第四十九話「最終決戦!セクサーロボ対ゼーファイン」

避難所。

鬼性獣出現による危険エリアから離れた場所にある、とある学校の体育館。

 

東京の鬼性獣から逃れた人々が、すし詰め状態に押し込まれている。

そんな中。

 

「お、おい!これ見ろよ!」

 

一人の男子高校生が叫んだ。

そこに集まってくる、彼の友人のクラスメート達。

 

「どうしたんだ?」

「こ、これ!見てみろよ!」

 

彼が持っていたのは携帯電話。

そこに写るのは、東京に設置された固定焦点カメラの映像。

そこには………。

 

「これ、あのロボットだよな!?形は違うけど………」

「あっ!」

 

そこに映っていたのは、廃墟と化した東京で、激しく斬り合う鬼性獣ゼーファインと、白きセクサーサーガ。

 

「あのロボットが戦ってるんだ………」

 

彼等は、かつて鬼性獣の攻撃から助けられた、健善学園の男子生徒達。

あの時自分達を助けてくれたように、ゼーファインに立ち向かうセクサーロボ。

避難生活の中消えかかっていた希望に、僅かな光が灯った。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「うおおお!」

『おのれぇぇ!!』

 

リスカタールを展開したセクサーサーガが、ゼーファインの爪と何度も斬り結ぶ。

何度も刃がぶつかり、その度にガキンガキンと鉄の音が鳴る。

 

『この!』

 

次に降り下ろされたリスカタールを避け、翼を広げ空に舞い上がるゼーファイン。

 

『消し炭になれェ!』

 

発光体からの火炎弾が、空中からセクサーサーガを狙う。

 

「ミサイルヘイル!」

 

朋恵の叫びと共に、セクサーサーガの肩が開き、撃ち出されるミサイルの霰。

双方がぶつかり、相殺されると共に広がる爆煙。

 

「バイパーウィップ!」

 

瞬間、準の声と共に爆煙の中から伸びるバイパーウィップ。

ゼーファイン向けて真っ直ぐ飛んだそれは、蛇のようにゼーファインの腕に巻き付く。

 

「もらったァ!」

 

そしてバイパーウィップの巻き取りを利用し、爆煙の向こうから、リスカタールを展開したセクサーサーガが距離を詰めにかかる。

 

勢いに乗り、リスカタールの一撃が降り下ろされる。

 

『ナメた真似を!』

 

だがゼーファインは、その強靭な腕でリスカタールを受け止める。

そして、リスカタールをグシャアと握りつぶし、砕く。

そしてバイパーウィップを巻き付けた事により身動きの取れないセクサーサーガに対し。

 

『セクサービィィーーム!』

 

顔の穴から、至近距離のセクサービームを仕掛けた。

Cコマンダーこそ失ったが、ゼーファイン内に貯蔵されたゼリンツ線はまだ尽きていない。

 

「うおっ?!」

 

セクサーサーガは、体勢を上に反らす事でそれを回避。

間一髪の出来事だった。

 

「このおっ!!」

 

巻き付いていたバイパーウィップを巻き戻すと、今度はその腕でゼーファインに掴みかかる。

 

『ふん!』

 

それに対し、ゼーファインも掴み返す。

両者の腕が組み合い、空中で押し合う。

プロレスの力比べのような状況。

 

ゼーファインの顔の穴に、再び淡い桃色の光が灯る。

今度は、先程のような緊急回避もままならぬ。

 

ならば。

 

『セクサービィィーーム!』

「セクサービィィーーム!」

 

今度は、セクサーサーガも額からセクサービームを放った。

ゼロ距離でのビームの撃ち合い。

桃色の閃光が一面に弾け飛び、辺りの物を粉砕する。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「裕子さん!これって………」

「間違いないわ、あの時のロボットよ」

 

所は変わり、別の避難所。

ここでも、テレビで中継されている焦点固定カメラに映るセクサーサーガとゼーファインの死闘を、人混みに紛れて見守る二人がいた。

 

準の幼馴染みの、音無裕子と北斗貞一。

 

「………あのロボット、きっと僕達を守るために戦ってるんだ」

「私達を守るために?」

「あの時だって、僕達を助けてくれた………きっとそうだよ」

 

かつて彼等も、セクサーロボに窮地を救われた。

だから解る。

侵略者に立ち向かうセクサーロボが、自分達の味方だと。

 

現にゼーファインに立ち向かうセクサーサーガの姿は、確かに避難所の人々の心に勇気と希望を甦らせていた。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「ぐうう………はぁぁっ!」

 

瞬間、撃ち合っていたセクサービームが爆発を起こし、セクサーサーガとゼーファインは互いに弾き飛ばされる。

 

『このォ!』

 

再び、ゼーファインが発光体からの火炎弾で弾幕を張る。

今度は、全身の発光体から発した、空を覆い尽くすミサイルの雨霰のような規模だ。

 

流石に、ミサイルヘイルでは太刀打ちし切れない。

 

「ちいっ!」

 

翼を羽ばたかせ、セクサーサーガは回避行動を取る。

それを追尾する火炎弾は、それを追いきれずに互いにぶつかり合い、消滅する。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

