第二十五話「三大鬼性獣の驚異」
研究所の彼方に見える、燃え上がる街。
破壊の旋風に見舞われる自国の都市を前に、リチャードはただ立ち尽くし、悔しさを噛み締めている。
「大統領!鬼性獣がこっちに!早く避難を!」
大統領側近の黒服が、リチャードに避難を呼び掛ける。
リチャードは大統領、ここで死なれる訳にはいかない。
だが。
「その必要はない」
「なっ………?」
「研究所が破壊されれば、我が国がスティンクホーを抑える手段は無くなる、つまりアメリカは負ける………私が死のうと、研究所が破壊されようと同じ事」
リチャードの言う通り、この研究所が破壊されれば、セクサー量産計画に関する全ては失われる。
そうなれば、今回のようにアメリカ各地に潜伏しているスティンクホーに対抗する手段も失われる。
もしここでリチャードが生き延びても、研究所が破壊されれば結果は同じ。
アメリカは、そして人類は負ける。
「………これが、世界最大の大国か」
自嘲するリチャードの前で、世界最強を唄っていたアメリカの軍事力が、一体の鬼性獣に蹴散らされてゆく。
パリピジョンが空爆を行う鬼性獣だったからだろうか?
まるで、かつての第二次大戦のツケを払わされているようだと、リチャードは感じた。
PIIIIEEEEEE!!
甲高い声で吠えるパリピジョン。
アメリカ軍の戦車や戦闘ヘリ、そしてブワッカの流れを組む軍事用ロボット「オロッガ」がそれを迎え撃つ。
しかし、放たれる弾は対人・対兵器用であり、パリピジョンの体表を破るには至らない。
PIIIIEEEEEEEE!
パリピジョンの口から何発も光弾が放たれる。
光弾は眼下の戦車やオロッガを瞬く間に破壊。
空を飛んでいた戦闘ヘリは、衝撃波により叩き落とされた。
PIッ!PIIッ!PIIEEEEEEEE!!
嬲るように自分を遮るものを破壊し、パリピジョンがついに研究所の前まで飛来した。
「危ない!」
咄嗟に、黒服がリチャードを庇う。
対するリチャードは諦めたのか、それとも反抗心を捨てていないのか、パリピジョンをキッと睨む。
PIIIII!
パリピジョンが研究所向けて光弾を放とうとした、その時。
『レッツパァリィィィィィィィィィッッ!!』
PIAAAAA?!
突如流星のごとく飛んできた蹴りが、パリピジョンをズワォ!と蹴り飛ばす。
吹き飛ぶパリピジョンと、唖然とする黒服。
そして、微笑を浮かべたリチャードの眼前で研究所の前に立つは、ニッポリエースの歪みなく気高き姿。
「どうやら、間に合ったようだな………」
間に合った事に安堵しつつ、ヒーローらしい登場ができた事にニヤリと笑うビリー。
自身とニッポリエースの睨む眼前には、まだ息のあるパリピジョンの姿。
見れば、パリピジョンの足は極端に短い。
完全な空戦&空爆用に作られているパリピジョンにとって、足は飛行機のライディングギア程の機能しかしないのだろう。
並びに翼は先程の蹴りで折れ、飛び立つ事が出来ない。
ことわざでいう「まな板の上の鯉」そんな状態だ。
PIIIII!
それでも、まだ息はあった。
夜鷹のように口を大きく開き、最大出力の光弾を研究所向けて放とうとする。
「ビリー!」
「おう!」
しかし、それをみすみす見逃すニッポリエースではない。
腰にマウントされたビームガンを引き抜き、光弾が吐き出される前にパリピジョンに対して引き金を引いた。
PIAAAA!!!
射ち出されたビームの弾丸が、パリピジョンの胸を貫く。
光弾のエネルギー充填は中断され、ビーム弾丸が胸内に格納された爆雷に引火。
ドワォ!
