第四十二話「明かされた真実」

セクサーロボと、エビルセクサー。

その両者の戦いは、広大な廃工場の建造物を破壊しながら続く。

 

「ヴィランソード!」

 

両手からヴィランソードを展開し、エビルセクサーに斬りかかるセクサーヴィラン。

だが。

 

「エビルカッター!」

 

エビルセクサーのエビルカッターは、それさえも跳ね返す。

ガキンという金属音と共に、折れたヴィランソードの刀身が、地面に突き刺さった。

 

「ははは!そんな物かセクサーロボ!」

 

何度もエビルカッターを、奴隷に鞭を叩きつけるがごとく、セクサーヴィランに叩きつけるエビルセクサー。

圧倒され、そのボディは傷だらけになる。

 

今まで、何度も鬼性獣を倒してきたセクサーロボに、絶体絶命の危機が訪れていた。

機体性能も、パイロットの操縦技術も、エビルセクサーはセクサーロボを大きく上回っていた。

 

「無様に死にな!エビルビィーーム!」

 

神野が見開いた笑みを浮かべ、エビルセクサーの額から走る火線。

 

「ゆ、ユナイテッド・オフ!」

 

間一髪で、セクサーヴィランはCコマンダーとオウル号に分離。

エビルビームの回避に成功した。

 

「くそっ!セクサーギャルもダメ!セクサースイマーも、セクサーヴィランもダメ!一体あのパチモンを倒すにはどうすりゃいいんだよ?!」

 

涼子の言う通り、セクサーギャルも、セクサーヴィランも、セクサースイマーも、あのエビルセクサーには敵わなかった。

各々の自慢の武器も、全て跳ね返されてしまった。

今のセクサーロボに、エビルセクサーを打ち破る手段は無い。

 

「エビルビィーーム!」

「うお?!」

 

上空のセクサーチーム向け、地上から放たれるエビルビーム。

ギリギリで当たらない辺り、恐らく怖がらせる目的でやっているのだろう。

神野のあの下品な笑顔が見える。

 

『こちらラッキースター小隊、光くん、聞こえる?』

 

その時、Cコマンダーに入る、ラッキースター小隊からの通信。

 

『使えそうなカプセルがあった!こと10秒くらいで培養は終わる!』

「ありがとうございます!」

 

ラッキースター小隊からの通信に、光は、ぱぁっ、と明るくなる。

そして、サーバル号に向けて、今度は自分から通信を飛ばす。

 

「涼子さん!セクサーギャルに合体してください」

『光っ?!』

 

光からの通信による提案に、涼子は「何を言ってるんだ?!」というような、驚愕の表情を浮かべる。

 

セクサーギャルの性能では、支援機と合体していない状態のエビルセクサーにも劣る事は、既に実証済み。

にも関わらず、光はセクサーギャルへの合体を求めた。

 

「………それで勝てるんだな?」

 

つい先程、イケメン工場での出来事から、光に何か考えがあるのだと涼子は悟った。

 

「………はい!」

 

躊躇わず、光は答えた。

自分の言うとおりにすれば、勝てると。

 

「そうか………信じるぜ!!」

 

地上より迫るエビルビームの弾幕を掻い潜り、Cコマンダーとサーバル号が突撃する。

 

「ユナイテッド・フォーメーション!」

「チェェーーンジッ!!セクサァーーギャァァルッ!!」

 

合体しながら、セクサーギャルが上空よりエビルセクサーに迫る。

 

「エビルセクサーにギリギリまで近づいて、10%出力のセクサーバーストを撃ってください!」

「おうよ!」

 

落下により、エビルセクサーの真上に来るセクサーギャル。

そして。

 

「今です!」

「セクサーバーストぉ!」

 

逆噴射のように、落下寸前に胸のハッチを開き、幻影島でもやったような低出力セクサーバーストを放つセクサーギャル。

ゼリンツ線ビームのシャワーを浴たエビルセクサーの装甲が、ほんの少しだが抉れた。

 

「よっと!」

 

そのまま、半重力スカートで浮遊し、エビルセクサーから少し離れた場所に着地するセクサーギャル。

 

「………ふん、何をするかと思えば!」

 

奇行としか思えないセクサーギャルの行動を、嘲笑する神野。

 

「目眩ましでもしたつもり?!バカがーーっ!!」

 

だが、セクサーギャルに攻撃を仕掛けようと、レバーを倒した。

その時である。

 

「………え?」


動かなかった。

セクサーギャルに向けて前進しようとレバーを倒したのだが、エビルセクサーは微動だにしないのだ。

 

「………お、女ァ」

 

オキタが、目を見開いてよだれを垂らしていた。

 

「女!女!女!」


ソウゴも、同じように目を見開いている。

そして動物園のチンパンジーのように、コックピットの床をダンダンと叩きつける。

 

「よし、間に合った!」

「え、え?!何!?どゆこと?」

 

自分の策が成功したと確信し、ガッツポーズを取る光。

一方の涼子は、何が起こったか理解できていない。

すると。

 

『こういう事だよん』

 

