第十四話「浮上!海の鬼性獣」

「何ですって?培養中の鬼性獣が暴走した?」

 

首相官邸にて、部下からの報告に対し神野が不機嫌そうな顔をする。

 

「はい、大道ビーチ近海の極秘基地で培養されていた、試作型鬼性獣が暴走、海水浴客を襲っている、と………」

 

数秒考えた後、神野が出した答え。

それは。

 

「培養率は?」

「確認した所、75%と」

「なら放置しなさい」

「はい………?」

 

既に姿を現してしまった以上、隠蔽する事はできない。

しかし海底の培養施設を見られた訳ではない以上、それまでの鬼性獣のように「謎の巨大生物」で済ませる事が出来る。

 

「完全培養は完了してないのでしょう?なら、数日で細胞が壊れて死に至るハズ、後はいつものように情報操作と、海底の培養施設の処分、やっておきなさい」

 

めんどくさい事をさせるな。

と、言うように部下に指令を伝えると、神野はその場をスタスタ歩いて去ってゆく。

 

神野にとって、自国民を襲う鬼性獣よりも、女性の為の政策………という名の侵略者の手伝いのための会議の方が大事なのだ。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

POGYAAAAA!!

 

海を切り裂き、現れる巨体。

悪魔を思わせる顔に、右手の鉄球と左手の斧。

胸と額には、ホタルイカを思わせる発光体。

腰から下は、先端が三つに別れたコードか血管を思わせる無数の触手で構成されている。

 

この鬼性獣は「ギンスダン」という名をつけられていた。

本来なら、大道ビーチ近海に設けられた海底の極秘施設で培養を終え、セクサーロボとの戦いに導入されるはずであった。

 

しかし、機動実験の最中に暴走を起こし、施設を破壊して逃亡。

この大道ビーチにその姿を現した。

 

そしてこのギンスダンには恐ろしい能力があった。

それは。

 

「わああ!?」

「放せ!放せーッ!」

「嫌だー!死にたくないー!!」

 

海中から伸ばしたら触手で人々を捕らえ、取り込む。

そう、このギンスダン、あろう事か人間を取り込む事が出来るのだ。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

大道ビーチに出現したギンスダン。

当然、離れた場所にいる光達にもその姿は見えていた。

 

「ちっ!鬼性獣め、こんな所にまで!!」

 

このまま海水浴を、延いては光との岩影ビーチ野外プレイを楽しむつもりであった涼子。

そこに現れた鬼性獣を前に、怒りを露にする。

 

「研究所には連絡を入れたわ、直ぐにヒロイジェッターとCコマンダーが到着するそうよ!」

 

準もまた、海水浴と光とのめくるめく一夜を楽しむつもりだった所を、鬼性獣という邪魔物が入った形となった。

その表情には、涼子ほどはっきりではないものの、怒りが浮かんでいる。

 

「っしゃあ!あのタコ人魚を酢ダコにして光との夜のための精力剤にしたらぁ!」

「一人だけ抜け駆け?!させないわよ!!」

 

こんな時でも言い合いをしながら駆けてゆく涼子と準。

光も続こうとするが。

 

「………おっと!」

 

立ち止まり、朋恵と佐江の方に一言。

 

「二人は他のお客さんの避難誘導をお願いしまーす!」

 

そう言い残し、光は走り去る。

 

「そ、そうね!まずは避難誘導!」

 

光の一言で、ギンスダンを前に唖然としていた佐江が我を取り戻した。

 

「さ、行くよ朋恵ちゃん!」

「う、あ、はい!」


避難誘導のため、朋恵を伴って駆けてゆく佐江。

 

この時、朋恵の脳裏には、何故か光の事が浮かんでいた。

あの時、自分でも怖かったシャメスタ女達やその彼氏達に対し、平然と立ち向かおうとした姿。

自分より小さい上に、きっと自分より怖かったに違いないのに、自分の為に声をあげた姿。

 

「 (………なんだろ………この感じ………) 」

 

初めて感じる、胸を締め付けられるような感覚に、今の朋恵はただ悶々とするしかなかった。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

逃げ遅れた海水浴客を次々と吸収してゆくギンスダン。

タコのように触手をうねらせ、逃げた客を追って上陸しようとする。

そこに。

 

「させるかよぉ!」

 

ギンスダンの顔面に直撃するミサイル。

前方より迫る、サーバル号によるものだ。

その後ろからは、オウル号とCコマンダーが続く。

 

コックピットには、着替える暇が無かったために水着のままの涼子の姿。

 

「セクサーギャルに合体して、奴を丘から引き離す!行くぜ光!」

『は、はい!』

 

褐色の巨乳をばるんっ、と揺らしながら涼子がレバーを倒す。

 

三機を捕らえんとするギンスダンの触手を掻い潜り、ヒロイジェッターとCコマンダーはギンスダンの背後に回った。

 

そして。

 

 

