最終話「ハーレムは続くよどこまでも」


………あれから、それなりに長く、そしてそれなりに短い時間が過ぎた。

 

日本政府の裏で、侵略異星人が糸を引いていた。

 

ここ最近の日本政治に違和感を感じていた有識者は多かった。

だが、こんなSFのような真実が存在するとは、誰も思いもしなかっただろう。

 

後に「東京大決戦」と呼ばれる、人類初の対地球外勢力との戦争は、セクサーロボを初めとするスーパーロボットの活躍により幕を閉じた。

 

 

崩壊した東京に代わり、しばらくは大阪が臨時の首都として扱われる。

 

また「身内に侵略者がいると気付かなかった」という前科がついた事からか、当面の間は国連の自治の元で日本の政治は行われる事となる。

 

とはいえ、10年の間王慢党の元で、日本が歪に作り替えられていた事を考慮すると、

毒抜きには丁度いい事とも言えた。

 

 

そして、侵略者の隠れ蓑とされた王慢党だが、当然のごとく党員の全員が逮捕………は、されなかった。

 

戦後、なんと王慢党員の大半は、その行方を眩ましていた。

実際、逮捕できたのはほんの一握り。

 

恐らく、裏社会に潜伏している物と思われる。

が、その裏社会が今や王慢党の弾圧により職を失った人々が形成している事を考えると、そこに逃げ道があるのかという疑問が出てくる。

 

警察は、国連と連携し、王慢党残党の逮捕に当たっていくと発表した。

 

 

そして………………

 

 

 


………………

 

 

 

 

西暦2069年。

 

12月31日。

 

23時50分。

 

東京練馬区某所。

 

 

以前よりスラム呼ばわりされていたここも、最終決戦の舞台となった。

 

運よくそこまで大規模な破壊にこそ見舞われなかったものの、未だに避難勧告は解除されていない。

その為か、火事場泥棒はおろか野良猫すら見当たらない。

 

 

そんなゴーストタウンとなった場所で、一つだけ明かりの灯った場所があった。

奇跡的に、電気も水道も断絶せず残っている場所が。

 

 

鬼性獣のつけた足跡の前、奇跡的に佇んでいるアパート。

一文字の立て札がかけられた、405号室。

 

「………なーんもやってないな」

「当たり前じゃない、こんな状況よ」

「………絶対に笑えない宇宙警察見たかったな」

「当面の間は無理でしょ」

 

テレビのチャンネルを回しながら、当たり障りのない挨拶のCMとニュース、虹色の画面を何度も見る。

 

「………にしても、きったないわねぇアナタの部屋」

「うっせーよ、お前のマンション鬼性獣にブッ壊されたからアタシの部屋で忘年会やる事になったんだろうが、つーか避けろよお前のマンション」

「マンションはロボットじゃないんだから無理でしょ、常識的に考えて」

「そこはほら………なんか、あるだろ」

「無いわよ」

 

こたつを挟み、気だるい様子でそんな他愛ない会話を交わす。

 

「二人とも喧嘩しないのー!さ!年越しソバできたよ!たべよっ!」

 

そこに、朋恵がお盆に年越しソバ………とはいっても流通が滞った都合でカップ麺とうどんしか用意できてないのだが………を持って、台所から出てきた。

 

「お!待ってました!」

 

それに釣られ、先程まで暇つぶしに言い合いをしていた涼子と準も笑顔になる。

面白いテレビがやってない以上、忘年会の楽しみはこれだ。

 

 

セクサーチームが地球に帰ってきたのは、ゼーファインが撃破されてから約二日後の事だった。

 

話によると、衛生軌道上に半壊した三機のセクサーロボとCコマンダーと共に、眠った状態で漂流していたらしい。

 

ゼーファインを葬ったセクサーロボサーガの姿はどこにも無かった。

また今解っている段階では、ゼリンツ線は生殖を施したりエネルギーになる事は解っているが、セクサーロボ同士を合体させるような効果は見つかっていない。

セクサーサーガそのものが、今の科学では証明できない存在なのだろう。

 

………また、五月雨研究所について。

国家反逆罪に問われてもおかしくない五月雨博士だったが、来年の4月辺りに、剥奪された博士号が再発行され、五月雨研究所も国の公式施設として認定される事になる。

そもそも五月雨博士が表舞台から引きずり下ろされたのはスティンクホーの陰謀があったからであり、それに立ち向かった五月雨博士を称えての事らしい。

 

