5 正しい判断をしてください
「僕と結婚することが正しい判断なんです」
ーいや、だから。その根拠は、どこから来ているのよ。
★
まあ、ここまでお話しをしてきたら。
「ここまで好き勝手に言っている女だけん、結婚できんとよ」
などと言う方々も、出てきていると思います。
何せ、私は「男のプライド」を無意識のうちにスパッと真っ二つにしているらしい女。
「やっぱ女は、素直でかわいい方が良い。若い子がいいわ。おばさんはお呼びでない!」
って、この小説を読みながらおっしゃっている方もいるかと思います。
いや、実は。
こんな私でも、「結婚してください」とおっしゃってくださった方々はいたんです。
ありがたいことです。
ならば、何故、独身街道をばく進しているのか。
まあ、有体に言えば。
そう言ってくださった方々と結婚するよりは、独身街道ばく進している方がはるかにまし、と判断したからです。
その方とお見合いしたのは、やはりお相手の方から申し込まれてきたからでした。
この方とも実は右曲折ありまして、一度お見合いをして、二回目にお会いして、お断りをされた方でした。
理由が、「結婚しようとする感じがしない」
それを聞いた時、まあね、と思いました。
県外の方でしたから。
仕事を辞める気はなかったですし、たぶんこの方とはないかなーとは思いました。いや、この方、私が仕事を辞めて自分の住んでいる県に、しかも地元に来るものだと、決めてかかっていましたからね。
しかも、ご両親と同居。
聡い方々ならば、お分かりでしょう。
そう。基本的に、婚活女子であれば、まず警戒する条件の方でした。
じゃあ、何故会ったのか。
基本的に、私の婚活は「来る者拒まず、去る者追わず」です。
それは、「良い方かもしれない」からです。
いや、だって。
「条件」はその方としての一部だから、他の要素で良い可能性があるかもしれないじゃないですか!
でも。婚活をしている男性の中には、けっこういらっしゃるんです。
会う=俺と結婚してくれるんだ!
結婚=俺の出す条件全て受けてくれるんだ!
って方が。
だから、この方は私が会うことで、「自分と結婚してくれるんだ」と思ったけれど、二回目会った時、私が自分が思ったことを言わないから、(仕事の話とか、行った先の場所の話とか、もう『結婚』には全然関係のない話をしていましたから)「ない」と思ったのでしょう。
けれど、それから二カ月ぐらいして、相談所の方から連絡があったのです。
「前に見合いした方が、あなたにまたお会いしたいって。どうする? 本当はルール違反なんだけどね」
どうしようかなーと思いました。
「どうしましょうか?」
なので、私は相談所の方に聞き返しました。
「お相手の方は、あなた以外の方とも会って、やっぱりあなたの方が良かったって思ったんですって」
でもそれって、「地元に嫁に来て、自分の親と同居してくれる嫁」を条件に上げていたから、即効で断れているんじゃないのか? 多分、会ってもいないんじゃないなーと思いました。
いや、条件だけだったら、絶対速攻断られる案件だし。
と言った考えが横切りましたが。
「そう言ってくれたんだから、会ってみたら? あなたのことをそれだけ熱心に求めてくれるなら、色々とあなたの気持ちも配慮してくれるかもよ」
ふむ、と思いました。
彼自身のお人柄は、決して悪くなかったです。
真面目で、純朴で。
私は、仕事を辞めたくなかったですし、家族のことも考えなければならない立場にもいるし、そういうことをひっくるめて、一緒に考えくれるのならば良いかもしれない、と思いました。
はい、いきなりですが。
ここで、注意事項です。
私が↑のことを書きましたが、決して「ずっと仕事を辞めない」というわけでも、「婿養子に来い」ということでもないのです。
私にも今まで生きて来た軌跡があって、家族もあって、友達もいるわけです。
そういうのを全て放り出せますか? 出せないでしょう、普通。
でも、結婚となると、そうはいかない。
だから、そういったことを、一つ一つ一緒に考えてくれる人が良いわけです。
特に難しい条件ではないはずです。
うん、私はそう思います。
でも。彼は、そうじゃなかったようです。
私が会うのを承諾したので、すっかり結婚する気でいたようです。
会った瞬間、花束差し出されましたからね。