「ユナイテッド・フォーメーション!」

 

光の掛け声と共に、Cコマンダーの合体プログラムが起動。

合体用のジョイントを展開し、その姿を合体形態へと変える。

 

「チェェーーンジッ!!セクサァーーギャァァルッ!!」

 

そして涼子の咆哮と共にサーバル号の各部が展開。

Cコマンダーと重なり、それぞれの大事な所が連結する。

 

「くぅっ………♡」


腕が飛び出し、足が飛び出す。

ボディとバストが、ぶるるんっ!と展開し、形作られる。

 

「かはぁっ………♡♡」

 

サーバル号の機首が頭部に変形し、最後に腰に半重力マントがはためき、合体が完了する。

 

「「あああぁぁ~~~っ♡♡♡」」

 

二人の快感と共に、虎のように大地を駆ける黒きセクサー・セクサーギャルへの合体が完了した。

 

 

 

ズン!と降り立つセクサーギャル。

 

舞い上がった海水が雨のように落ち、対峙するセクサーギャルとギンスダンを濡らす。

 

POGYAAAAA!!

 

セクサーギャルを捕らえんとギンスダンが触手を伸ばす。

それを。

 

「よいしょ!」

POGYY?!

 

逆にセクサーギャルの腕が掴み、地引網のように沖に向けて引っ張り始めた。

どんどん、ギンスダンが沖合いに引っ張られてゆく。

 

『この辺りでいいでしょう』

「よし、そんじゃあブン投げてやるぜ!!」

 

セクサーギャルが触手を持つ手を振り上げ、巴投げの要領でギンスダンを沖の方に投げ捨てた。

 

頭から海に突っ込み、グロッキー状態のボクサーのようにヨロヨロと立ち上がろうとするギンスダン。

攻撃のチャンスは今だ、と、セクサーギャルが拳を構え、畳み掛けようと突撃する。

 

『待ってください!』

 

だが、そこに光の制止が入った。

 

「どうしたんだよ光?!あのタコ人魚をヤるには絶好の………」

『鬼性獣の胸を見てください!』

 

ゆっくり立ち上がるギンスダン。

その胸に不気味に輝く発光体。

そこに涼子が見た物、それは………。

 

「………人だ!?」

 

発光体の中に、人が囚われていた。

上陸時に触手で吸収された人々が、磔にされるように発光体の中に捕らえられていたのだ。

しかも生きた、ままだ。

 

「なんだよアレ、人質のつもりか?!」

『さっきCコマンダーでも解析してみたんですが、あそこにいるのは正真正銘本物です!中で生かされてるんです!』

「クソッ!」

 

攻撃すれば、発光体に囚われている人質が危ない。

このままでは攻撃できないと、セクサーギャルが動きを止めた、その時。

 

POGYAAAAA!

 

隙あり、とセクサーギャル向けてギンスダンが触手を伸ばした。

セクサーギャルを捕らえるつもりだろう。

 

PO………GYY?!

 

しかし、横から飛んできた一撃が、ギンスダンの触手を弾き飛ばした。

痛みに悶えるギンスダンを背に悠々と飛ぶのは、機首のドリルを回転させているヒロイジェッター・オウル号。

 

『光くん聞こえる?』

「準さん!」

 

コックピットに座るのは、当然水着姿の準。

スリングショットで強調された、下からのアングルがいやらしい。

 

『そのままじゃ不利よ、一度合体を解いて、セクサーヴィランに合体して!』

「はぁ?!」

 

準の提案に異議を唱えたのは、案の定涼子であった。

 

「どういうつもりだよオバサン!」

『セクサーギャルと貴女の戦闘スタイルがあの敵には向かないって話よ、セクサーヴィランなら上手く人質だけを切り取れるわ』

 

確かに、力任せに戦うだけの涼子とセクサーヴィランに比べれば、準とセクサーヴィランの方がそういう事には向いている。

納得がいかなそうな涼子ではあったが、ここは仕方がない、と意を決する。

 

「仕方ねえ………光!」

『はい!ユナイテッド・オフ!』

 

光の掛け声と共に、セクサーギャルがCコマンダーとサーバル号の状態に分離。

空に舞い上がった。 

 

下がったサーバル号に代わってオウル号が入り、セクサーヴィランに合体しようとした、その時。

 

POGYAAAAA!!

「うわああ?!」

 

その一瞬を突き、水中から射出されるように飛び出したギンスダンの触手が、Cコマンダーに襲いかかる。

 

「光ッ?!」

「光くんッ!?」

 

ほんの一瞬で、Cコマンダーはギンスダンの触手に絡め取られてしまった。

 

「は、なせぇぇ………っ!」

 

必死に引きちぎろうとするが、Cコマンダーのパワーでは身動きすら取れない。

 

POGYUGYUGYUGYU!