………もっとも、国としてはあのセクサーロボという兵器を動かすエネルギーであるゼリンツ線を、なんとかして我が物にしたいという理由からだろうが。

 

なんにせよ、五月雨博士は表舞台に返り咲く事が実現し、その協力者であるセクサーチームも罪には問われないというわけだ。

 

 

「さー食べて食べて!でもお代わりはないから味わって食べてねー!」

 

まるで母親のように、お盆に乗せた年越しソバ………という名のカップ麺、うどんを配る朋恵。

体型も手伝い、中々様になっている。

 

………来栖間朋恵。

戦後、彼女は数ヶ月の間セクサーロボのパイロットを勤めた後、退職。

その後、佐江の元で本格的に海女の仕事を始めた。

遠くに離れていた母親とも同居を始め、幸せな生活を送っているという。

 

 

「それじゃ、だん兵ちゃんをもらいましょうか」

 

カップうどんを手に取り、すする準。

安物ではあるが、今の彼女からすればどんな高級料理よりも美味だ。

 

………南原準。

後にフリーのシナリオライターとして仕事に復帰。

シャイニー☆ラブピュア以降人気が落ち込み気味だったラブピュアシリーズにも参加し、人気再燃に勤めた。

また、自信のスティンクホーとの戦いを元にした自伝「悪女(ヴィラン)の窓から」が大ヒット。

一躍、時の人となった。

 

 

「じゃあアタシはこの激辛プロテインラーメンもーらい!」

 

嬉しそうにカップ麺を取り、子供のようにはしゃぐ涼子。

激辛という選択が、彼女らしい。

 

………一文字涼子。

戦後しばらくの間、セクサーロボのパイロットを勤める。

その後、思い立ったかのように「世界を見て回りたい」と、放浪の旅に出る。

曰く「気が向いたら研究所には戻る」との事。

 

 

そして。

 

「………光」

 

自身の胸元を見つめ、涼子は微笑む。

そこには。

 

「………涼子さぁん」

 

まるで子猫か仔犬のように、涼子の胸の中にすっぽりと収まり、甘えた声をあげる光の姿。

 

「光はどれにする?」

「んーとね、これ」

 

小さなサイズのカップうどんを指差す光。

まるで、幼子のようだ。

 

「そんじゃ、冷ましてやるからな、ふーっ、ふーっ」

 

涼子に冷ましてもらい、それを食べさせてもらう姿は、もう眼前に幼児のそれだ。

その様を、準も朋恵も微笑んで見守っている。

 

………“五月雨”光。

旧名・真城光。

彼は自身の「戸籍上の家族」である真城家と縁を切り、五月雨博士の養子となった。

戦後、高校卒業と同時に、アメリカの某名門大学へと留学。

優秀な成績を残し、卒業。

その後は、養父五月雨の助手として、ゼリンツ線のさらなる研究を手伝う事となる。

………ちなみに今の甘えん坊状態は、セクサーサーガに合体した最の副作用のような物で、あと三ヶ月もあれば元に戻るらしい。

 

 

そんなこんなで、今セクサーチームは涼子の家に忘年会をしにやってきた。

年越しソバという名のインスタント麺類を、仲良くすすっている。

すると。

 

「………お?」

 

ボーン、ボーン、と遠くから風に乗って除夜の鐘の音が聞こえてくる。

なんとなくつけっぱなしにしていたテレビを見てみると、時刻は既に0:01分を過ぎていた。

 

「もう2070年かぁ」

 

真夜中の空を、窓越しに見つめる。

 

思ってみれば、2069年は色々な事があった。

 

涼子と光の出会いに始まり、五月雨博士とセクサーロボとの会合。

準、朋恵との出会い。

アメリカのスーパーロボット・ニッポリエースとも共闘した。

そして、忘れ得ぬ東京での最終決戦。

 

一年を遠し、セクサーチームの絆は固く、強くなった。

ただ一人の光を守るため、魂を燃やした一年だった。

 

「………涼子さん?」

 

その光が、今自分の胸の中で甘えている。

そう思うと、涼子は光の事がより一層いとおしく感じた。

 

「………大丈夫だ、光」

 

光の頭を、よしよしと撫でる涼子。

撫でられて目を細める光の姿は、まるで猫のよう。

 

「何があってもアタシ達がいるからな、何があっても………」

 

安心したように、涼子の乳房に甘える光。

 

「………さて、ようやく新しい一年が始まった所で」

 

唐突に、涼子が何か言い出した。

さっきのまま、安堵した光を撫でていれば、「それから彼等は幸せに暮らしました、

めでたしめでたし」と綺麗に終われるのだが、残念ながらそんな終わり方にはならない。

 

何故か?

