第四十七話「逆襲の最終鬼性獣」

そこは、鬼性獣により破壊し尽くされた東京で、唯一その形を保っていた。

 

王慢タワー。

莫大な予算と人員を注ぎ込んで出来た、王慢党の象徴。

単なる高給高層ビルなのだが、鬼性獣ひしめく東京に、その鬼性獣に守られるように鎮座するその姿は、まるで魔王の城だ。

 

「見えた!」

 

その姿を最初に捉えたのは、鬼性獣を蹴散らして進む、涼子達セクサーチーム。

王慢タワーまであと数キロといった所に現れた三機のセクサーロボ。

 

後方でラッキースター小隊やニッポリエースチームが頑張っているからか、追ってくる鬼性獣もいない。

それらの対応に追われているからか、王慢タワーの周りには鬼性獣も見当たらない。

 

「あそこに光が………!」

「気を付けなさい涼子、罠があるかも知れないわよ」

 

三機のセクサーロボが王慢タワーの前に降り立とうとした。

その時である。

 

『………何故、戦うのですか?』

「?!」

 

突如聞こえた謎の声。

そして三機のセクサーロボに、地面から延びた赤いエネルギー体が触手のように巻き付き、その自由を奪う。

 

「な、何だよコレ?!離せ!」

 

涼子がいくらレバーを引くも、エネルギー体は強く巻き付いており、セクサーギャルは少しも動けない。

セクサーヴィランやセクサースイマーも、同じ状態だ。

 

『何故、そこまでして戦うのですか?』

「こいつ、頭に直接………?!」

 

再度、声が聞こえた。

スピーカーが拾っている訳でも、外から呼び掛けられている訳でもない。

テレパシーのように、セクサーチームの脳に直接呼び掛けているのだ。

 

『戦っても、意味など無いというのに………』

 

そして、そんな芸当が出来る者と言えば。

 

「てめぇ、スティンクホーか!」

 

置かれた状況から、涼子は声の主がスティンクホーだと判断した。

きっと、スティンクホーの親玉だとも思っていた。

 

声の主………女帝は何も答えなかった。

だが、正解だと言うように、今度はセクサーチームの脳により強い思念を送る。

 

「う、うお!」

「何!?」

「はわわ?!」

 

三人の脳に、強力な思念が雪崩れ込む。

たちまち、三人は情報の嵐に飲み込まれ、意識を揺さぶられる。

眼前に映る風景が、じわじわと変化してゆく。

セクサーロボのシートの感覚も無くなり、身体が宙に浮く。

 

そして。

 

そして。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

………気がつけば、三人は星空の中にいた。

宇宙空間に浮いていたのだ。

 

「ここは………?!」

「う、宇宙!?」

 

突然の出来事に、セクサーチームは状況が飲み込めずキョロキョロと辺りを見回す。

先程までセクサーロボのコックピットに居たのに、気が付けば宇宙空間のような場所に放り出されていたのだ。

まるで、VR式のプラネタリウムのように。

 

『………我々が産まれたのは、この宇宙の片隅』

 

再び響く女帝の声。

それに合わせて、宇宙空間に浮かぶ一つの星が現れる。

 

『………惑星ムアナザ、ここが、我々の故郷』

 

その惑星・ムアナザは、地球に酷似していた。

人間によく似た知的生命体が、人間によく似た生活を送っていた。

ただ文明レベルはこちらより高いらしく、人間の科学では説明がつかぬような建造物や乗り物が存在していた。

 

『………ムアナザは平和な星だった、あの時までは』

 

ある日、別の惑星がムアナザに戦争を仕掛けた。

相手は、ムアナザ人より大きな好戦的な種族だった。

 

惑星間の戦争は、何百年も続いた。

そして両軍は疲弊と焦燥の果てに、最後の手段に打って出た。

 

互いの星に、惑星破壊兵器を撃ち込んだのだ。

そして、

 

『それが、惑星ムアナザの最後だった』

 

惑星ムアナザは滅びた。

地殻に撃ち込まれた惑星破壊兵器により、まるで皮を剥く果実のように、地殻を抉られて破滅した。

 

