第十五話「がんばれ朋恵!セクサースイマー参上」
しばらくして意識が覚めた時、光は後頭部に痛みを感じた。
恐らく、頭をぶつけて気絶していたのだろう。
「ここは………?」
正面モニターに魚の姿が映った時、光は何があったかを思い出した。
「そうだ!僕は鬼性獣に………」
記憶を生理し、何があったかを順に思い出す。
大道ビーチに現れたギンスダンとセクサーで戦い、分離した所を捕まって海の底に引きずり込まれた。
Cコマンダーの半身にギンスダンの触手が巻ついている。
当のギンスダンは動かない。
眠っているのだろうか。
「くそっ………!」
なんとか、Cコマンダーで触手を破ろうとする。
が、Cコマンダーがいくら力んでも、ギンスダンの触手はびくともしない。
当然だ。
Cコマンダー単体では、セクサーロボに合体している状態の半分の力も発揮できないのだから。
「ダメか………!」
ヒロイジェッター二機に潜水能力は無く、ここまでは来れない。
苦虫を噛み潰したような顔で、光は自らの無力さを呪う。
一人では何もできないではないか、と。
このまま、Cコマンダーの空気が尽きて窒息するのを待つだけか。
光が諦めかけた、その時。
──ドワッ!
突如、ギンスダンの頭が爆発した。
否、何かがギンスダンの頭に当たり、爆発したのだ。
POGYY?!
叩き起こされ、何事か?!と言うように吠えるギンスダン。
その睨む先には。
「あっ!」
光にも見えた。
無謀にもギンスダンに攻撃を浴びせた、その姿が。
それは戦闘機でありながら潜水艇としての能力も備えた、唯一のヒロイジェッター。
カブトガニを思わせる白い下部と、その上についた操縦席と深緑の一対のスクリューを持つ姿は、ホバークラフトを彷彿させる。
適合者がいないハズのヒロイジェッター・アター号だ。
「アター号!誰が動かして………」
パイロットもいない機体が動き、自分の前に現れた。
光は、パイロットを確認するべく、すぐさまアター号に通信を繋げる。
そして、通信用のサブモニターに映った物。
それは………。
『ふえぇぇ~~~~っ!?』
「うぇええ~~~~っ!?」
尻であった。
ぶりんぶりんに実った、女の尻であった。
サブモニターいっぱいに広がる、むっちりした競泳水着のお尻の部分。
カメラに押し付けられたそれは、水風船かスライムのようにむにゅんむにゅんと動いている。
「え?!何!?え………えええ?!」
光は困惑する。
ピンチにパイロットがいない機体が駆けつけたかと思うと、そのパイロットが通信機に自分の尻を押し付ける変態だったのだから。
困惑しない訳がない。
『落ち着け光!そいつは味方だ!』
「涼子さん!?た、大変です!アター号に変態が!!」
聞き慣れた涼子からの通信に安堵したのか、光は通信機の向こうの涼子に助けを求める。
『変態じゃねえよ!そいつは朋恵だ!ほら!』
涼子の言う朋恵という名前を聞き、光は少し考える。
そして数秒の間の後に。
「………ああ!」
思い出した。ビーチで出会った彼女だ、と。
………………
「ふぇええ~~!これどうなってるの~~?!」
光を救いたいから協力しろ、と涼子に言われ、アター号に乗った朋恵。
しかし、操作を間違いアター号を急速発進させたのが原因でひっくり返り、この様である。
さっきのミサイルも、じたばたしていて偶然撃ったもの。
『落ち着いてください!操縦棹を握って!』
「ふ、ふぇ?」
尻の方から響いた光の声に、少し落ち着きを取り戻した朋恵が、のそのそと体制を変える。
まるで寝返りをうつアザラシのよう。
「え、えっと、みーくん?」
『はい?』
「光だから、みーくん」
『はぁ………』
こんな時もマイペースというか、呑気に自分のあだ名を決める朋恵に、ただただため息を吐く光。
ある意味では、肝が座っているともいえるが。
「で、私はどうしたらいいの?みーくん」
『Cコマンダーでアター号のシステムを掌握して鬼性獣をロックオンさせます、そちらはもう一度ミサイルを撃ってください』
普段、こう言われて涼子なら「まかせな!」、準なら「わかったわ」と返す事に慣れていた。
しかし、朋恵はというと。
「………ふぇ?」
何を言っているの?と言うように頭にハテナマークをうかべて首をかしげていた。
『………えっと、とりあえず僕が合図したら操縦棹の左のボタンを押してください』
「ああ!そういう!」
ポン!と手を叩いて理解した朋恵を前に、光は、こんなんで大丈夫だろうか………と、苦笑するしかなかった。
彼女、思った以上に頭はあまりよくないようだ。
POGYY!!