 

その理由はただひとつ。

この作品が「セクサーロボ!」だからである。

 

「………姫初めといこうかァ!!」

「きゃー♪」 

 

ズバァと胸元を開き、肉食獣の目になった涼子が光に迫る。

いつもなら抵抗する光だが、甘えたモードなのかじゃれている子供のようになっている。

 

「あ、コラ!抜け駆けするなっ!」

「ま、まってぇ~!」

 

準も急いで服を脱ぎながら、両者の間に割って入ろうとする。

朋恵も察したのか、いそいそと服を脱いでいる。

 

「なんだよっ!もう皆で光を守ろうって決めただろ?!」

「それとこれとは話は別よ!私だって光くんと姫初めしたいんだから!」

 

絡み合う身体と身体。

もみくちゃにされる光。

子供の喧嘩のように頬を引っ張り合い身体に掴みかかる涼子と準。

 

いつもなら下の住人の事を考えなければならないが、今アパートにいるのは四人だけ。

何も容赦する必要がないのだ。

 

このまま、なし崩し的に光が三人と………する事になりかけた、その時。

 

 

ビーッ!ビーッ!

 

突如、光のイロモンGOから、ブザーが鳴った。

五月雨博士からの緊急連絡の知らせだ。

 

「あ、まって、まって皆さん」

 

自身を取り合う三人を一旦制止し、光はイロモンGOからの通信に出る。

 

「もしもし?」

『新年早々悪いが、緊急事態だ!』

 

通信の向こうにいる五月雨は、酷く慌てている。

もうスティンクホーの驚異は去ったというのに。

 

「どうしたんです?五月雨博士」

『アメリカの宇宙ステーションが、正体不明の勢力からの攻撃を受けている!セクサーロボ、出動だ!』

 

それを聞いた、光は一度イロモンGOを下ろすと、

これから姫初めを始めようとしていた涼子達の方を向き、申し訳なさそうに笑った。

 

「………セクサーロボ、新年早々出動だそうです」

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

五月雨研究所。

もはや隠れる必要もなくなったそこは、カモフラージュ・シールドを解き、その雄大な姿を晒している。

 

「いいか!その謎の勢力をとっととぶちのめし、とっとと帰って光と姫初めだ!」

 

サーバル号のコックピットの中で、姫初めを妨害された涼子は苛立ちを隠せないでいた。

 

「いい事考えたわ、その謎の勢力を一番多くぶちのめした人が最初に光くんとするってのはどう?」

 

オウル号のコックピットにて、冷静そうに振る舞う準。

しかし、その身体から放たれる炎のようなオーラと威圧感までは隠せていない。

 

「ふみゃーっ!それだったら頑張るよぉっ!」

 

アター号の朋恵も、顔をパンパンと叩き、ふんすと気合いをいれる。

 

『カタパルト、展開完了、セクサーチーム出撃してください』

 

出撃準備が完了したという、アナウンスが響く。

涼子達の準備も、もう完了している。

 

『………涼子さん』

 

そこに入る、光からの通信。

 

『………準さん、朋恵さん』

 

準と朋恵にも。

 

どうしたのか?と言うように、モニターの向こうの光を見つめる三人。

それから少しの恥ずかしがるような沈黙を挟み、光ははにかみながら口を開いた。

 

『………これからも、よろしくお願いします』

 

一寸の曇りも戸惑いもない笑顔。

セクサーチームが守った笑顔。

 

「………ああ!」

「勿論よ」

「うん!」


涼子達も、笑顔で返答する。

そして誓う。

これからも、この笑顔を守るために戦うと。

 

「よし、サーバル号、発進準備完了!」

「オウル号、発進準備完了!」

「アター号、発進準備完了!」

「Cコマンダー、発進準備完了!」

 

三機のヒロイジェッターとCコマンダーのバーニアが火を吹き、搭載されたセクサー炉心が唸りをあげる。

 

「行くぜ皆!セクサーロボ、発進!!」

 

若い四つの命が真っ赤に燃え、四機の機影が大空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

おそらく、この少年と三人のアバズレ達の物語は、これからも続いてゆくのだろう。

彼等が愛し合う限り、セクサーロボの物語に終わりはないのだから。

 

しかし、このお話は一旦ここで終幕を迎えさせて頂く事にしよう。

彼等が再び、我々の前に姿を表すまでは。

 

 

 

セクサーロボ! おわり

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