戦争の果てに二つの惑星は滅亡し、残った両惑星の軍隊も互いに潰し合い、消えていった。

 

残ったのは惑星と機動兵器の残骸。

そして、ムアナザ人が産み出した、彼等に奉仕する人工生命。

 

『我々は悔やんだ、何故戦争が起きたのか、何故ムアナザは滅ばなければならなかったのか』

 

主が滅びたのは何故か。

宇宙をさ迷いながらその人工生命は思考を重ねた。

そして、ある結論に至った。

 

『我々は確信した、我々が宇宙を正しい方向に導かねばならないと、我々が宇宙を救う救世主にならなければならないと』

 

長い長い宇宙の旅の中で、彼等は肉体を失い、脳細胞だけのアメーバへと姿を変えた。

 

他種族を正しい方向に導くため、他種族に寄生・同化するよう進化した。

 

身を守り、自分達を拒む者達と戦うための肉体を………鬼性獣を作る技術を手に入れた。

 

そして進化の代償として、本来なら生物に繁殖と進化を与えるゼリンツ線は、彼女等の弱点となった。

 

「………それがテメェらスティンクホーって訳か」

 

眼前の宇宙空間を睨む涼子。

それに答えるように、宇宙空間に現れる光るヒトガタ。

女帝だ。

 

『我々が居なければ、貴女方は間違った道に進んでしまう………現に、ゼリンツ線の耐性を身につけ、我々を拒んだ貴女方は間違った道に進もうとしている』

「アタシ達が間違ってるだって!?どういう事だ?!」

 

女帝は哀れみと慈しみを込めた優しい声で話すが、それは逆に涼子の神経を逆撫でしてしまっている。

怒る涼子に対し、「愚かな」とため息をつくように間を置き、再び女帝の声が宇宙に響く。

 

『貴女方が我々の造り出したゼリンツ線収集装置………真城光に恋をした時点で、それははっきりと解ります』

「はぁ?!」

 

淡々と言う女帝に対し、涼子は一層怒りを露にする。

当然だ、自分を含むセクサーチームの光への想いを「間違いだ」と断言したのだから。

準と朋恵も、反発の意を込めて女帝を睨んだ。

 

『………産み出した私からしても、あんな物の何処がいいのか?冷静に考えてみなさい』

 

直接生んだわけではないからか、女帝の口調は冷たく、まるで落第者を淡々と言う審査員のようだ。

 

『貴女方を全線に立たせ、役立たずのくせに性欲だけは一丁前のクズ………それがこうも好意を寄せられていいのですか?貴女方はそんな奴のハーレム要員になるのが望みなのですか?違うでしょう』

 

女帝の言う事は何も間違っていない。

光は涼子達より遥かに弱く、戦闘もセクサーチームに完全に任せている。

そんな男と恋をして幸せになるなど、あるわけがない。

歴史を見ても、それは証明されている。

 

『全て、ゼリンツ線の影響によって発生したまやかしなのです、貴女方はもっと幸せになる権利がある、その為にも我々が導いて………』

 

 

 

「うざってえよ」

 

 

 

女帝の言葉を遮り、涼子が言った。

唸るように、怒りを込めて。

 

「第三者がテキトーに言ってんじゃねえよ、このスライム野郎」

『スラ………?!』

 

女帝の口調に、若干の戸惑いと怒りが籠る。

涼子は、お構い無しに女帝を睨み、感情をぶつけた。

 

「いいか!?アタシ達は自分達の意思でここに来たんだ!テメェの言う役立たずのクズを助けたくて!テメェの言うそんな奴のハーレム要員になりたくてここに来たんだよ!!」

 

涼子が叫ぶごとに、女帝によって展開している宇宙空間にヒビが入る。

涼子の意識が、ゼリンツ線の力を受けて増幅しているのだ。

 

「導くとかほざいて、自分達の意見を押し付けて侵略を繰り返したスライム野郎が!勝手にアタシ等の幸せを決めつけてんじゃねえーーーーッ!!」

 

宇宙を揺るがす、涼子の咆哮!