鬼性獣から逃れ、避難所に逃げ延びた人々。

だが、全ての人が安全と安心を手に入れたかというと、そうではない。

 

「へへへ、姉ちゃんよ、俺達とイイコトしようぜぇ?」

 

恐らく女子高生ぐらいの少女二人を、厳つい格好をしたあからさまに悪い人間に囲まれている。

このように治安の悪い場所では、このように悪い人間が幅を効かせている。

 

「やめてください!け、警察呼びますよ」

「警察ぅ?ギャハハ!この非常時に警察なんか来るわけねーだろ!」

 

男が笑いながら少女に近づき、服に手をかけようとした。

その時。

 

 「おい」

 

突然、背後から呼び止められた。

誰だと思い振り返ろうとすると。

 

「誰だ………あぐぇぶっ!?」

 

誰だよと言うより早く、男の頬に拳が飛んだ。

唖然とする少女と他の男達の前で、殴られた男はそのまま天を舞い、背後にあった避難所の体育館の壁に叩きつけられた。

 

「この非常時に………男を下げるような事してんじゃねぇッッ!!」

 

目を見開き、眼前の不埒な連中に一喝を飛ばす男、否「漢(おとこ)」。

春日次狼だ。

 

「ふざけやがって!」

「邪魔すんじゃねえよ!」

 

殴られた男の取り巻き達が、逆上してナイフを構え、次狼向けて突進する。

対する次狼は素手。

勝てるわけがない………と、思われたが。

 

「食らえ………漢(おとこ)の一撃!」

 

向かってきた男達を回し蹴りの一撃で蹴り飛ばす。

まるでアクション映画のように、次狼は襲ってきた男達を叩きのめした。

 

「この!覚えてろよ!?」

 

お決まりの捨て台詞を残し、男達はそそくさと退散してゆく。

その場に、唖然とする少女達と共に残された次狼は、やれやれというように手をパンパンと叩く 。

 

「おい、この人達を中まで送ってやれ」

「はい!」

 

共に来ていた舎弟に、少女達をエスコートさせる次狼。

自分も体育館の中に向かおうとした次狼だったが、突然足を止めた。

 

「………兄貴?」

 

次狼は、遠い空を見つめていた。

遥か遠く、東京の方角を。

 

激しい戦闘が繰り広げられているらしく、ここからでも花火のように光る空が見える。

 

「………行くか」

「はい」

 

そこで戦っている「彼女達」に一礼するように、帽子を深く被る。

そして、次狼も舎弟や少女達に続き、体育館の中へと去っていった。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

再び、戦いは空中戦に移る。

ゼーファインから放たれる無数の火炎弾を、戦闘機のドッグファイトのように避けてゆくセクサーサーガ。

だが。


「ぐっ?!」

 

油断していたのか、火炎弾の一つがセクサーサーガに直撃。

バランスを崩した。

 

『貰ったァ!』

 

爪を構え、翼を広げたゼーファインが迫る。

 

「何をッ!」

 

対し、再びリスカタールを構えたセクサーサーガが、迫るゼーファインに向けてその刃を叩きつける。

 

両者の刃が空中でぶつかり合う。

飛び交うビームと、散る火花。

東京の夜空を染めて、両者の戦いは続く………

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

大道市。

海水浴場の大道ビーチは、既に冬という事もあり、酷く閑散としている。

 

その近く。

とある民家にて。

 

「母さん、どうしたの?」

 

二十代後半ほどの女が、夜中だというのにテレビを見ていた母親に声をかけた。

いつもなら、海女の仕事の為に早いうちに寝てしまうのに。

 

「これ、これ」

「これって何よ」

 

母親がテレビを指差す姿を前に、女が母親の隣に座る。

母親と彼女が見つめるテレビに映っていたもの。

それは。

 

「………前に海に出たロボットだ」

 

数ヶ月前に、大道ビーチに現れて戦った、謎の巨大ロボット………セクサーサーガ。

それが、廃墟と化した東京を舞台に黒い怪物=ゼーファインと死闘を繰り広げる光景。

 

「………なんとなくだけど、あのロボット、私達を守るために戦ってるって感じがする」

 

そう呟いた母親………佐江は、テレビの側に置いてある、朋恵がいた時に撮った記念写真を見ながら、そう呟いた。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

セクサーサーガと距離を置いたゼーファイン。

翼を大きく広げ、全身の発光体からエネルギーを放出し、己が拳に集中し始める。

持てる全エネルギーを結集し、セクサーサーガに最後の攻撃をかけるつもりだ。

 

対するセクサーサーガも翼を大きく広げて、ゼリンツ線エネルギーを拳に集中する。

その拳が、桃色の光を待とう。

 

西部劇の決闘がごとく、エネルギーを貯めて互いに睨み合う。

この一撃で、全てが決まる。

 

『ぐおおおおお!!』

 

爪に結集したエネルギーを槍のように変質させ、突撃するゼーファイン。

 

「うおおおおお!!」

 

拳のエネルギーを渦巻かせ、突撃するセクサーサーガ。

 

