第十二話「セクサーチーム、ビーチに参上す」

海の女の朝は早い。

 

その日も、40年も海に潜り続けてきた海女の一人「佐江(さえ)」は、日も昇らぬうちから海にやってきた。

 

潜る為ではない。

この後、日が昇った後に海に潜る後輩たちの為の準備や、密漁目的でやってくる連中を見張る為だ。

 

「………んん?」

 

ふと、海の方で何かが動いた気がした。

この時間、海には観光客も海女もいない。

地元の漁師も、まだ漁に出ていない。

 

なら、そこにいるのは。

 

「誰!?そこで何をしているの!!」

 

密漁者がいたかと思い、佐江は海の方に向けて声を荒げた。

すると。

 

「………へ?」

 

突如、海面が盛り上がる。

まるで海面に上がってくるクジラのように、海の中から2mほどの巨大な影が現れた。

 

「え………ええ?!」

 

驚き、戸惑う佐江の眼前で、その巨体は砂浜の方に歩いてくる。

そう、佐江の方に近づいてきたのだ。

 

「で………でか………?!」

 

自身を見下ろす巨大な人影を前に、混乱する佐江。

しばらくすると、その巨体は佐江に向けて、のんびりとした口調で話し出した。

 

 

「………あのぉ、ここで海女さんの仕事やらせてもらえるって聞いたのですけどぉ………」

 

 

後に佐江はこう語っている。

巨体に似合わぬ若い女の声を聞いて、まるで海坊主が人魚の声帯で喋っているようであった、と。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

さて、時は8月後半。

まばばゆい日差しが降り注ぐ、絶好の真夏日。

人々は家族や恋人と最後の夏の思い出を作ろうと、山に、海に、地方に出掛けてゆく。

 

そしてここは、海水浴場の一つとして知られる「大道ビーチ」。

 

 

「………あつい」

 

パラソルの下、光は一面の青空を見つめ、呟く。

トランクス型の海パンにアロハシャツを羽織った典型的な海水浴スタイルなのだが、

インドア特有の細い手足と焼けてない肌でそんな格好をしているのは、見ようによっては豚に真珠的シュールさを醸し出している。

 

そして手元には、以前も持っていたセクサーロボ適合者探索装置・イロモンGO。

 

そう、彼は遊びに来ているのではない。

セクサーチームとしての仕事をしに来ているのだ。

 

 

セクサーロボの外装を形成するヒロイジェッターは三機存在している。

陸戦に特化し、バランスの取れたセクサーギャルを形成するサーバル号。

空中戦に特化し、スピードに優れたセクサーヴィランを形成するオウル号。

 

そして、海中戦闘に特化した形態を担当する三機目。ヒロイジェッター「アター号」である。

 

空に対応する鬼性獣・ウゾーマが現れた事から見るに、スティンクホーも鬼性獣に局地戦に特化したバリエーションを持たせてきたと取れる。

ならば、一刻も早くアター号の適性者を見つけ出し、セクサーロボの性能をフルで発揮できるようにしなければならない。

 

そして、そのパイロット探しのためにこうしてイロモンGOを片手に、この大道ビーチにやってきた、という訳だ。

 

 

 

しかし、事前の調査で大道ビーチに適性者がいると聞いた毒島が、光達にわざわざ水着を買いに行かせた事を思いだし、光はぼやく。

 

「………研究所の人達は仕事させる気あるのかな?」

 

以前街に繰り出した時も思ったのだが、これでは仕事ではなく単なる海水浴ではないか?と。

 

普段父親から「仕事とは辛い事を耐えるもの」だと口を酸っぱくして言われている光からすれば、違和感しか感じない。

もっとも、父親のいう辛く苦しい「仕事」をやりたいかと言えばそうでもないが。

 

そんな事を考えながら、パラソルの元で海を楽しむ人々を見つめていた、その時。

 

「「おおお~~っ!!」」

 

突如、男達の歓声と驚きの声が響く。

まさか、と振り向く光。

 

 「………わぁっ?!」

 

視線の先にいる「彼女」に、思わずギョッとしてしまう。

 

そう、光は「セクサーチーム」の仕事で来ている。

なら、当然「彼女」もそこにいて当然である。

 

 

一歩歩けば、ビーチの男達が皆振り替える。

ある者は見とれ、またある者は自分の隣の彼女と見比べ、酷く落胆する。

 

一昔前のグラビアアイドル──今は王慢党や女性団体の監視・外圧が厳しく、巨乳アイドル等はデビューさえさせてもらえない──さえ真っ青になるような、引き締まりつつもムチっとした、目映い小麦色のアメリカン・モデル体型。

そこに、褐色肌をより引き立たせる白いビキニで包んだその姿は、まさに鬼に金棒状態の最強コンボ。

 

「悪ぃ悪ぃ、着替えるのに時間かかっちまってよ~?」

 