だがそんな二人の事など知らぬ、と言わんばかりに光線を浴びせ続けるギンスダン。
降りかかる光の雨の中を、光の外部からの操作で駆け抜けてゆくアター号。
「ふええ?!」
ぐわんぐわんと動き回り、当たるスレスレを光線が駆け抜けて行く中、朋恵が泣き叫ぶ。
たとえ攻撃が当たらなくても、状況は絶叫マシーンに乗っているのと同じだ。
そして。
『今です!』
「にゅ?!」
光の合図が聞こえた。
咄嗟に、朋恵はがっちり握りしめていた操縦棹の左のボタンを押す。
ズワォ!とアター号からミサイルが射出される。
ミサイルは光線と光線の僅な間を走り抜け、ギンスダンの目に見事着弾。
POGYYAAAAAA?!
悲痛の叫びをあげるギンスダン。
その瞬間、Cコマンダーを捕らえていた触手が緩んだ。
「今だ!」
目を覆い悶えるギンスダンを他所に、Cコマンダーが触手から脱出。
アター号と並ぶ。
「………朋恵さん」
『にゅ?』
きょとんとする朋恵を前に、申し訳なさそうな光。
Cコマンダーとアター号が鬼性獣を前にして、有利に戦うには何をすればならないか。
光はそれを知っている。故にこの、無垢な朋恵を前にして罪悪感を浮かべていた。
「先に、謝っておきます」
『何を?』
「とにかく………ごめんなさいっ!」
罪悪感を押し潰し、レバーを倒す。
『ふええ?!』
アター号がズオ!と上昇し、後部が展開する。
Cコマンダーからの外部コントロールにより、合体システムが起動しているのだ。
「ユナイテッド・フォーメーション!」
その背後から、合体形態となり迫るCコマンダー。
そして。
「チェンジ!セクサースイマー!!」
『きゃああ?!かま掘るどー!?』
Cコマンダーが、アター号の後部から突っ込んだ。
そして!
「んひゃああああ?!」
生まれて初めて味わう感覚に、朋恵は悶絶し、頭が真っ白になる。
まるで、見えない何かに触られているような。
「お、お腹はらめぇぇ………ああっ♡」
特に、そのお肉の詰まったお腹を。
快楽が彼女の身体を駆け巡り、その内に熱いモノを感じさせる。
そして。
「………気持ちいい♡」
朋恵は、押し寄せる快感の中、その実りに実ったお肉を震わせて、意識を快感に委ねるのであった………。
………………
海中に現れた“それ”は、今までのセクサーロボとは似ても似つかぬ姿をしていた。
POGYY………?
視界が回復し、睨むギンスダンの視線の先には、人型とは大きく離れたシルエット。
「マリンモード」と呼ばれるアター号下部が変化した下半身はスクリューと尾びれがつき、まるでクジラのよう。
曲線を主体とした上半身は人型だがずんぐりむっくりしており、カラーリングも合間って競泳水着を着ているよう。
頭部にはツインテールのような一対のスクリューと、そこから伸びるクロー付きのアーム。
鯨のように海原をゆく水中戦特価型の機体。
これぞ、セクサーギャル、セクサーヴィランに続く最大のパワーと火力を持った要塞セクサーロボ「セクサースイマー」だ。
POGYAAAAAA!
再びビームを浴びせるギンスダン。
対するセクサースイマーは、水中に浮かんだまま動かない。
初合体時のワイズマン現象により、メインパイロットの朋恵が意識を失っているのだ。
しかし、ギンスダンがいくらビームを浴びせようとセクサースイマーにはダメージが通らない。
「このセクサースイマーは、地底や深海の圧力に耐えられるよう作られてるんだ!そんなビームぐらいで!」
唯一動ける光の言う通り、セクサースイマーは水中だけでなく、地底といった高圧力がかかる場所でも力を発揮する。
故に、それに耐える装甲を持ち、防御力もかなりの物なのだ。
そして間もなく、ワイズマン現象が終わりセクサースイマーの炉心に火が入る。
「よし、行くぞ………」
光がレバーを倒そうとした、その時。
「うりゃあ!」
「へっ?!」
光が操作するよりも早く、セクサースイマーが動いた。
「くらえ~~っ!」
POGYY?!
