第二十六話「友情は性癖を越えて」

ふと、ニッポリエースの索敵センサーが何かを捉えた。

こちらに接近する、一つの飛行物体。

 

「何だ?!新手か?!」

 

これ以上敵が増えるのかと狼狽えるビリーの前で、センサー上の影は、突如四つに別れた。

 

かと思うと、その内の二つが再び重なり、こちらに向かって飛んでくる。

 

「ビリー!」

「どうしたコナード!」

「向かってくるヤツから、強いゼリンツ線指数が出てるよ!」

 

コナードの報告を聞き、ビリーは再びセンサーを確認する。

合体してこちらに向かう影からは、2700ものゼリンツ線指数が出ていた。

これは、研究所の試作炉心を上回る指数。

それだけの指数を叩き出せるのは、今現在世界でただ一つ。

 

「ゼリンツ線指数2700………これほどのエネルギーを出せるとしたら………まさか?!」

 

こちらに一直線に迫る影に、ビリーとコナードが空を見上げる。

 

BUUUUM………?

 

同時に、アマルジンガーも自分に近づく「それ」に気づいたのか、空を見上げる。

 

両者の見守る前で、空を切り裂き「それ」は飛来する。

まるで流星のように、「それ」は二体に向けて一直線に迫る。

そして。

 

「セクサーキィィィーーーーック!!」

 

刹那、飛来した強大な蹴りの一撃が、アマルジンガーに突き刺さり、吹き飛ばす。

 

BAOOOOOOO?!

 

倒れるアマルジンガーと、傷ついたニッポリエースを守るように降り立つ巨影。

 

モニター越しにその姿を見たビリーとコナード。

彼等の前に現れたのは………。

 

「………セクサーロボ!」

 

その黒き巨体。

逞しくも女性的なシルエット。

間違いない、そこにいるのはかのセクサーギャルだ。

 

「待たせたなカウボーイさん!ここはアタシらに任せとけ!」

 

涼子がレバーを倒し、巨体故に起き上がれぬアマルジンガー向けてセクサーギャルが突撃する。

 

BUUUUM!

 

しかし、アマルジンガーは長い首だけを起き上がらせ、セクサーギャルを睨む。

間違いない、ミサイルを撃つつもりだ。

 

アマルジンガーの目が再びビカビカッと輝いた、その時だ。

 

「当たるかよ!そりゃあーっ!」

 

アマルジンガーの目の光が当たる直前、セクサーギャルは空に舞い上がった。

 

アマルジンガーの眼光………攻撃目標を定めるポインターは、セクサーギャルが居た場所を空しく切る。


そして、その先には。

 

BUMッッ?!

 

そこにあったのは太陽光発電の為のパネル。

光はパネルに反射され、自分に当たった。

 

しまった!と言うように唸ったアマルジンガーだが、時は既に遅し。

ポインターにより自分をターゲットに定められたミサイルが首元から発射された。

 

ズワォォッ!

BAOOOOOOO?!

 

自分のミサイルの総攻撃を浴び、苦悶の叫びをあげるアマルジンガー。

だが、これだけでは終わらない。

 

「食らいやがれ!リスカタァーールッ!!」

 

リスカタールを展開したセクサーギャルが迫り、アマルジンガーに向け、一刃!

 

ずばぁ、

 

とアマルジンガーは縦に真っ二つに割れた。

その前にセクサーギャルが降り立つと、限界を迎えたアマルジンガーの身体は、ドワォ!と轟音をたてて爆発を起こす。

 

「へっ、どんなもんだ!」

 

得意気な涼子と、爆炎をバックに雄々しく立つセクサーギャル。

まるで、中世の絵画に描かれた革命の乙女のようだ。

 

「………ありがとう、助かったよ」

「なーに、良いって事よ!」

 

ヨロヨロしながら歩いてくるニッポリエース。

コナードは素直に礼を言うが、ビリーは何も言わない。

あんな事を言った手前、言いにくいのだろう。

 

「でも、ここまでどうやって?飛行機でもかなりかかるのに」

「ああ、それだけど………」

 

涼子が通信機を操作し、ニッポリエースのコックピットにある物を投影した。

そこは、セクサーロボのサブコックピット。Cコマンダーのコックピット部位。

そこに映っていたのは………。

 