軽く笑いながら、涼子が光の右隣に腰かける。

動く度に、たゆん、ゆさっ、と揺れる、白ビキニのに包まれたこんがり柔肉。

 

思わず見とれてしまうも、光は目をそらす。

それを見て、ニヤリと笑う涼子。

 

勘違いや無自覚ではない。

この女、故意に光を誘惑しているのだ。

 

「………なぁ光ぅ?」

「な、なんです?」

 

胸をむにぃぃっと強調させ、姿勢を低くしての上目遣いで涼子が迫る。

 

「折角海に来たんだろ?泳ごうぜ………あっちの岩影あたりでさ?」

「えっ?!」

 

人気の少ない岩影を指して涼子が言う。

多くの海水浴イベントにて、人影のない岩影で男女が向かう事が何を隠喩するか、ナニとは言わないが未経験の光でも解る。

そして無論、涼子はナニとは言わないがナニをするつもりである。

 

「いや、でも涼子さん………」

「いーのいーの!」

「ひゃああっ………!」

 

光の腕に手を絡ませ、胸をむにぃ♡と押し付ける涼子。

赤面する光を前に、してやったりな笑顔の涼子。

 

さあ、後は岩影に誘い込んで早速一戦交えるぞという、その時に。

 

「「おおおっ!!」」

「ん?」

「あっ!」

 

別方向から巻き起こる歓声。

今度はなんだ、と光と涼子が振り向くと、そこには。

 

「まったく、誘惑の仕方がなってないわね、下品極まりないわ」

 

ビーチの男達の視線を涼子以上に独り占めにするこの女。

涼子の逞しさと柔らかさの混同とは別の魅力を持った、スレンダー体型に美乳が映える、彫刻のような美しい女体。

雪のように白い肌を覆うのは、俗にスリングショットと呼ばれる、黒いV字状のマイクロビキニの一種。

 

メガネの代わりにサングラスをかけてはいるが、彼女はまさしく………

 

「準さん!」

「ハァイ、光くん♡」

 

南原準、その人である。

 

あの後、五月雨研究所に連れ帰られた準は、研究所での精密検査の結果セクサーヴィランに98%適合している事が発覚した。

だが、当然あんな大暴走を引き起こした準をセクサーチームに加入させる事に研究所内の反発はあった。

しかし、他の適合者が見つからない以上、準に乗ってもらうしかない。

 

そこで、監視の為の発信器と暴走時のための睡眠薬注射器を内蔵したチョーカーをつける事を条件に、セクサーチームに加入する事になったのだ。

 

 

「あんだよ“オバサン”、仕事はどーしたんだよ」

「休職届を出したのよ“お嬢ちゃん”、このご時世女の休職届は断れないから、私が居なくなって今頃てんやわんやでしょうね」

 

さも当然のように光の隣に腰かける準に解りやすい敵対心を燃やす涼子。

対する準も、小馬鹿にして見下すような視線を涼子に浴びせている。

 

光を挟んだ二人の間に、バチバチと火花が散っていた。

 

 

涼子も、準の加入に反対した一人である。

あの大暴走に居合わせ、なおかつ止めた人物として「あんな人物と光を一緒に戦わせる訳にはいかない」という理由からだった。

 

そして、今は。

 

 

「ねぇ光くぅん、お願いがあるんだけどぉ………?」

「ひゃああっ?!」

 

準は光の手を取り、あろう事か自信の乳房に揉ませるように押し付けた。

これに対し、涼子はついに怒りを露らにした。

 

「はぁー?!自分で下品とか言っておいてやってる事はむしろアタシより酷くねぇか!?」

「直接セックスに持ち込もうとするよりはマシよ、何事もシチュエーションと手順が大事なんだから」

 

………あの事件の後、準は光と二度も精神感応を交わした事から、

なんという事か光に「ヤミツキ」になってしまったのだ。

 

長年押さえつけられていた女としての本能を解放してくれたというのもあるが、最大の理由は光が身体の小さな美少年だった事だろう。

 

深層意識下で燻っていた「かよわい美少年を一方的に“攻め”たい」という欲望を叶えてくれる光に、準は夢中になっていた。

 

「ねぇ準くん………サンオイル塗ってくれないかなぁ~?」

「さ、サンオイル……?」

「一人じゃ塗れない所があって………頼めるかしらぁ?」

「はわ、わわわ………!」

 

これ見よがしに、準はむにゅうむにゅうと己が乳房を光に揉ませる。

赤面しあわあわと慌てる光を前に、準は満面のしたり顔。

 

「こ………こんのクソババァ………ッ!」

 

しかし、光を横取りされた状態になった涼子にとってこれは面白くない。

顔を真っ赤にして怒る姿は、今にも「ピィー」というヤカンの音が聞こえてきそうだ。

 

 

………涼子が準の加入に反対の理由が、最近ひとつ増えた。

そう、今まで自分が独り占めしていた光を、横取りされたからである。

 