重厚な装甲でビームを弾き、ギンスダンにズワ!とクローの一撃を浴びせる。
重い一撃を受けたギンスダンは、そのまま吹き飛ばされ海底の岩に激突。
セクサーロボに合体している間は、Cコマンダーよりもヒロイジェッターからの操作が優先される。
この時は、アター号の操作が。
「………まさか」
この時アター号のコックピットにいるのは、他でもない来栖間朋恵その人。
「朋恵さんが動かしてるの?!」
「えへへ~まぁね~」
驚く光に、誉められて照れる子供のように反す朋恵。
「合体した時にぃ、動かし方がわかったんだよ~」
「解ったって………」
「とっても気持ちよくなってぇ、その時に頭にビビビ!って~」
まさか、あの時の精神感応の時に操縦法方を覚えたとでもいうのか。
これも、ゼリンツ線の力によるものか。
「さぁ~てもっぱつぅ!」
ギンスダンに迫撃をかけんとセクサースイマーがクローを構える。
「待ってください!」
「ほぇ?」
直後、光が朋恵を制止した。
「どったのぉみーくん?」
「あれ見てください!鬼性獣の胸!」
ギンスダンの胸の発光体。
そこには、捕らえられた人々が人質として捕らわれている。
「ありゃ!」
「人質ですよ、なんて卑怯な!」
今攻撃すれば彼等も無事では済まされない。
故に、セクサースイマーは手も足も出せない。
POGYAAA!
それを知ってか、ギンスダンが触手を伸ばし、セクサースイマーを不意討ちの形で捕らえた。
「まずっ!」
「うわ~?!」
セクサースイマーのパワーならここから投げ飛ばす事もできる。
しかし、発光体に閉じ込められた人質の事を考えると、どうもできない。
「くううっ………!」
POGYGYGYGY!!
ギンスダンが嘲笑うように鳴きながら瞳に光を溜める。
より強力なビームでセクサースイマーを撃ち抜くつもりだ。
ここまでか。
………POG?!
しかし、ギンスダンの瞳がビームを放つ事は無かった。
まるで金縛りに逢ったかのようにギンスダンが固まったのだ。
「えっ?何が………」
何が起こったのか理解できない光。
しかし朋恵は違う。長い間海と関わり続ける中で身に付けたその身体能力で、その「音」を聞いていた。
「これは………この「唄」は!」
耳を済ませば聞こえる、ピューイという機械音のような「歌声」。
その正体は。
「あっ!」
そして、光も気付いた。
自分達の頭上。ギンスダンを取り囲むように泳ぐ、その群れに。
「イルカだ!」
イルカの群れだ。
近海に生息しているイルカの群れ、その全てが集結し、ギンスダンの頭上を旋回するように泳いでいた。
その数、約千頭。
その中には、あの時助けた白イルカの赤ちゃんもいる。
まるで、光と朋恵を助けに来たかのように、小さな身体で必死に泳いでいる。
PO………GYY………!
イルカの声を聞く度に、頭を抱えて苦しみ悶えるギンスダン。
………イルカがコウモリのように、超音波を放つ動物なのは有名な話。
そして、鬼性獣の持つ電子頭脳等の中枢パーツには妨害電波等をシャットアウトする為の機能がある。
が、ギンスダンは不完全な状態で覚醒した為、シャットアウト機能付いていない。
そこに、千頭弱のイルカが一斉に超音波を浴びせれば、どうなるか。
POGYOOOO?!
頭部がスパークし、小さな爆発が全身で起こる。
千頭弱のイルカの放った超音波は強烈な妨害音波となり、ギンスダンの中枢を次々と破壊する。
そして。
「あっ!」
ギンスダンの胸の発光体が、爆発のショックで外れ、海上に上がってゆく。
これで、ギンスダンを守る人質が居なくなった。
「これで攻撃できる!朋恵さん!」
「うりゃあああ~~~~っ!!」
触手を腕で掴み、セクサースイマーがギンスダンを振り回す。
そしてハンマー投げの要領で投げ飛ばし、岩場にズワォ!と叩きつける。
PO………GYY………!