「………げっ!?」

「やややっ?!」

 

その光景を前に、ビリーとコナードは震え上がった。

 

そこに居たのは、栄養材に繋がる何本もの管を口に突っ込まれ、防護服のような物に包まれ、コックピットに欲望を刺激するお香を煙たいほどに焚かれた光の姿であった。

 

まるで延命処置を受けている瀕死の病人を思わせるその姿は、ビリーとコナードを震え上がらせた。

特にビリーは、前日に似たような光景が出てくるホラー映画を見ていたから、余計に。

 

「………あ、僕は平気なんでご心配なく~」

 

ひらひらと笑顔で手を振り、問題ない事をアピールする光。

だが、余計に不気味というか、シュールに見えてしまう。

 

 

………光の提案した「良い考え」。

それは、セクサーロボの合体システムを応用したもの。

 

Cコマンダーには万が一に備え、ヒロイジェッターにゼリンツ線エネルギーを供給するための接続ソケットが存在している。

 

合計三つあるそれ全てに、三機のヒロイジェッター全てを繋ぐ事で、擬似的な合体状態を作り出す。

 

それで増幅したエネルギーを推進システムに回す事で、爆発的な推進力を獲得。

日本からアメリカ大陸までの、短期による移動を可能にした。

 

しかし、その分光は強いゼリンツ線に晒され、凄まじい負荷がかかってしまう。

その為、光はこのようなホラーチックな姿でそれに耐えている、という訳だ。

 

 

「話は後だ、鬼性獣が来てるんだろ?」

 

涼子の言う通り、今研究所に向けて二体の鬼性獣が迫っている。

話している時間はない。

 

「アタシらは海から来る奴をやる!あんたらは空の奴を頼む!」

「おう!任せた!!」

 

セクサーギャルはモジョーズに。

ニッポリエースはオオトモモンガに。

 

二機のスーパーロボットが、其々の敵に向けて翔る。

 

その様子を、遺伝子科学研究所で見守るリチャード大統領。

彼の瞳には、かつて彼が従軍していた時アメリカを守るために戦った戦友達と、二機のスーパーロボットが被って見えた。

 

「頼むぞ、スーパーロボット!」

 

スティンクホーという新たな敵に立ち向かう二大ヒーローに、リチャードはエールを送る。

心なしか、二機の傷だらけのボディが、輝いて見えた。

 

 

 

………………

 

 

 

空から迫るオオトモモンガ。

迎え撃つは。

 

「見つけたぜムササビ野郎!!」

 

地上から、二丁のビームガンを構え狙う、ニッポリエース。

気分はまさに、西部劇の保安官。

 

「喰らいな!奥義ピーコックバースト!」

 

そう言って、ビリーはニッポリエースの構えた二丁ビームガンを空に向け、何度も引き金を引く。

 

一見するとただの乱れ撃ちに見えるが、実はそうではない。

コナードがオオトモモンガの行動・回避パターンを計算・予想し、それに基づいた場所にビリーが弾丸を撃ち込む。

 

この計算から出力までにかかる時間は、僅か0.62秒。


ビームの軌跡がまるでクジャクが羽根を広げたように見える為に「ピーコックバースト」の名が付けられたこの技は、ビリーとコナードの息が完全に合ってこそ可能なもの。

これぞ、愛の成せる技である。

 

GEEEN………!

 

しかし、やはりビームガンでは火力が足りないか。

殆ど命中しているにも関わらず、オオトモモンガに目立った外傷は見られない。

膜の光派推進システムによりビームを弾いているというのもあるだろう。

 

しかし、地上からの無数のビームに警戒しているのか、回避しようと飛び回っている。

 

これこそが、ビリー達の狙いであった。

 

GEGUUU………

 

絶え間ない回避運動の疲労からか、オオトモモンガの動きが、少し。

ほんの少しであるが鈍った。

 

「今だよ!」

「おう!」

 

ニッポリエースが右手のビームガンを捨て、その拳を天に向けて掲げる。

上腕からバーニアが展開し、回転しながらジェット噴射を噴く。

ニッポリエースの文字通りの隠し腕にして、スーパーロボット物の代名詞。

 

その名を。

 

その名を。

 

その名を!