パリピジョンは瞬く間に大爆発を起こし、四散する。
燃え上がる夜空に、爆風で吹き飛ばされた白い羽根が舞った。
「………鬼性獣フライドチキン、いっちょ上がりだせ」
「ビリーカッコつけすぎ、ていうかあれ 鶏(チキン)じゃなくて 鳩(ピジョン)だし」
「うっさい、こういうのはノリが大事なんだよ、ノリが」
コナードの突っ込みを流すビリー。
夫夫になる以前から、長い間続けてきたやり取りだ。
「………しっかしまあ、噂の鬼性獣も大したことないな?ビームガンの一発でくたばるたぁね」
パリピジョンの残骸を前に、ビリーはすっかり上機嫌。
セクサーロボに頼らず、自分の力で鬼性獣に打ち勝った。
ゲイカップルが、ストレートの集団に劣らない事を証明できた。
ビリーのストレートに対するコンプレックスもあり、パリピジョンを撃破できた喜びはビリーにとってかなり大きいものになった。
「ベース基地聞こえるか?五月雨研究所の連中に伝えておけ!貴様らの援助などいらん、アメリカはニッポリエースが守るとな!」
調子に乗ってこんな事まで言い出す始末。
しかし、その喜びの終わりは唐突に訪れた。
「………ビリー!下だ!」
センサーに感知された機影を前に、コナードが叫んだ。
それと同時に、突如ニッポリエースの足元が盛り上がる。
「ややや?!」
咄嗟に、ニッポリエースを数歩引かせるビリー。
その眼前で、隆起した地面がアスファルトを突き破り、一体の巨影が現れる。
BAOOOOO!!
蛇のように長い首に、鞭のようにしなる長い尻尾。
それを繋ぐ身体はどっしりとして逞しく、それを支える太い四足で大地を踏み締める。
ニッポリエースの倍近く、90mをゆうに越える巨体を誇り、
その首には一定の間隔で生えた、単子葉植物の葉を思わせる突起。
BAOOOOO!
太古の竜足下目………とりわけアパトサウルスやウルトラサウルスを思わせるその巨獣。
鬼性獣「アマルジンガー」が、長い首で覗き込むように、ニッポリエースを睨み不気味に吠える。
「こいつはケッタイな………まだこんな隠し球がいやがったか!」
ニヒルに笑うビリーだが、その額には驚愕と畏怖からの油汗が伝う。
突如現れた強大な敵を前に、ビリーは平然を装いつつも、かなり焦っていた。
「ビリー、あの鬼性獣はおそらく重装甲のタイプだよ」
「何?」
「防御力が高いって事さ、おそらく、ニッポリエースの武装ではあいつの体表は貫けない………」
今現在のニッポリエースの武装は、腰にマウントしたビームガンのみ。
対鬼性獣を前提にした武装はあるのだが、未だ開発中。
「ここは、セクサーロボの応援を待とう」
コナードの提案は正しい。
今のニッポリエースに、あの鬼性獣に対抗する手段はないのだから。
しかし。
「そんな事できるか!そんな、連中に尻尾を振るような事………」
ビリーからすれば、それはセクサーチームに、自分をバカにしたストレートに媚を売れと言っているようなモノ。
納得も了承もできるはずがない。
「この野郎がああ!!」
ビリーの咆哮と共に、ニッポリエースがビームガンを放った。
パリピジョンの皮膚を破った事から、これが対鬼性獣に有効な武器であると、ビリーが判断したからだ。
ところが、何発も放たれたビームは、貫く所か、アマルジンガーの体表に弾かれている。
目立った外傷も見られない。
BUUUUM………
ビームを弾きながら、ニッポリエースを嗤うように唸るアマルジンガー。
そして、アマルジンガーの目がビカビカッ!と光った。
すると。
ズワォ!
アマルジンガーに生えた突起が勢いよく射出された。
突起は煙を噴出して弧を描き、ニッポリエース目掛けて飛来する。
「ミサイル?!」
「ちぃっ!!」
あれはミサイルだ。コナードが叫ぶ。
急ぎビリーは、ニッポリエースにもう片方のビームガンを引き抜かせ、その照準を頭上のミサイルに向ける。
「当たれよおお!!」
放たれる、無数のビームの弾丸。
幸い、ビリーは射撃の腕は超一級。
ビームは降り注いだミサイル群を一発残さず射ち貫いた。
ズワォ!
「どうだ!」
ミサイルは一発たりとも背後の研究所を襲う事はなく、ニッポリエースの前で全て爆発した。
そして、それこそがアマルジンガーの狙いであった。
BAOOOOOOO!!
