出しとっとね。どぎゃんでん良かったい、肝の小さか男たいね」と、そう聞こえる内容を言ってしまったのです。

 ええ、少しのためらいもなく。

 彼としては、「あなたは子育てのことについてどう思いますか? 僕と同じ価値観を持っていますか?」と聞いたつもりなのに、すぱぁぁぁぁと、私が一刀両断。

 真っ二つに割るどころか、粉砕してしまったんですね。

 ええ、でも。重ねて言いますが、当時の私としては、「一つの意見」として言ったつもりだったんです。……多分。

 で、ちょっと番外編なのですが。

 他に、五十代の男性とお見合いした時のこと。

 その方は、ずっと独身を通されてきた方でした。

「最近、子どもが欲しいなって思うんです。兄のところに孫が生まれて、とても可愛いんですよ」

 その方は、五十代でした。今から赤ちゃんを育てるとなると、それはそれで大変そうです。

「でも、子どもは『かわいい』だけじゃ育ちませんからねぇ」

 私は、実感としてそう言いました。

「かわいい」で子どもが育つならば、児童虐待も、コウノトリのゆりかご問題も、起きるわけがありません。

 「かわいい」だけで子どもを求めるのであれば、浅はかです。

 それなりの「覚悟」が必要になってきます。

 はい。

 私は、「子どもってかわいいよね。結婚したら子ども欲しいな」と私に同じ価値観を持っているか聞いた彼に対して、「は? なんばアマかこつ言いよっとね。かわいいだけで子どもが育つわけなかが、こん馬鹿が!」と聞こえる内容で、すぱぁぁぁぁと、一刀両断。したんですね。

 ナチュラルに。

 重ねて言いますが、その時はただ自分の「意見」として言っただけなんです。

 まあ……誰も信じてくれませんけどね。

 今なら、私もわかります。適当に同意しておけ、と。

 ただ、先々のことを考えると、この方々とはどうせ長くはなかったな、とは思います。

 基本的に、「子どもが欲しい」と思っていても、それは相手あってのこと。

 出産が女性に負担がかかることを前提に考えると、少しでも若い方が良いのに、まあ当時アラサー後半&アラフォーの私に声をかけて来たのは、妥協の末のことでしょう。

 ようは、「子どもが欲しい」という自分の希望を叶えたいがために、結婚相手を探していたのです。私が求める「一緒に生活を作り上げたい」と言う希望は、この方々にはないのです。

 でも、それにも良い悪いはないのです。

 ただ、お互いの価値観が合わなかっただけのこと。


 あ、もらったテキスト本ですか?

 〇ック〇フに売りましたよ。だって、興味ありませんから。

「俺色に染めたい」と思うならば、せめて、新品を持って来いっ!っやつですね。

 で、続けて二人目の方ですが。

 この方は、バツ2の方でした。

 前章の方も離婚している方でしたが、婚活の現場では、離婚されている方は、忌避すべきではありません。

 お子さんがいらっしゃるのは「問題物件」と先の章にも書きましたが、あくまでも「問題物件」なだけであって、それだけで判断するのは、もったいないです。

 前にも書きましたが、好条件と悪条件が混在しているのが、婚活というもの。

 「子持ち」という悪条件が、他の好条件でリカバーできることだって、あるかもしれないのです。

 それに、初婚の人が良いとも限りません。

 私が会った初婚の人の中には、お見合いの場にジャージ姿で来たり、メールを打ったことがないということで、一回につき十何通の空メールを昼夜問わず送って来て、やっと文章のあるメールは「メールください」と言う文面だった人もいました。