サーバル号向けて、ヒナタからの通信が届く。

そして映された画面には、先程のイケメン工場らしき場所にいるラッキースター小隊。

 

そして、本来ならイケメンがいるハズの、工場の培養カプセルに入れられた二人の美女。

否、培養されたというべきか。

 

 

………光は、こう考えていた。

 

培養された人造人間とはいえ、基本は自分達普通の人間と変わらない。

 

なら、いくら調整されて神野に従ってるとはいえ、やはり若い女に欲情するのではないか?と。

 

並んで、人口問題を隠蔽できる数まで人造イケメンを製造するとすれば、自分達が見たイケメン工場以外にも工場が必要になる。

 

そこのカプセルを使い、どうにかしてあの人造イケメンの欲求を満たせるほどの美女を作り出す。

そこに、低出力のセクサーバーストによってゼリンツ線を浴びせる。

 

たちまち二人の人造イケメンは発情し、二人の技術に頼ってエビルセクサーを動かしている神野を無力化する事ができる。

 

これが、光の考えた策であった。

 

「女!女!女ぁぁーー!!」

「女ぁぁーー!女!女!」

 

美女を求め、暴れまわるオキタとソウゴ。

光の策は、どうやら上手くいったようだ。

 

「な、何なの?!言うことを聞きなさい!聞け!!」

 

狼狽える神野。

殆どの制御を二人の人造イケメンに依存していたエビルセクサーは、滅茶苦茶な挙動を取り、神野の思うように動かない。

 

「女ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

苦し紛れに二人の人造イケメンが押したスイッチ。

それは、緊急脱出用のスイッチ。

 

ドワッ!

 

瞬く間に、二人の人造イケメンの操縦席はエビルセクサーの外に射出され、パラシュートが展開する。

 

ゆっくりと地上に着地すると、人造イケメンは飢えた獣のように駆け出す。

 

「女ァァァァ!!」

「女ァァ!!」

 

直に人造イケメン達は、培養された美女を求め、廃工場の中へと消えてゆく。

その場に残された神野は、半狂乱になって叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと!なんで出ていくの?!言うこと聞きなさいよぉ!きぃぃ!!」

 

神野の怒りはもっともである。

自分に従うよう調整した人造イケメンが、自分より若く美しい培養美女に奪われたのだ。

嫉妬と怒りで、キー!とヒステリーを起こしている。

 

「キーキー叫んでんじゃねえぞ!」

 

人造イケメンを失い、まともに動けなくなったエビルセクサーを、セクサーギャルの腕が掴む。

残念ながらセクサーチームは、ヒステリーを起こした神野をそっとしておくような、紳士淑女の集まりではない。

 

「自分のイケメン逆ハーレムぶっ壊されたぐらいで喚いてんじゃねえ!こっちはテメェらに家族ブッ壊されてんだ!」

 

特に、王慢党に家族を奪われた涼子にとっては、配慮所か手加減してやる理由はどこにも無い。

唸る拳に怒りを乗せ、何度もエビルセクサーをぶん殴る。

 

「いいか!これは親父の分!これは母さんの分!これは姉貴の分!」

 

まともに動けぬエビルセクサーは、反撃もできず何度もセクサーギャルの拳を浴びせられる。

装甲にルナメタルを使用していないにしても、頑丈なエビルセクサーの装甲が、ひしゃげてゆく。

 

「今テメェが味わってるのはアタシの家族の怒りだ!アタシが一発殴ったら、アタシの家族がテメェを殴ったと思え!これも!これも!これも!!」

 

腕(マニピュレーター)が折れようと、セクサーギャルの追撃は続く。

家族を破壊したくせに、聖人を気取る神野への怒りは、こんな物では収まらない。

 

「え、エビルビィーーム!」

 

苦し紛れにエビルセクサーが放つエビルビーム。

しかし、セクサーギャルは身を屈ませて回避。

 

「リスカタールッ!」

 

折れた拳に代わり、リスカタールを展開。

胸の追加装甲向けて突き刺す。

 

ガキィン!と、リスカタールは装甲と装甲の間に突き刺さり、苦しむようにエビルセクサーの目が点滅する。

 

「どりゃああ!」

 

まるで蟹の甲羅をこじ開けるように、エビルセクサーを覆うガウェイン号の装甲を引き剥がす。

 

「まだだ!こんなモンじゃねえぞ!」

 

次にもう片方のリスカタールが展開。

今度は脚の間接が狙われた。

まるで悲鳴のようなギギギという鉄の音が響くと、エビルセクサーの右足が根本から引っこ抜かれる。

 

「次は腕だァ!!」

 

休む間もなく、今度は腕が狙われる。

これも装甲や脚と同じように、間接にリスカタールを突っ込み、栓抜きでビールの王冠を引き抜くように、根本から引き抜く。

エビルセクサーのオイルが血飛沫のように飛び、セクサーギャルの装甲を汚した。

 

「ぜぇ………ぜぇ………」

 

持てる全ての怒りを叩きつけ、肩で息をする涼子。

その眼前にあるのは、まるで猟奇殺人事件のように、ほぼ達磨にされたエビルセクサー。

 