 

「スピンロケットパァァーーンチ!!」

 

掘削ドリルのように高速回転しながら、弾道ミサイルがごとく放たれる正義の鉄拳。

 

正式名称を「腕部内蔵型掘削式質量弾」と名付けられたそれは「何発撃っても無くならず、いかなる装甲も撃ち貫く弾丸」というコンセプトで開発された。

行き着いたのが、ロボットの腕自体を回転させ戻ってくる質量弾として飛ばすという荒唐無稽な物であった。

 

しかし、その威力事態は折り紙つき。

 

撃ち出された拳は、オオトモモンガが撃ち落とそうと放ったビームを弾きながら飛行し、オオトモモンガに向けて迫る。

 

最早、回避は間に合わぬ。

 

GEGEEEEEEEN?!

 

ズシャア!と、回転する拳はオオトモモンガの身体を抉り貫く。

 

ドワッ!

 

断末魔の叫びと共に、オオトモモンガは真っ二つに割け、内部エネルギーの暴走により爆発四散。

 

地表に落下する、炎上するオオトモモンガの残骸を背に、ニッポリエースは戻ってきた右手を装着。

 

「どうだ、これがニッポリエースと!」

「僕達二人の力だ!」

 

爆風に揺れるアメリカ国旗を前に、まるでヒーローのように佇ずむニッポリエース。

新日暮里州の希望のエース、ここにあり。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

チャベス湾港の船を押し退け、上陸を試みるモジョーズ。

そこに急ぐ、セクサーギャルと二機のヒロイジェッター。

 

「相手は海戦タイプ、朋恵!バトンタッチだ!」

「ほいさ!」

 

後を任された朋恵が、アター号を前にやる。

 

「ユナイテッド・オフ!」

 

光の掛け声と共に、セクサーギャルがCコマンダーとサーバル号に分離。

Cコマンダーはそのままアター号の方めがけて飛ぶ。

そして。

 

「ユナイテッド・フォーメーション!」


光の掛け声と共に、Cコマンダーの合体プログラムが起動。

股間のジョイントを展開し、その姿を合体形態へと変える。

 

「ちぇいーんじっ!セクサースイマああーーっ!!」 

 

アター号の後部が展開し、そこにCコマンダーが突っ込む。

 

「はぁぁん♡」

 

同時に、突き上げられるように、アター号上部が変形し、ふっくらぽっちゃりした女のような上半身を形作る。

続いて、白い饅頭を思わせる下半身が変形。人魚のような形状のマリンモードの姿を取る。

 

「あああっ♡あっ♡」

 

最後に蛇腹状の腕と、スクリューから 爪(クロー) の付いたアームが延び、合体は完了する。

 

「「ひああああ~~~っ♡♡」」

 

二人の快感と共に、鯨のように大海原を行く緑のセクサー・セクサースイマーへの合体が完了した。

 

 

ざぶぅん、と、モジョーズの背後に現れるセクサースイマー。

 

PALOッ!?

 

驚くモジョーズを、セクサースイマーは蛇腹のような腕を伸ばして締め上げ、拘束した。

 

「ここじゃ危ないから!海の中に来てもらうよ!」

 

港とその付近の民家への被害を考慮した朋恵は、モジョーズをセクサースイマーのパワーで海中へと引きずり込む。

 

PALO?!PALOLULOLO!?

 

拘束から逃れようともがくモジョーズだがセクサースイマーのパワーは破れず、そのまま二体は海底に到達した。

 

ぼふぅ、と海底の沙を煙のように巻き上げて降り立つセクサースイマー。

 

「ようし、ここでいいか!」

 

朋恵がレバーを倒す。

するとどうだろうか、セクサースイマーの下半身が人魚のようなマリンモードから変わってゆく。

 

尾とヒレが引っ込み、代わりに四足のようなキャタピラが展開する。

 

「朋恵さん、何故ランドモードを?」

 

光の言う通り、これは「ランドモード」と呼ばれる、セクサースイマーの陸上での形態。

本来は海から上陸してきた相手の追跡や、緊急で陸上で戦わなければならなくなった時に使う形態だ。

今はそのどちらでもない。

なら、何故この姿を取るのか。

 

「ちょっと、試してみたいワザがあるんだぁ」

「試してみたいワザ?」

「しっかり捕まっててね!いっくよ~~っ!!」

 

なんと、セクサースイマーがモジョーズを捕らえたまま、ジャイアントスイングのように回転し始めた。

 

PALOLOLUUUUッッ!?