最後の足掻きか、逃走を試みるギンスダンだが、無関係な人間を人質に取るような悪党をみすみす逃がすセクサーロボではない。
「朋恵さん!トドメを!」
「ういしゅ!スクリューミサイルッ!!」
セクサースイマーのスクリューに内蔵されたミサイルがドワォ!と発射された。
ミサイルは逃走するギンスダンにあっという間に追い付く。
そして。
POGYUGYAAAAAAAAA!!!!
ギンスダンの体表を突き破り、内部で大爆発を起こす。
それは中枢の爆発により不安定になったエネルギーに誘爆。
あっという間にギンスダンの身体は爆発四散。海の藻屑と消えた。
「やったあ!」
セクサースイマーの雄々しき姿を讃えるように、イルカ達のカカカカという歌声が海に響いた………。
………………
『なるほど、そんな事が………』
戦いを終え、陸に戻った光は、携帯で五月雨に今回の戦いで起こった事を報告していた。
背後では、ギンスダンの発光体に取り込まれた人々の救助が行われている。
幸いにも死者は0人。例のシャメスタ女達も無事だ。
「やはり、ゼリンツ線による物なのでしょうか」
『イルカが人間を助けた事案は少なくない、とはいえこれほどの規模は聞いた事はない、実に興味深い………』
一介の科学者としてやはり心が踊るのか、電話の向こうの五月雨は少し嬉しそうだ。
『………それはそうとしてだな、問題は彼女だろう』
光が顔をあげると、そこには佐江と対峙する朋恵の姿。
アター号、及びセクサースイマーの適正を持った朋恵がセクサーチームに加入してくれるなら万々歳だ。
しかし、元々無理を言って仕事をさせてもらっていた身として、転職するのではいやめますでは済まされない。
「あ………あの………」
どう話を切り出せばいいか、足りない頭で必死に考える朋恵。
そんな朋恵に対し、佐江は。
「………いいよ、行っといで」
「ふぇっ?」
朋恵の気持ちを読み取ったのか、仕方ないなと言うように笑った。
「あなたがそうしたいなら、ただの雇い主に止める権利は無いよ、でも、たまに帰って来て土産話でも聞かせて頂戴よ?」
「さ、佐江さん………」
涙ぐみ、ずずずと鼻をすする朋恵。
そして今までの感謝を全身全霊で表すように、深々と頭を下げる。
「いままでありがとうございましたっ!」
「こちらこそ、お疲れ様っ」
恩師とも呼べる佐江との別れの挨拶を済ませ、朋恵が光達の方へ駆け寄ってくる。
ドスドスと擬音が聞こえてきそうだが、どこか可愛らしい。
「来栖間朋恵16歳っ!セクサーチームのみなさま!よろしくおねがいします!」
先程のように頭を下げる朋恵。
「こちらこそよろしくな、朋恵!」
ヤンキー故か、後輩ができて嬉しそうな涼子。
このまま、ようやく三人のパイロットが揃ったぞと終わるのが普通だが、残念、これは「セクサーロボ!」だ。
「………あなた、それでいいの?」
「あ?」
受かれる涼子に釘を指すように、不機嫌そうな準が一言。
「いいって、何がだよ」
「その子、アター号で合体したのよね?」
「そうだな」
「つまり、私達みたいに気持ちよくなったって事よね?」
「そうだ………あっ!」
ここまで言われてようやく気付いた涼子。
すかさず、朋恵の方を見る。
そこには。
「みーくんちっちゃいねぇ~、かわいい~♡」
「や、やめてくださいよぉ………っ」
子犬を抱く子供のように、光を抱き上げてその柔肉の揺りかごで愛でる朋恵。
直感で「ヤツも光に夢中」だという事が解った涼子の顔が、喜びから一転してワナワナと強張ってゆく。
「ら、ライバルが増えた………ッ!」
悔しさと切なさと危機感を感じる涼子の事も知らず、朋恵は光を撫で続ける。
波の音が、涼子を哀れむように響いていた………。
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