大空を走る、二つの閃光。

夜の闇を切り裂き、二つの光が激突する。

飛び散る火花。

押し合うエネルギー。

ぶつかり合う二体は、廃墟と化した東京に更に衝撃波によるクレーターを産み出した。

 

拮抗しあう二つの光。

互角のように見えたが、決着は思いの外早くついた。

 

「ぐう………おおおおお!!」

 

涼子の方向と共に、セクサーサーガの拳が、ゼーファインの爪を砕いたのだ。

セクサーサーガの拳に集中していたエネルギーは、そのままゼーファインのボディに襲いかかった。

 

『がァ亜アアああああ?!』

 

女帝の断末魔と共に、ゼーファインはセクサーサーガと共に空へと押し上げられる。

より高く、高く、高く。

轟音を立てて、二つの光が空の彼方へと消えてゆく。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「ゼリンツ線指数、測定不能!」

「精神感応、予測域を遥かに越えてます!」

「鬼性獣とセクサーロボ急上昇、追尾できません!」

 

五月雨研究所は、最終決戦の最中だという事を忘れ、眼前の超常現象に皆慌てていた。

セクサーロボ同士が融合したかと思うと、予測値など遥かに越えた力で、鬼性獣=ゼーファイン共々空の彼方へと消えていっだから。

 

「現在、セクサーロボが何処にいるか解るか?」

「現在捜索中………」

 

額に汗を浮かべた五月雨からの問いに、若い研究員がキーボードを叩き、場所を割り出す。

その場所とは。

 

「………衛生軌道上」

「何だと?」

「………地球外です」

 

あのセクサーロボは、ロケット等の補助も無しに、しかも秒単位の短時間で、宇宙に飛び出した。

非現実すぎる現象に、司令室は静まり返った。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

気がつけば、女帝は自分が宇宙空間に放り出された事に気付いた。

ゼーファインの腹には大きな穴が開き、両手は砕け、翼はひしゃげていた。

最終兵器として、女帝の肉体として作られたはずのゼーファインが。

 

『………何故だ』

 

眼前にいる無傷のセクサーサーガを前に、女帝は怨嗟の声を漏らす。

 

『………私は、間違っていなかったはず』

 

女帝は嘆く。

自分達は正しいことをしていたハズだと。

滅びの道を行く人類を、導けたのは自分だけだと。

 

『それが何故………たった四人の人間ごときに………!』

 

何十年かけて準備を進めていた。

データを取り、分析し、各地に拠点を建造した。

完璧なはずだった。

 

だが、眼前のセクサーチームはたった四人でそれを叩き潰した。

どう計算しても起こるはずのない結果に、女帝の思考は追い付けないでいた。

 

 

「………いつから、敵がアタシらだけだと錯覚していた?」

 

 

狼狽える女帝に、セクサーサーガから涼子の声が投げられた。

 

「な、何を言って………」

 

何を言ってるのか。

そう返そうとした時、女帝はセクサーサーガの背後から日光の光が現れる姿を見た。

地球を背景に立つ、セクサーサーガの勇姿を見た。

 

そして、女帝は見た。

 

この地球の、ゼリンツ線により育まれた命の惑星の姿。

 

今この瞬間にも、互いに愛し合う者達がいる。

海で、陸で、街中で。

人種も性別も越え、互いに愛し合い、守りあう。

それらがいくつも積み重なって出来た、無数の命。

 

 

「………ようやく理解したか?これがテメェが喧嘩を売った相手だ、テメェが否定した、生命の、愛し合う心だ」

 

  

セクサーサーガの胸が開く。

揺れる豊かな乳房と共に解き放たれたのは、高濃度のゼリンツ線を産み出す、四つのセクサー炉心。

生命を育む、神秘の光。

 

「この地球は」

 

朋恵が。

 

「アンタごときに」

 

準が。

 

「そう簡単にゃあ」

 

涼子が。

 

「………渡さない!」

 

そして、光。

 

四人の力でゼリンツ線が唸り、輝く。

この地球の意思を代弁するかごとく、それは、どこまでも強大に膨らむ。

 

『あ………ああ亜アアああ………』

 

恐怖と驚きの感情を露にする女帝の前で、それはどこまでも大きく、力強く増大してゆく。

そして。

 

 

「「「「セクサーバースト・ハイオメガ!!!!」」」」

 

 

ズオ!

 

解き放たれる、破壊の奔流。

命を育み、満たした生命の光が、

その営みを否定した者へ「死」として襲いかかる。

 

もはや、女帝には何を言う事もできなかった。

襲いくる閃光の嵐の中で、ゼリンツ線のほんの少しの暖かさを感じながら、己の死を受け入れた。

魂をも焼き尽くすであろう光の中に、ただ、その意識は溶けてゆく。

 

光が、宇宙に広がってゆく。

 

 

………それは、地上からは巨大な尾を引く彗星のように見えたという。

 

地球を支配せんとした悪の魂を遠くへ追いやるように、その光は十秒をかけてゆっくりと東京の空を走り、やがて消滅した。

 

そして、彼女等は。

 

この光を産み出した、セクサーチームは。

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