「な、何をやってるんですか朋恵さん?!」

 

振動や、平衡感覚の崩れをある程度遮断するコックピットにいる光と朋恵は特に影響はない。

ランドモードにより身体が地面に固定されているので尚更だ。

 

しかし、今振り回されているモジョーズはそうはいかない。

回転によって渦潮が発生し、その海流により、身体が引きちぎらせそうになっている。

 

そして。

 

「食らえ!必殺・六甲竜巻落としーー!!」

 

渦潮の海流に乗せるよう、上に向けて、力一杯にぶん投げた!

 

PALOOOOOO!!

 

海上に打ち上げられるモジョーズの大きく開いた口。

そこに向けて、トドメの一撃。

 

「今だ!ビッグバスターミサイル!」

 

セクサースイマーの大きな胸は、バスターアンカー四発分の威力を持つ「ビッグバスターミサイル」。

その片方が撃ち出され、モジョーズの口に向けて飛ぶ。

 

 

………鬼性獣の体表は、 スイット(尖兵) の犠牲によって得られた人類の軍事データにより、核ですら傷つかない強固さを誇る。

だがこのモジョーズに限っては、通常兵器で破る方法があった。

 

それは、冷却のために口の中に存在しているエネルギーコアを攻撃する事 。

 

 

ズワオ!

 

 

最大の弱点に、最大の破壊力を持つおっぱいミサイルによる授乳を味わい、モジョーズは内側から弾け飛ぶ形で、チャベス湾に四散した。

 

「………六甲竜巻落とし?」

「こないだ準ちゃんに見せてもらった漫画に出てきたの!かっこいいでしょ~?」

 

勝利を誇り大きな胸と腹を張る朋恵を前に、「ただ力一杯投げてるだけじゃん」とは突っ込めなくなった、光なのだった。

 

 

 

………………

 

 

 

とりあえず、アメリカでの戦闘は終わった。

爆撃に晒された街では消火活動が始まり、研究所は破壊を免れた。セクサー量産計画も無事続行できそうだ。

 

そんな研究所の前に立つ、セクサーロボとニッポリエース。

そして相対する、二組のチーム。

 

不安そうに見守る光達とコナードの前で、互いのチームの代表として、涼子とビリーが前に出た。

 

「その………すまんかった、あんた達の事よく知らないからって、あんな態度取っちまって」

 

先に、涼子が頭を下げた。

当人達にとってはあくまで愛し合っているだけなのに、まるで珍獣でも見るような態度を取ってしまった事を。

 

「こちらこそ、変な意地を張って無礼を働いた事を許して欲しい………それに、俺としても、ちょっとやりすぎたよ、アレは」

 

続いて、ビリーも頭を下げた。

異性ですら人前でキスをしない相手国の事情も考えず、勝手に見下されたと思い込み、無礼な態度を取ってしまった事を。

 

「これで、お互いおあいこだな」

「そうだな」

「なら、握手だ!」

 

続いて、涼子は開いた手を差し出した。

 

「仲直りの意味と、これからヨロシクという意思を込めて!」

「………ああ!」

 

両者の手が固く結ばれる。

性別も、人種も、性癖すらも違う。

しかし、誰かを愛する心と、自由の為に戦う正義は同じなのだ。

 

「さて!仲直りも済んだ事だし、ディナーでも行きますか!」

「いいわねぇ!」

「やったー!」

「二大スーパーロボットチームの和解と、これからの友情を祝って!」

 

リチャードの域な計らいに、沸き立つ両チーム。

 

「ディナーといっても何処行くんですか?イタリアン?」

「大人数で食べるんだ、ここは豪快に肉料理でもどうかな?」

「それなら、自分が新日暮里のいい店知ってますよ大統領!」

「フッフー!夜は焼き肉っしょー!」

「もー、涼子さんそれ何ですかー?」

 

笑い合いながら、親睦を深める両チーム。

 

今ここに、セクサーロボとニッポリエース。

二大スーパーロボットチームの間に、国境と性癖を越えた固い絆が結ばれたのであった。

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