そして最後に、エビルセクサーの頭を引っこ抜き、頭部をこじ開けてコックピットを露にする。

 

「ひ、ひ、ひ………」

 

そこには、すっかり怯えきった神野の姿。

恐怖のあまり失禁までしてしまっている。

 

「………ラッキースター小隊、神野を捕らえた、拘束を頼む」

 

このまま止めを刺すのかと思いきや、涼子の取った行動は、まさかの拘束。

 

「こ、殺さないんですか?」

 

先程の鬼気迫る涼子に驚いたのか、光は少し怯えている様子で訪ねた。

 

「………そうしてやりたいのは山々だが、こいつに酷い目に逢わされたのはアタシ一人じゃない………こいつは、裁判で皆の前で裁かれるべきだ、でないと皆の気が晴れねぇ」

 

怒りを抑えながら、涼子は言った。

今すぐにでも神野に鉄槌を下したいという感情を抑えて。

 

「………ひ、ひひひひひ!」

 

だが、それが裏目に出た。


「………何が可笑しい?テメーはもう終わりだぞ?!」

 

怒鳴りつける涼子を無視し、神野は狂ったように笑う。

 

「………まさか、ここまで成長していたとは、セクサーのパイロットになった事が逆に為になったと………ひひひ!」

 

セクサーギャルに抱えられたエビルセクサーの頭の中で、ゾンビがごとくよろよろと立ち上がる神野。

そして。

 

「………真城光ゥ!」

 

唐突に、光の名を呼ぶ。

いきなりの事に、光は無論、涼子達も驚いた。

………神野は、光とは初対面で、名前は知らないハズなのに。

 

「………可笑しいと思わないかしら?ゼリンツ線への適正があるのに、何故今まで童貞だったのか?普通なら、近くの女に好かれるハズなのに!」

 

神野の放つ一言一言は、光や彼の周りでなければ本来知り得ない事。

 

「何故周りに美女が集まるのか?!何故イケメン工場の場所が解ったのか!?何故優しいだけが取り柄のヘタレが!!セクサーロボに乗ったとたんに、まるでマンガの主人公のように!!」

 

次々と、神野は光の事を当ててゆく。

それこそ、個人レベルでしか知り得ない事まで。

 

「な、何が言いたいんですか………?!」

 

恐れから、光の顔が強張り、青くなってゆく。

何故、この女はここまで自分の事を知っているのか。

 

「………本当はもう気付いているんでしょお?」

 

そんな光の恐怖を更に煽る為か、神野は三日月のように口を吊り上げ、涎を垂らしながら冒涜的に喚く。

 

「な、何、に………」

「きひひひひ!」

 

まるで死刑宣告を恐れる罪人のように、震え、怯える光。

そんな光を嘲笑うように、神野から下される宣告。

それは………。

 


「お前は………作られたんだよ!!このイケメン工場のイケメンのように!!フラスコの子宮で生まれた人造人間なんだよお前はあーーーッ!!」


 

言った。

言い切った。

 

光の出生を。その正体を。

 

冒涜的な笑い声と、全てを見下すような口調で、光の全てを。

 

「………な、何言ってんだお前?」

 

しかし、神野の言った事は、涼子にはただの戯れ言にしか聞こえない。

そりゃそうだ、光が人造人間だと言われてた所で、突拍子が無さすぎる。

 

「つくなら、もっとマシな嘘にするんだな!なあ光」

 

が、光にとっては違った。

 

「………光?」

 

心配する涼子を他所に、光は自分の手を見てわなわなわと震え出す。

 

………考えてみれば、可笑しい事ばかりだ。

同じ家族なのに、自分だけまるで除け者のような扱いを受けている事。

 

今まで彼女すらいなかったのに、セクサーロボに乗り初めてからのハーレム状態。

 

何より、神野の言う通り、あのイケメン工場の場所を見つける事ができた事。

 

それもこれも、光がゼリンツ線を集めるために作られた人造人間だとすれば、説明もつく。

 

「う………ああ………!」

 

瞬間、セクサーギャルのコックピットに警告音が鳴り響く。

 

「な、何だ?!」

 

見れば、Cコマンダー部のセクサー炉心で生成されるゼリンツ線エネルギーが、限界値にまで上がっている。

原子炉でいう所の、メルトダウンの一歩前の状態だ。

 

「光!どうした!おい!」

 

涼子が呼び掛けるも、返答は無し。

光の脳が、感情の嵐で掻き乱される。

同時に、セクサー炉心のエネルギーも上がり、セクサーギャルの腹から桃色の光が漏れる。

 

「ああ………あ………うあああああああーーーーーーっ!!」

 

光の絶叫と共に、セクサーギャルを爆心地として広がる桃色の光の波。

 

それは、涼子の視界を埋め尽くし、光の声をもかき消す。

 

ゼリンツ線の暴発が、廃工場を飲み込むように広がった。

 

 

そして。

 

そして。

 

 

………………

 

………………………

 

 

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