恐れおののく女帝と、砕け散る宇宙空間。

そして。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

セクサーギャルの瞳が輝き、胸のクリスタルシリコンが桃色に光る。

ゼリンツ線が増幅され、セクサーギャルに力を与えているのだ。

 

「準!朋恵!気合いいれろ!」

 

幻覚から目を覚ました涼子が、準と朋恵に呼び掛ける。

 

「ここでくたばっちまったら、もう二度と光には会えねーんだぞ?!いいのか!!」

 

吠える涼子。

そして。

 

「ううう………うわああっ!!」

「みーくんッ………たりゃあああ!!」

 

二人の咆哮と共に、セクサーヴィランとセクサースイマーのボディから増大したゼリンツ線が溢れ出し、拘束していたエネルギー体を引きちる。

 

三体のセクサーロボを縛るものは無くなった。

 

『お………ノレエ!』

 

瞬間、王慢タワーから土煙が上がる。

涼子達は何もしていないのに、タワーの崩壊が始まったのだ。

 

そして、タワーの真下。

まるで地獄から這い出る悪魔のように、一体の巨影が現れた。

 

『………なるほど、あくまで我々を拒むか』

 

先程までの聖母のような口調とは違う、怒りと憎しみの籠った女帝のテレパシーが響く。

 

「な、なんだありゃあ………!?」

 

その巨影を前に、思わず涼子が漏らした。

 

第一に、その大きさ。

200mはあるだろうか。

三機のセクサーロボが、まるで幼子に見えるほどの大きさだ。

 

第二に、その姿。

地球の生物なら目と口があるべき頭部にはぽっかりと大きな穴が空き、その両サイドから赤く点滅する発光体が触覚のように伸びている。

古い映画のエイリアンを思わせるシルエットの、各部に発光体のついた黒いボディ。

そこに悪魔を思わせる翼を広げたその姿は、太古の神話に語り継がれる邪神を思わせる。

 

『ならば、圧倒的な力で叩き伏せてやろう、十年に及ぶ時間をかけて組み上げた究極の鬼性獣………』

 

発光体が輝き、翼が大きく開く。

 

『我が肉体!最終鬼性獣………「ゼーファイン」が!』

 

邪神が。スティンクホーの最後の切り札が。

究極の鬼性獣「ゼーファイン」の顔の穴から放たれる閃光。

それは。

 

『セクサービィィーム!!』

「何だと!?」

 

間一髪で回避した三機のセクサーロボ。

だが先程まで彼女等がいた場所には、ゼーファインの攻撃により破壊された地表があった。

そして何より。

 

「ゼリンツ線反応?!」

「馬鹿な!何で鬼性獣がセクサービームを撃てるんだよ!」

 

あのビームには、ゼリンツ線の反応があった。

本来ならスティンクホーの弱点である、ゼリンツ線の。

 

「うわっ?!」

「きゃあ!」

 

疑問を解消する間もなく、ゼーファインの発光体より放たれた無数の火炎弾がセクサーチームを狙う。

 

致命傷こそ免れたが、三機はダメージを受けてしまう。

 

「くっそ、ふざけやがってぇ………ッ!」

 

空に逃れたセクサーギャルが、ゼーファイン向けて胸のハッチを開いた。

 

「セクサーバーストォォォーーッ!!」

 

セクサーギャル最大の武器。セクサーバーストが火を吹いた。

襲い来るゼリンツ線による破壊の光は、ゼーファインの頭を吹き飛ばした………

 

………はずだった。

 

「………なッ!?」

『………フフフフフ』

 

ゼーファインに、ダメージは無かった。

それだけなら良かった。

あろう事かゼーファインは、セクサーバーストを自らの顔の穴に、まるで補食するかのように吸い込んでいたのだ。

 

「セクサーバーストを、食ってやがる………!?」

 

セクサーバーストを吸収され、力なく膝をつくセクサーギャル。

その前には、絶対的な存在として立ち塞がるゼーファイン。

 

『フフフ、不思議だろうなあ?今まで我々の弱点だったはずのゼリンツ線の武器が吸収されて………』

 

ゼーファインの胸部が、まるで黒いアメーバのように蠢く。

そして、開いた胸部から現れたもの。

それは。

 

「ああっ!」

「嘘でしょ?!」

「そんな………!」

 