 

「………光ぅー!」

「わぶっ?!」

 

負けるものか、と涼子が光の手に抱きつき、再び乳房をむにむにぃ♡と押し付ける。

 

「アタシにもさぁ、サンオイル塗って貰いたいんだけど………♡」

「りょ、涼子さんも?!」

「なぁ、頼むよ光ぅ♡」

「元より真っ黒なのに今更サンオイル塗っても無意味だと思うのだけど?」

「るっせぇクソババァ!!」

 

光を挟み、涼子と準の言い合いが始まった。

 

「大体自分の齢考えろよな?テメーと光が並んでも夏休みに遊びに来た親子にしか見えねーっつーの!シチュエーションも糞もあるかよ!」

「あら、貴女こそ体格差的にインドアの息子を連れ回しているギャルママにしか見えないわよ?大体貴女の暴力的なやり方よりも私のように優しくしてもらった方が………」

「へっ!今まで喪女だったくせによく言うぜ!そのゾンビみてーな肌が全てを物語ってんだよ白豚!」

「はぁ?!あんたみたいなする事しか脳にない尻軽ビッチに言われたくないわよこの黒豚!」

「んだとババァ~!」

「なんですって小娘ェ~!」

 

流石は女同士の口喧嘩、いやセクサーチーム同士の口喧嘩か。

今にも互いに飛びかかって血みどろキャットファイトが始まりそう。

 

 

………さて、おそらく読者諸君の多くは「光死ね、氏ねじゃなくて死ね」「こんな優柔不断なクソガキは鬼性獣に食い殺されて涼子と準が百合ればいい、誰も傷つかない優しい世界!」と思っている事だろう。

 

解らなくはない。

仮にも美少女ヒロインである二人が口汚く罵り合う姿なんて見たくはないだろうし、その原因の男にヘイトが飛ぶのはごく自然な事。

 

しかし、残念ながらそんな展開にはならない。なる訳がない。

その理由は三つある。

 

一つは、この物語において光が主人公である事。

一つは、この作品がハーレムラブコメである事。

 

そして何より、この作品が「セクサーロボ!」だからである。

 

 

「なら、勝負よ!」

「何ィ?!」

 

準がその一声と共に手元のバッグから取り出したのは、市販のサンオイル。

街のお洒落なお店で買った、そこそこの値段がする代物だ。

 

「このサンオイルを自身の体を使って光くんの身体に塗りたくって、気持ちよくさせた方が勝ちなんてどう?!」

「準さん貴女何を言うとるのですか ?!」

 

準は、あろう事か光を使って決着をつけようと言い出した。

対する涼子はというと。

 

「なるほどヌルヌル対決か………面白ぇ!乗ったぜ!!」

「涼子さーん?!」

 

あっさり、了承した。

しない訳がなかった。

ナニとは言わないがソレは涼子の専売特許なのだから。

 

「そぉ………れっ!」

「ひゃあああ!」

 

最初に、涼子が光に飛びかかった。

胸と腹にサンオイルを塗りたくり、抱き合うような体制で光にそのスイカのような巨乳をむにゅううう♡♡と押し付けたのだ。

 

「どうだぁ~?光ぅ♡オイルでヌルヌルして気持ちいいだろ~~?」

「ひぅぅ………♡」

 

にゅるにゅるむにぃ♡と与えられる柔らかく、前面の性感帯を一気に攻められるような感覚に、爆発しそうなくらい赤面する光。

 

涼子によって与えられる快感に溺れる間もなく、

 

「ねぇ~ん♡お姉さんの方が気持ちいいでしょ~?………光くぅん♡♡」

「ひゃあああ♡♡」

 

今度は背面から同じようにオイルを塗りたくった準が襲いかかってきた。

自慢の美乳を背中に押し付け、上に下にと攻め立てる。

おまけに耳元で囁かれたりしたなら、大抵の男は耐えられない。

 

「それそれぇ♡もっと気持ちよくしてやるからな♡」

「どぉ~お?気持ちいいでしょ光くぅん♡」

 

前面と後面、視覚聴覚嗅覚全てを使っての快感が光に襲いかかる。

視界を覆う乳の山脈と、絶えず耳に浴びせられる甘くいやらしい囁き。

 

「あっ♡あっ♡ああっ♡」

 

快感の渦の中で、光の意識はかき回され、強く怒張する。

そして。

 

「ひゃあああああ♡♡♡」

 

ずぼばぁ!


白い砂浜に、鮮血が飛んだ。

与えられるエロスに耐えられなくなった光が、鼻血を噴射したのだ。


「………きゅ~」


そのまま光はパサリと倒れ、意識を失う。


「ちょ!?光!おい!」

「光君!?しっかりして!」


意識を失った光を前に慌てる二人と、目を回して鼻血を垂らす光。


波の音が、静かに響いていた。

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