ミサイルの爆煙の向こうから、アマルジンガーがその巨体をウィリーのように浮かせて突撃してきた。
ニッポリエース向けて、一直線に。
「まずい!」
今からでは、もはや避けられない。
アマルジンガーは、象のような前足で叩きつけるように、ニッポリエースにのし掛かる。
「ぐあああ!!」
「がああ!!」
アマルジンガーの巨体に押し倒され、ニッポリエースが研究所の庭園に倒れる。
ニッポリエースのボディがギシギシと軋み、コックピットには緊急事態を知らせるアラートが響く。
アマルジンガーの攻撃は、確実にニッポリエースにダメージを与えていた。
「右腕ブロックに破損!」
「クソッ!このままじゃサンドイッチだ!」
このままでは、ニッポリエースは踏み潰されて、二人もぺしゃんこだ。
『緊急通信!知事!緊急事態です!』
そこに、ニッポリエースのベース基地から入る緊急通信。
「こんな時に何だ?!」
『チャベス湾沿岸、及び西方3000ヤード上空に、時空の裂け目を確認!恐らく、スティンクホーと思われます!』
それは、研究所に続く海原と高山地帯に生じた時空の裂け目。
スティンクホーが、鬼性獣を呼び出す為に開くもの。
それが二つ。
つまり。
「鬼性獣が………一度に二体も?!」
それは、これまで例の無い事態。
一体ずつ現れていた鬼性獣が、二体同時に現れようとしていた。
………………
チャベス湾沿岸。
普段なら、美しい海の景色が楽しめる観光スポット。
しかし、今は夜間のため暗く、遠方に見えるパリピジョンが起こした空爆による火災の光が、不気味に見えている。
そこに。
どぼぉん
上空の時空の裂け目から巨大な影が落下。
海に飛び込んだ。
そして巨大な影は、海面をまるで魚雷のように突き進みながら、その姿を現した。
PALO!PALOOOOOO!!
全身をワニのような鱗で覆い、海を進むヒレの下に一対の足を持った、青く巨大なサメのような怪物。
水陸特化型の、鬼性獣「モジョーズ」が、海から頭を突き出しながら吠える。
波を掻き分け、陸を目指して真っ直ぐ泳ぐ。
目標は、遺伝子科学研究所。
………………
同じ頃、空でも異変は起きていた。
研究所の西方。星輝く夜の空を、切り裂くように飛行する一体の巨影。
GEGEEEEEN!
四肢の間に張られた幕を広げ飛ぶ様は、まるでムササビのよう。
しかし、背部には一定間隔で細いトゲが生え、顔つきは狼を思わせる狂暴な物だ。
並びに、ムササビのような滑空ではなく、幕から何か光のような物を放出している。一種の粒子推進システムだろうか。
空中戦特化型の鬼性獣「オオトモモンガ」は、パリピジョンの空爆により炎上する街を目印に、研究所向けて飛翔する。
研究所に、三体の鬼性獣が集結しようとしていた………。
………………
ベース基地から送られてきたデータで、コナードはここにモジョーズとオオトモモンガが向かっている事を知り、戦慄した。
「陸、海、空………まるで怪獣映画だね」
「ここに、連中にとって不都合なモンがあるって知ってるんだろうな、だから何としても潰したいんだろう」
研究は極秘裏にしていたのに、どこから情報が漏れた?
スパイがいたのか?
なら、それは誰だ?
BAOOOOOOO!
疑心を浮かべるビリーを前に、アマルジンガーは更に強い力でニッポリエースを踏みつける。
ミシミシギギギと機体が軋み、アラートが激しく響く。
「メインフレームに破損!各部がパワーダウンしてる!」
押し返そうにもパワーが足りない。
装甲がひしゃげる。
装甲の亀裂や関節から、出血するようにオイルが噴出する。
心なしか、ニッポリエースの表情もどこか苦しげだ。
BUUUUM!BAOOOOOOO!!
嘲るようなアマルジンガーの咆哮。
悔しいが、今のニッポリエースにはこれをはね除ける手段はない。
そして、もうすぐモジョーズとオオトモモンガが合流する。
三体の鬼性獣はニッポリエースを嬲り殺しにした後、研究所を壊滅させるだろう。
もはや、抗う手段はない。
「クソッ………クソッ!」
必死にレバーを倒すビリーの顔には、悔しさと後悔が浮かんでいた。
セクサーチームを見返す所か、この通り一方的に叩きのめされている。
プライドから相手を一方的にライバル視して啖呵を切っておきながら、ご覧の有り様だ。
誇り所か、恥さらしもいい所だ。
「ここまでか………」
最早、これまで。
このままアマルジンガーに踏み潰されるだけかと、ビリーもコナードも諦めかけた。
その時である。
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