ショックで目を見開くセクサーチーム。

その眼前にあったのは、ゼーファインの体内に取り込まれ、開いた胸部から顔を覗かせるCコマンダー。

そして。

 

「み、光!!」

 

Cコマンダーと共に取り込まれ、虚ろな目で地表を見下ろす光の姿。

セクサーチームが助けようとしていた彼は、あろう事かその最大の敵に取り込まれていたのだ。

ゼーファインの、ゼリンツ線吸収・増幅システムとして。

 

『フフフ、ゼリンツ線吸収システムは上手く働いてくれている、ソレ以外はてんで役立たずのくせに………』

 

光を嘲る女帝に、涼子の歯軋りがギリギリと鳴る。

ゼーファイン相手にセクサーロボでは歯が立たぬ事を自覚し、押さえているのだ。

だが。

 

『こいつも馬鹿だな、無力な分際で恋などしなければ、彼女達に迷惑をかける事など無かったというのに、とんだバカ息子だ!ははは!』

 

ここまで言われたのでは、もう我慢の限界であった。

 

「黙れぇぇぇぇーーーーー!!」

 

咆哮し、セクサーギャルが迫る。

精一杯の怒りを込めたリスカタールが延び、憎きゼーファインの脳天めがけて降り下ろされる。

 

『おっと』

「うわっ!」

 

その直前、セクサーギャルのボディをゼーファインの巨大な腕がわし掴む。

Cコマンダーを引っ込めると、ゼーファインは紙屑を捨てるように、セクサーギャルをセクサースイマー向けて投げ飛ばした。

 

「がはっ!」

「きゃあ!」

 

セクサーギャルがセクサースイマーに激突。

共に体勢を崩し、背後にあった半壊したビルにズワ!と突っ込んだ。

 

「涼子!朋恵!」

 

準が気を取られた瞬間、ゼーファインはその照準をセクサーヴィランに移し、火炎弾を乱射する。

 

「まずっ………きゃあ!」


火炎弾の直撃を食らったセクサーヴィランは、そのままバランスを崩して落下。

二機と同じように、破壊されたビルに頭から突っ込んだ。

 

『………未熟、未熟だ』

 

瞬く間に三機のセクサーロボを圧倒した女帝がつぶやく。

 

『挑発に乗り、足手まといに気を取られ、その挙げ句が三機共々………』

 

ゼーファインの見下ろす先には、廃墟の中に倒れる三機のセクサーロボ。

その「無様」で「未熟」で「不完全」な様を、ゼーファインは表情のない顔で哀れんでいるようでもあった。

 

『やはり人類には導き手が必要だ、正しい道へ導く、絶対の存在が』

 

ふざけるな。

何度も涼子は、心の中で吠えた。

黙れ。

何度も準は、心の中で喚いた。

勝手を言うな。

何度も朋恵は、心の中で泣いた。

 

しかし、どれだけ想おうとも、ゼーファインはセクサーロボでも歯が立たぬ絶対的な「現実」として、彼女達のまえに立ちはだかっていた。

 

「どうすりゃいいんだ………どうすりゃ………!」

 

目の前に光がいるのに、助ける事ができない。

悔しさと怒りで、涼子の胸はいっぱいだった。

 

だがいくら考えても、この状況を打破する方法は何も浮かんでこなかった。

それほど、眼前のゼーファインは圧倒的であった。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「………本当にやるんだね、五月雨くん」

 

長年、共にスティンクホーと戦い続けてきた友人は。

毒島博士は、最終通告として問う。

今からやろうとしている事は、取り返しのつかぬ博打のような事だからだ。

 

「ああ」

 

五月雨博士は何の躊躇いもなく、首を縦に振る。

 

「今のセクサーチームを救うには、これに賭けるしかない、それに………」

 

眼前には、メインモニターの向こうでセクサーチームを圧倒するゼーファイン。

スティンクホーの総大将の姿。

 

「奴は玉将を出してきている、王手をかけるには今しかない!」

 

五月雨には確固たる意思がある。

10年に及んだスティンクホーの支配を、ここで終わらせるという意思が。

 

「これより、「メイレイン砲」を発動する!所員各員、指定の位置につけ!」

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