 

もがけばもがくほど、触手が絡まってくる。

嘲笑うようにギンスダンが吠えた。

 

「こんにゃろーーーーッ!!」

「光くんを放せーーーッ!!」

 

囚われたCコマンダーを救出せんと、サーバル号とオウル号が迫る。

ギンスダン向けて、其々のミサイルとバルカンが放たれた。

 

POGYUGYUGYU!

 

しかし、ヒロイジェッターの武装では鬼性獣の皮膚を破るには至らない。

嘲笑うような声をあげながら、ギンスダンはCコマンダー共々海中へと消えてゆく。

 

「やめろーーっ!光を連れていくなぁぁーーー!!」

 

涼子の悲痛の叫びも虚しく、Cコマンダーとギンスダンが波を立てて海中に潜ってゆく。

二機のヒロイジェッターには水中を行くための機能はない。

追跡は、不可能。

 

「そんな………」

「………畜生がッ!!」

 

苦渋の表情を浮かべる涼子と準。

その眼下で海は、どこまでも残酷に波を立てていた。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

大道ビーチ近隣の林に、二機のヒロイジェッターが着陸している。

一度作戦を練る事と、燃料の節約のためだ。

その周囲をラッキースター小隊のケーオンが二機、警備するように立っている。

残りの二機は、ギンスダンがいつ海中から現れても平気なように、海岸の警備。

まるで、安易な基地のよう。

 

 

「つまり、光は無事なんだな?!」

『ああ、Cコマンダーの反応はあの鬼性獣と一緒に近海に留まったままだ、破壊されたなんて事は無いだろう』

「よかったあ………」

 

携帯越しによる五月雨からの通信を聞き、涼子と準は安堵していた。

曰くCコマンダーにはある程度水中で活動する為の機能があり、センサーに映る反応もロストしていない。

その為、まだ光は水中で生存しているとの事だ。

 

「でも、Cコマンダー内の空気だって何時までもあるわけではないわ、どうにか水中に向かえないかしら………」

『ウウム………』

 

だが準の言う通り、Cコマンダー内の空気にも限りがある。

問題の先延ばしが出来ただけで、根本的には解決していない。

ギンスダンも、気まぐれでCコマンダーを破壊しないとも言えない。

 

まったく、どうしたものか。

と、涼子と準、そして携帯の向こうの五月雨博士が頭を抱えていた、その時。

 

「きゃふぅ?!」

「!」

 

すってーん!と、茂みの向こうから何かが飛び出して………否、倒れてきた。

驚き、振り向いた涼子と準の眼前に倒れていたもの、それは。

 

「あ………あんたは?!」

「あたた………」

 

そこに倒れていたのは、なんと来栖間朋恵その人。

会った当初と違い、競泳水着の上からパーカーを羽織っている。

 

「うう………ふええっ!?」

 

自身が石につまづいて倒れた為に、涼子と準に見つかってしまった。

その事に気付いた朋恵は、思わずその巨体を飛び上がらせた。

 

「ちちちち違うんです~!飛行機が気になってついてきたとかじゃなくて、その、偶然といいますか、あの、とりあえず命だけはお助けを~~!!」

 

ペコペコと頭を下げて、必死に弁明する朋恵。

 

 

実を言うと、朋恵がここにいるのは本当に偶然である。

 

避難誘導を終えた後に、朋恵は安心からか急に尿意を催した。

ビーチにある公衆トイレは、今はギンスダン再出現の恐れがあるからビーチ自体が封鎖されており、向かえない。

仕方なく、人目のつかない茂みで済ます事にしたのだが、そこにヒロイジェッターやケーオンが降りてきてしまった。

 

そして出るに出られず、出る物も出せず、せめて距離を取ろうとして転倒し、今に至る。

 

 

 

とはいえセクサーロボは、そのネジ一本に至るまで存在そのものが最高機密。

パイロットを見られた以上、殺しこそはしないがタダで返す訳にはいかない。

 

「い、いや、安心しろ、殺しはしねぇけど………」

 

イロモンGOに内蔵された記憶消去装置を使おうと、涼子がポシェットに仕舞ったイロモンGOを取り出した。

 

「………んん?」

 

しかし、涼子は装置を起動しない。

イロモンGOの起動画面を見つめたまま、唸って固まってしまった。

 

「………どうしたの?」

「いやさ、これ」

「………あっ!」

 

準も、イロモンGOの画面を覗き、驚愕する。

 

そこには眼前にいる朋恵の、セクサーロボ・パイロット適性率が表示されていた。

 

適性率は86%。

 

涼子や準ほどではないが、セクサーロボを動かすには十分な数値だ。

 

「………博士」

『どうした?涼子』

 

陸のセクサーギャル。

空のセクサーヴィラン。

 

両方、水中での活動には適さない。

だが、最後の一機なら。

海中での戦いのために作られた、アター号なら。

 

「アター号を出してくれ、光を助ける為にはこれに賭けるしかない!」

 

きょとん、とする朋恵の眼前で、涼子のその一言が響くのであった。

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