 それから、離婚していると言うことは、結婚していると言うことです。

 つまり、それだけの人間関係力はあるということです。

 でも、何事にも例外ってものはありますけど。

 少し話しが横道に逸れましたが、二人目の方とは、お見合いでした。

 彼は、妙に質問が多い方でした。

「ご出身はどこですか?」

「ご両親は何をされているんですか?」

「ご兄弟は何をされているんですか?」

 まあ話題作りですから、質問にはお答えしました。でも、私が聞く質問は流されていると言うか、質問をさせない雰囲気です。

「お家では何をなさっていますか?」 

 と私が尋ねても、

「休日は、DVD を見ています。1人暮らしですから。料理はされますか?」 

 って感じです。

「料理は作りますね」

「それは素晴らしいですね」

  私の返事に彼は満足そうです。

「お掃除もされますか?」

「仕事に行く前に、ちょこっとするぐらいです」

 断っときますと。料理も掃除も、女の一人暮らしだからやっているだけです。

 何せ、戦前生まれにも関わらず、『は? 男子厨房に入らず? 何ば言よっとな。さっさと掃除せんね!』と言う祖母に育てられた父は、私よりも掃除が上手いです。

 商売をやっていた両親を持った母は、中学生の時から自分のお弁当や家族の夕食を作り、今の時代にあって、お節を全て手作りするお人です。

 私なんぞ、ふつーです。ふつーどころか、適当です。

 夢なんぞ、見られても困ります。

「そうですかあ」

 しかし、彼はますます満足そうに微笑みました。

 すいません、夢見ないでください、と私は言いそうになりました。

 「あなたの夢は何ですか?」

 と、彼はおもむろにそう尋ねて来ました。


 BL作家になって、年収一億円になることです。


 まあ、本音を言えばそうなんですが。

 私もさすがにこの歳にもなれば、本音と建て前の使い分けはしております。

「今の仕事を、もっと充実させたいんです」みたいな内容を、私は言いました。

 でも、これも嘘ではありません。

 確かに生活のための仕事ではありますが、これはこれで、私にとっては大切な人生の指針の一つです。

「いえ、そういうことではなくて」

 彼は、私の言葉に、ちょっと顔をしかめました。

 「結婚についてです」

 少しイラついたような声でした。

 結婚については、実はあまり明確なビジョンはないです、私。

 ただ、はっきりしているのは。

 私は、今の仕事は好きですし、家族のこともきちんと考えたいから、そのことを踏まえた上で、これからの生活を一緒に考えてくれる人が良い、ということです。

 ただそれを素直に言うと、「婿養子希望?」とされるので(←さすがに学びました……)

「一緒に生活を築いていけると良いなあ、と思います。それしか決めていません」

 と、答えました。

「そうですか」

 しかし、私の言葉を聞いたとたん、彼は満足そうに頷きました。

 まるで「合格!」と言わんばかりです。

 でもその表情を見た瞬間、私は「ないな」と思いました。

 彼はおそらく、二度の結婚を経て「こういう女性が良い」というイメージがあるのでしょう。

 けれど。

 少しでも自分の「理想」と違った場面が出て来たら、先ほどのように「苛立ち」を感じるに違いありません。

 「離婚」の理由は、当事者の男と女にしかわかりません。

 どちらにも言い分があって、どちらにも原因があるのでしょう。

 しかし、彼の「自分の理想」に拘る様子も、離婚の原因の一つかもしれないな、と私は思いました。

「では」

 と、別れる時、私は頭を下げました。

「またよろしくお願いします」

 と、彼は満面の笑みで言ってくれましたが、私はホテルを出て、駐車場に置いた自分の車に乗った瞬間に、スマホをバッグから取り出しました。

 相手の方は、すぐに出てくれました。

「あ、どうだった?」

 相手は、結婚相談所の方です。

「えーとですね、悪い方ではないのですが、あの方だと、私ケンカしそうです」

「結婚相手を探しているのに、ケンカしないで。……何が嫌だったの?」

「私に、夢見過ぎです」

「何、それは」

 と聞かれたので、私はお見合いの時の様子を話しました。

「ああ、なるほどね……」

 私のお話しを聞いて、相談員さんは頷かれました。

「あなたの場合は、一人の自立して生きていくための技能だもんね、料理とか家事とか」

 だいたいにおいて、掃除がめちゃめちゃできる父と、料理がめちゃめちゃできる母は、「生きるための機能」としてその技を磨くうちに上手くなっていった過程があります。

 当然、その両親の子どもである私が家事をやるのは、生きていくためであって、誰かをお世話するためにやっているわけではありません。

 なので、彼がどれだけ「お世話されたい」と思っても、根本的に「自分のことは自分でやれや」という精神が叩きこまれている私は、相手にもそれを求める―と言うか、やって当然とナチュラルに思ってしまいます。

 そんな私と、「理想」に拘る彼が、共に在ればどうなるか。

 そんなものは、すぐに想像がつきます。

 何せ私は根っからの九州気質。 

 自分からケンカは売りませんが、売られたケンカは買う。必ず買う。ましてやそれが自分にとって理不尽なものであるならば、なおさらです。

「そんなに言うんなら、稼ぎ増やせ!」  

 ぐらい、私は言います。

 と言うか、言うでしょう。

 だから。今回のお話はお断りすることにしました。

 ーと言うのは、表向き(結婚相談所の方)の理由で。

 特に私のような独身一人だと、なおのこと、です。

 まあ、アラフォーなんですけどね。でも、同じ独身男性が、どうして上から目線になれるのか。意外に、女の独身の方がみんなスペック高いんです。

 綺麗な人多いし、頭も良いし、掃除とか料理とかのスペックも高いし。

 これは、私が同性だから思う事かもしれませんけどね。

 独身のままでも、案外女は生きていけます。

 なのに、どうして「結婚してあげよう」と思えるのか。

 とりあえず、「そのケンカ買ったぁっ!」となった瞬間で、このお話しは終わったのでした。

 

 一番の理由は、あの「君も結婚したいでしょうから、もらってあげるよ」が見え隠れする、まるで面接管のような質問に「よっしゃ、そのケンカ買ったあ!」っとなったからです。

 そう。もう、私はケンカを買っていたんです。(爆)

 でも。どうして、男という生き物は、何かしら女を見下すようなことをするのでしょうか?






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