それを横に置いてもらって、私は素直な気持ちを話しました。
前のページで書いた気持ちですね。
ええ。ここまで書いたら、皆さん、予想できますよね。
だって、私が今でも独身街道ばく進しているんですから。
見事に、この世の終わりのような顔をされました。
「すいません、自分は長男で……家を離れることはできないし……そもそも、婿養子なんて……」
だから。誰もそんなこと言っていませんがな。
婿養子なんて男のプライドからしたら抵抗あるのは知っているし、無理に地元から離れろなんて言いません。
ただ私もあなたと同じで家族もいるし、友達もいるし、今の仕事も辞めたくないんですよ。
その気持ちを受け入れて、一緒にこれから先の生活のことを考えていっていけるか、聞きたかっただけです。
でも。彼には、私の言葉はそう聞こえなかったようです。
自分が婿養子に行かなければならない、と。
もうね、この世の終わりのような顔をして受け止めていました。
その表情を見て、私は「ないな」と思いました。
彼は、「結婚」について、「女が全て捨てて自分のところに来て当然」と思っているわけです。
自分が捨てることなど、微塵も考えていなかった。
そして、これから先も考えることはしないでしょう。
「運命の相手」がわかる瞬間はすとんっと来るって聞いたことがありますが、私はこの時すとんっときました。
「わかりました。じゃあ、私は失礼します」
と言って、私は席を立ち、お店から出ました。(注文は先払いだったので、できたことです)
まあ、仕方ないなあと思いました。
彼が生きて来た場所では、「女性は全てを捨てて嫁に来て、同居してくれる」がまかり通っているのかもしれません。
それが良いとか悪いとかではなくて。
私には、「ない」というだけの話だ、と。
しかし、やっぱり他の女性には箸にも棒にも掛からなくて、二回会った私に望みを繋いだんだろーな、とも思いました。
そして、そのことを結婚相談所の方にも報告して。
翌日元気にお仕事に行って、シャカリキと働いていた時にですよ。
来たんですよ、メールが。
互いの連絡先は、一回目会った後に、結婚相談所の方が教えてくれます。
何じゃろなと思って、メールを見てみると。
『あれから、自宅に戻って両親にも相談しましたが、やはり難しいと言われました。僕は、僕の地元に来てくれる方を望みます』
と書いてあるではないですか。
おいおいおい、と思いましたね。
すでに昨日話は付いています。私とあなたでは、交わることはない、と。
だから、彼のメールを見ても私が思ったことは、「そうですか」でした。
それ以上でも、それ以下でもなかったです。
それに交際が終了したら、互いに連絡を取らないことがルールです。
仕事の休憩時間にでも、結婚相談所の方にメールしようと私が携帯をポケットにしまった時に、もう一度メールの着信音が鳴りました。
ぱかっと携帯を開いてメールを見ると、
『僕は、あなたが正しい判断をしてくれると信じます』
と書いてありました。
それの文面を見て、私は「すごいな」と思いました。
彼は、私が自分の元に来ることが「正しいこと」と信じているわけです。
私にとっては、彼と結婚することはないな、とますます確信させられる文面でした。
彼と結婚すれば、私は当然のように同居を望まれ、ご両親が高齢になったら介護をして、でも共働きをして、出産子育てをして、私の実家に何かあって手伝いに行こうとしても、『お前はここに嫁に来たんだろう!』って言われるんだろうな、と想像ができました。
それが「正しいこと」なのであれば、私にとっては「ない」ではなく、「ありえない」
仕事中でしたが、私はこっそりとトイレに行って、携帯を出してメールを送りました。
『私の気持ちは、昨日お話ししたことが全てです』と。
あ、お返事ですか?
ぴたりと止みました。
もちろん、結婚相談所の方にも報告しました。
ありがとうございます、って感じですね。
ただ、断っておきますが。
「同居希望」の方が悪条件ではありません。
最初は同居希望だったけれど、女性と付き合って行くうちにご両親と別居を選んだ方もいらっしゃるので、その条件だけでお断りするのはもったいないかもしれません。
まあ、私は断って正解でしたけどね。
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